本編再開

第72話 お菓子と小鳥ちゃん


「…」ウツラウツラ…


「「…」」


「…」カックンカックン…


「…コウ?」


「ふぁ!?いやいや寝てないですよ!」


「いや、9割寝てたよ…」


ここはろっじの一室であり、コウが寝泊まりしている部屋。机には分厚い本、広げられた問題集、答えの書いたノート、動物図鑑


只今コウはお勉強中。…なのだが、さっきからペンもページも一ミリも進んでいない


時計というものがあれば、時刻は夜中の2時を回っているだろう。彼はもう夜行性でもなんでもなく、生活サイクルは人とそう変わらない。つまりもう寝てもおかしくない時間である


そして彼は今とてつもなく眠そうにしている。ここ数日徹夜で勉強、からの早起きをしていたのだが、流石にここらで限界がきたようだ


何故こんなことになっているのかというと、オイナリサマからのお告げである。先日失礼なことを呟いてしまった為に怒らせてしまい、罰として色々な勉強をした後、山のような問題集を出されてしまった


もっとキツイお仕置きが待っていると感じた彼は、自分を追い込むかのように問題集を解いていた。今日なんかはずっと机に向かっている。執事の(ような)仕事もやっていない


それを心配したキングコブラがタイリクオオカミに彼のことを話し、二人でオイナリサマに相談した所、止めてやってくれ、とお願いされた。どうやら彼女もそこまで追い込む気はなかったようだ


そして今日はまだ明かりがついていたので、早速二人が様子を見に来た所、彼は睡魔と戦っていた。最も、ほぼ負けている状態だったが


「オイナリサマが言っていたよ、そこまでやらなくていいって。毎日少しずつでいいってさ」


「ほんと…?」


「本当だ。だからもう寝ろ」


「うん…ねる…おやすみ…」


眠気によって知能がガクンと下がっているのか、子供のような返答をして布団に潜り数秒足らずでコウは寝た。その寝顔をオオカミがスケッチしようとしてキングコブラが止めた


「しかし…全然分からないな、これ」


「英語…というらしいね。ヒトはこんな文字も使っていたんだね。色々ありすぎるのも困ると思うんだけど」


「コウでも苦戦するものか…。こいつも大変だな……ん?」


二人が広げられた問題集を見ていると、毛色の違うとある一冊の本を見つけた。二人はパラパラとページをめくっていく


「これは…お菓子のレシピ本…?」






────────────────────





「こんにちは。ようこそ、ろっじアリツカへ」


「こんにちはー!ジャパリまん食べたいでーす!」

「パフィンちゃん、さっき半分こしたじゃないですかー」

「また食べたくなっちゃったんです。エトピリカちゃんは違うんですかー?」

「それはそうですけどー」


お昼頃にろっじを訪れたのは、ニシツノメドリ、通称パフィンとエトピリカ。来て早々ジャパリまんをねだっている


「いいですよ、はいどうぞ?」


「「ありがとうございますー!」」


おねだり作戦が成功した


「お部屋を案内しますね。何処がいいですか?」


「パフィンちゃん『ふわふわ』がいいでーす!」

「エトピリカたんも一緒がいいですー!」


どうやら同じ部屋に泊まるようだ。アリツカゲラの後ろをついていきながら、ここまで来た経緯を話していく


パフィンとエトピリカはよくみずべちほーで遊んでいる。そこでブラックジャガーに会い、とあるフレンズがろっじに向かっていることを聞き、折角だから会いに行こう、ということになったそうだ


「パフィンちゃん達、ろっじを探索してもいいですかー?」


「ぜひゆっくりしていってください!」


「「はーい!」」


部屋に案内された後、トトト…とパフィンとエトピリカは仲良く歩いていく。廊下の角を曲がったと同時くらいに、オオカミとキリンがやってきた


「お疲れ様、アリツさん。今のは」

「待って下さい!私が推理しt」

「パフィンさんとエトピリカさんですよ」


キリンの推理はキャンセルされた。本人もただ探偵ごっこがしたかっただけなので特に気にしていない様子。軽く挨拶をして、オオカミはいつもの場所でギロギロを描き、キリンはそれを見学するようだ


「そういえば、キングコブラさんはどこですか?」


「コウがまた何か作るらしいから、彼女はそれを見ているよ」


「あっ、コウさん起きたんですね。今回は何を作るのでしょうか?」


彼はここにいる間にカレー以外のものも作っている。どれも美味しく頂いていたので、三人の期待値は高くなっていた


「きっと今回も美味しいものに違いないわ!だから出来るまで私達は待ってましょう!!」


キリンの言いたいことをなんとなく察したアリツカゲラとオオカミは、『多分何もないだろう…』という予想を立てていた


「では、私はこれで」


仕事に戻るアリツカゲラに手を振って、二人はギロギロに意識を向ける。そんな中、オオカミは厨房にいる二人を思い浮かべた。キリンの推理は大抵当たらないが、何かが起こらないかなと少し期待していたのだった







おはようございます、どうもコウです。起きた時間をラッキーさんに聞いたらなんとお昼過ぎてました。完全に寝坊した。学校なんてなくてよかった。いや勉強はあるしキツイんだけどさ


今俺がいるのは厨房。目の前にあるのは、なぜか山盛りのジャガイモ。かごから溢れているくらい多い。誰だ発注ミスをしたのは。そんなにコロッケ食べたい?サラダもいいか?


しかし、今日作るのはそれらではない。ここにあるのはお菓子のレシピ本。そしてジャガイモ…そこから導き出される答えは…!



「『ポテトチップス』というのを作るのか?」


「…はい、そうです」



答えをバラされてしまった。まぁ誰かに言うことでもないんだけども。てかなんで知ってるんですかキングコブラさん?まだ俺ページ開いてないんですけど


皮を剥いて、芽を取って、ある程度の大きさに切って、水につけて。こうして自分で作るとは思わなかったけど、息抜きで作ってみたくなったのだ


「ほう…それで薄く切るのか」


キングコブラさんが興味を示したのはスライサー。ジャガイモがどんどん薄く切られていくのが面白いのかマジマジと見ている。手を大きく動かすと、それにつられて彼女も少しゆらゆら揺れる。面白い


「次は油であげていきます」


熱した油にジャガイモを投入。中々いい音がなっている。あまり近づかないようにね、間違って触ったりしたら危ないから


「不思議なものだ。ここまで薄くして食べようとするとは」


「確か…出したものを、『厚く切りすぎだ!』って怒られたから、『ならめっちゃ薄く切ってやるわ!』って嫌がらせっぽくやったら好評で、そこから広まった…って感じだった記憶があります」


「なるほど…何が受けるのか分からないものだな」


その通りだ。まぁ実際食べやすくてお手軽だから、皆からも愛されているお菓子なんだと思うんだよね


一通り揚げ終わったけど、このままじゃ味なんて殆んどないから塩をまぶす。これで『うすしお』味の完成だ。本当はコンソメ味を作りたかったがないので仕方ない。今度ラッキーさんに頼んで持ってきてもらおう



「こっちからいい匂いがしますー!」

「おいしそーな匂いでーす!」



おっとなんだなんだ?二人の女の子の声がする…と思ったら直ぐに姿を現した。二人ともトリのフレンズかな?


「君達は?」


「パフィンちゃんでーす!」

「エトピリカたんですー!遊びにきましたー!」


なんかちっちゃくて元気な二人だ。話を聞くと友達に会いに来たとか。誰だろ?


「これはなんですかー?」


「これはポテトチップス。おやつの時間が近いから作ったんだよ」


「凄く薄いですねー」

「…あれ?これと似たようなもの、エトピリカたん見たことあるよーな…」



……ん?



「それパフィンちゃんも思いましたー!もしかしてあの時のじゃないですかー?」

「あっ!そうです!あの時のですー!」


「これ、見たことあるの?」


「パフィンちゃん達、前に森で遊んでいた時、ちっちゃいセルリアンが何かをひっくり返しているのを見たんです」

「それで、これと似たような絵が描いてあるものが見えたんですけど、セルリアンがそれとか他のとか食べ始めたんですー」


…まさか、あの時か!?食べ物がなくなっていたのはセルリアンのせいだったとは…。味覚ないのにもったいないことしやがって…!


「隙だらけだったから倒したんですけど、食べ物は半分残ったジャパリまん以外はダメになっちゃってて…」

「いつの間にか本もなくなっちゃってて…。他のは大丈夫だったので元に戻したんです。本当は落とした子に渡したかったんですけどー…」


「…大きなセルリアンがいたから、急いでそこから離れた…かな?」


「「えっ?なんで分かったんですか?」」


「俺も近くにいたし、それは俺のだったからね」


「「ええっ!?」」


不思議には思っていた。なんで比較的綺麗に残っていたのか。そうか、この子達のおかげだったんだ


「あの後無事に回収できたよ。本はこの前見つかったし、食べ物はこうやって作ればいい。君達は俺の恩人だ。本当にありがとう」


暗い顔をしていた二人の頭を撫でながら言うと安心したのか、パァッ!と明るい顔に戻った。この子達も届けられなくて悔しかったのだろう。教えられて良かった


「お礼と言ったらなんだけど、これよかったら食べてみてよ」


「いいんですか!?パフィンちゃん食べたいでーす!」


と言いつつ食べかけのジャパリまんを手に持っている。それ食べてからね…と思ったら即食べた。そしてキラキラとした眼で見てくる


「味見もしてほしいしね。はい」


そこまで熱くはなくなったので、一枚とって彼女に渡す。手に持った感想も欲しい──



「いただきまーす!」パリッ!



──食べた。俺がまだ手に持っている状態で



「ふわぁ…!おいしーでーす!」


「エトピリカたんにもくださいー!」


「…うん、じゃあこれを手に持って…」


「いただきますー!」パリッ!


「……」


「お~!初めての食感!おいしーですー!」



なんで二人とも手に取らないん?まるで『あ~ん』みたいな感じになったじゃないか。いやそんなつもりはお互いないんだけどさ


「…コウ、私もいいか?」


「えっ?別にいいですよ。どうぞ?」


キングコブラさんもあ~ん…じゃなく、自分で一枚取ってパリパリと食べ始めた(よかった)。ちゃっかり少し大きめのを選んでいるのが何かかわいい


「…凄いな、食べやすくて上手い!料理するとここまで変わるのか!」


カレーやコロッケとはまた違うジャガイモの可能性。味も丁度よさげみたい。喜んでもらえてよかった


ジャガイモを更にスライス。お客さんが来ているのなら多めでも問題ない。折角だからいっぱい作ってしまおう。この子達なら食べてくれそうだし。残ったら保存すればOK


「お前は食べないのか?」


「俺は後でいいですよ。もう少し追加で作りますしね」


少し作業をやめて食べればいいんだけど、そこまでして直ぐに食べたい訳じゃないしね。残った分だけでもいいし


「作った本人の感想があった方がいいだろ。こっちを向け」


「…ゑ?」


彼女は手に取ったポテトチップスを、振り向いた俺のポカンと開いた口元に運んで──



「んむ…っ」パリッ…モグモグ…



──ニッと笑って、俺の口に放り込んだ


「どうだ?」


「…おいしい…です…」


「ああ、お前が作ったんだから間違いない」


何故か得意気に言う彼女。待って、今の何?


「もっと食べたいでーす!」

「パフィンちゃん、なくなっちゃいますよー?」

「どれくらい食べても大丈夫なんだ?」

「…あっ、えと、半分くらいなら」


やったー!とパフィンさんとエトピリカさんがパリパリ食べ始め、キングコブラさんも遠慮がちに食べ始める。俺はジャガイモをスライスしながら、先程起きたことを考える


恐らく…いや絶対彼女は意識なんてしなかっただろう。だからこの行為に深い意味はない。だけど、こうも不意討ちだと調子が狂ってしまう


「…なんか、複雑な味」ボソッ


しょっぱいんだか甘いんだかよく分からない味だったが、特に嫌な気分ではなかったのは確かだった




*




「皆さんよかったら…って」

「久しぶり、コウ」

「お久しぶりです」

「ルターさんにルビーさん。お久しぶりですね」


こうやってじっくり話すのはサバンナでのセルリアン騒動以来か。ライブの時にゆっくり話せたフレンズは何だかんだ殆んどいない。ジャングルの四人くらいか?


オオカミさんが手に持っているのはギロギロ。ということはさっきまで読み聞かせをしていたみたいだ


「あー!ルターさんにルビーさん!」

「パフィンじゃないか!久しぶりだね!」

「お元気そうで何よりです!」


友達に会いに来た、と言っていたけどこの二人のことだったのか。エトピリカさんも加わってワイワイ話している。話をする時にはおやつは付き物。という訳で…


「皆さん、いっぱいあるから、遠慮なく食べちゃってください」


テーブルにポテトチップスを広げ、紅茶を用意して。唐突に始まった軽いお茶会。新しい話や思い出話で花が咲く。おかわりを出しつつ、懐かしい気分を味わいながら、俺はこの空間を満喫した









因みに予備で置いといたチップスはパフィンさんが食べつくした。本人曰く『やめられない、とまらないでーす!』とのこと。それ違うお菓子なんだわ。今度挑戦してみるね

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