第48-②話 -異変と彼と異世界と-
「このセルリアンが生まれた経緯を語るにあたって重要なことがある。『異世界』…これについて話そう」
【異世界】
その名の通り、こことは違う世界。時代、技術、住人、常識…あらゆるものが違う可能性すらある、まさに夢のような世界だ。そしてそれは、普通だったら決して交わることのないものなのだが…
「コウは異世界から来たんだよな?」
ジャイアント先輩の言葉に対して頷くと、皆がこちらを向く。信じられないと言わんばかりの顔をしている子もいる。当たり前だ、いきなりそんなことを聞かされて納得できる訳がない
「…だから、帰るための手段に船がなかったんですね」
ただ、ジェーンさんは冷静に分析していた。一緒に資料を探していた時に疑問に思っていたようだ。なかなか鋭くてこっちが驚いたよ
「その力も異世界のものなのか?」
「そうですね、これは貰いものですが」
「貰いもの?それはどういう…」
「…それについては後で話しますね」
今はあまり関係なさそうな話になるだろうからね。それに言わなくちゃいけないタイミングがあるだろうし
「かつてパークには、異世界から来た者がいた。それは…」
「『ケロロ小隊』と『多脚戦車』…ですな?議長」
「…その通りだ(議長?)」
二つのワードにヤタガラスさんは驚きながらも頷く。俺は資料のページをめくり、テーブルの上へ広げ、指差しながら話す
「この二つは、俺がいた世界だと漫画…おとぎ話の登場人物なんです。この世界ではどうかは分かりませんが…」
「そやつらはパークを知っていたが、そやつらの情報はパークにはなかった。そして、小隊は宇宙から、戦車はパークの外から来た…と、表向きはそうなっているが実際には違う。なぜなら、小隊が言っていた『日向家』や、戦車が言っていた『公安9課』はこの世界にはないからのう」
日向家や公安9課は、物語に登場する架空のもので、パークの外にないのは俺の世界と同じ。日向家については該当する人がいなかったため分かったのだろう
「それともう一つ。彼等は私達とは違う時代で生きていたのです」
「時代が違うとは一体…?」
「最初にケロロ小隊が来て、その約3ヶ月後に多脚戦車が来たの。そのはずなのに、その二つの時代は数十年の開きがあったし、紡いできた歴史もこの世界とは違っていたのよ」
「時代は多脚戦車は未来、ケロロ小隊はこの世界に近いが、該当する人物や物はパークの外にはない。これらが、異世界から来たという証明だ」
「なるほど…」
なぜこの二つの世界から訪れたのかは知らないが、確かなのは今後もこの様なことが起きる可能性もあるということだ。いや、もしかしたらもう何処かの世界で交差しているかもしれない。平行世界ってやつだ。夢のようだけどね
「そして、ここからが本題だ」
ヤタガラスさんはコップに入った水をぐいっと飲み、一呼吸おき話を続ける
「例の異変と呼ばれているものよりほんの少し前に起きた、パークの歴史から消した異変…『幻想異変』とでも呼ぼうか、それについて話そう」
幻想異変…消した…?それって隠蔽ってことか?そこまでしなければいけなかったこと…穏やかじゃない。フレンズがそんな事をするはずがない。なら、人が何か起こしたのか?
「コウ、これは人のせいではありません。むしろ、人は全力を尽くしてくれました」
「…本当ですか?」
「はい。これは、色々なことが重なって起きたイレギュラーだったのです」
…そう言うのなら、そうなのだろう。そしてイレギュラーときたか。なんにせよ、ろくなことではなかったのだろう
「彼等が来た後、パークに次元の裂け目が出来ていたのです」
「次元の裂け目…?」
「そうです、空間がそこから途切れているかのような…『隙間』とでも言いましょうか。まるで、入ってしまうとここには戻れなくなるのではないか、というようなものでした」
「これは一部の人とフレンズしか知らないこと。唯でさえセルリアン騒ぎで大変なパーク。異世界への入口だと噂が広がればさらに混乱するだろう。そして、その予想は的中した」
的中したって…まさか、本当に…?
「三度目の、異世界からの来訪者でした。その隙間から出てきた女性は、私達と同じく不思議な力を持っていました。そんな彼女の髪の毛を取り込んだセルリアンと、とある情報をセルリアンが取り込み、再現した。それがこの幻想異変の始まりなのです」
「言っておくけど、そいつは本当に偶然迷いこんだのよ?隙間から放り出された感じだったし、異変解決に全力で協力してくれたから悪く思わないであげて。胡散臭かったけど」
「そうじゃな、胡散臭いという言葉が人の形をしたような奴だった」
「否定はしない」
「そうですね」
なんて評価だ。まるであの人のよう…
いや、やめておこう。嫌なことまで思い出してしまうから
「話を戻します。そのうちの一体はフレンズの情報…正確には、目の前でフレンズ化が完了する前の子を取り込み、再現したのです」
「何を再現したんですか?」
「貴方なら聞いたことがあるでしょう。空想上の生物で、特に有名な、危険な存在──『怪獣王 ゴジラ』です」
「かっ…!?」
怪獣王ゴジラ!?あの特撮映画の!?いやまずゴジラがフレンズ化しそうになったというのも信じられないんだけど!?あんな怪物がパークに現れたっていうのか…!?
「フレンズ化する途中の奴を取り込んだためか、再現した大きさは情報通りではなかった。それでも十分大きく、その力は神に匹敵する強大な力。なんとか倒したが被害は大きかった。そこに追い討ちをかけるように、二体目のセルリアンが現れたのだ。だが…」
4人は顔を見合わせ、記憶を照らし合わせるように見つめていた。そして頷き、それを口にする
「その異世界人が解決した。彼女は偶然現れた『隙間』にセルリアンと共に押し入り、このパークから消えたのだ」
消えた…元の世界に戻ったということか。サンドスターがあるのはこのジャパリパークだけ。セルリアンもサンドスターがなければ体を維持できないらしいから一石二鳥だったってわけだ
「…これに関しては不可解なこともあるのだが…それはいい。だが、異変はまだ終わっていなかった。今起こっているこの現象は、幻想異変の続きだ」
「続き…まさか…その時消えたセルリアンは…」
「そう、この現象を起こしているのと同じ奴だ。一ヶ月前に再び現れたのだ。その隙間と、異世界に追いやったはずの奴がな…」
嘘だろ…?なんでサンドスターの供給なしで存在が保てていたんだ?それに隙間がまた現れた?一体原因はなんだ?それに過去から…だからそいつの能力を細かく知っていたのか
「四神は何をしていたんだ?」
「彼女達は、例の異変の前兆を感じ取って途中で離れたわ。ただその時にサンドスターの情報を解析されてたみたい。だから石板を消そうとしているのだと思うわ」
石板…。さっきも出たけど、その異変の後には四神をも犠牲にするしかない事が起こっている。そして、今起こっている事が解決しないとそれすらも無意味になってしまうということだ
「結界でそいつを隔離した後、その隙間が見つかりました。そこで私達は、その隙間に力を込め、異世界へ助けを求めました。そして、来てくれたのが…」
「…俺だったと」
四人が頷く。俺で良かったのかは知らないが、解決するにはお誂え向きな人物ってわけだ。都合がいい人間とも言えるか…。そんなこと彼女達は思わないだろうけど、俺にはその評価の方が合っている
幻想異変。過去から今に続くこれは、思った以上に複雑な代物らしい…
「ここまで大丈夫か?」
確認タイム。またまた難しそうな顔をしているので要約
1つ:異世界というのがあるよ
2つ:そこから来た奴の力を取り込んだセルリアンが今これを起こしてるよ
3つ:俺も呼ばれてそこから来たよ
「こんな感じですかね、分かりましたか?」
はーい、と返事が返ってくる。かなりはしょったが彼女達に対してはこれくらいでいいと思う。俺はもっと良く聞きたいけど
…ヤタガラスさんが『また三行で…』と呟いたけど気にせずいきましょう
「ゴホン!…さて次は…コウ、そのほうについて教えてはくれぬか?」
皆が一斉にこちらを向く。ついにこの時が来た…んだけど…
「…ここまで難しい話が続きましたし、長くなりそうなので一旦休憩を挟みましょうか。果物があったので剥いてきますよ。皆はここで情報の整理でもしていてください」
「む…そうか。ではそうしよう。頼む」
─
調理場へ戻ってきて、彼は大きなため息をつきながら、大きくて甘そうなリンゴを剥いていく。しゃりしゃりという音が周りによく響いているが、彼の耳には殆ど入っていない。先程の情報を整理しつつも、考えることは違うことだった
(…俺のこと…か。正直あまり話したくはない…けど…)
苦い思い出が甦るが、大切なのはそこではなかった
(次元の裂け目…隙間…。あいつも言っていた…。まさか…いや、ありえない…)
不確定なことが浮かび表情が曇るが、頭をふり、普段通りの顔を作る。そこに…
「コウ、ちょっといいか?」
調理場へ来たのはキングコブラ。彼女もまた手伝いに来てくれたのだ
「さっきの話で、何か気になることがありました?」
「いや、それもあるんだが…私が聞きたいのは砂漠でのことだ」
彼女が気になったのはあの夜のこと。先程のヤマタノオロチとのやり取りで、彼が覚えていない、ということが嘘だと気づいたのだ。だからこそ、聞きたいことがあった
「どうして私の言ったことが、嘘と分かっていたのに何も言わなかったんだ?」
嘘だと知ったはずなのに、嘘をついたことに対して怒られても仕方ないはずなのに、コウが嘘をついてまで覚えていないふりを続けたことが分からなかったのだ
「俺のためについてくれたんですよね?ならそれで終わりでいいじゃないですか」
「真実を隠していたんだぞ?」
「嘘も方便、という言葉があります。時と場合によっては嘘も必要なんです。ありがとうございます、俺の体調を気遣ってくれて」
そう言って笑う彼に、彼女はフードを深く被って顔を隠す。嘘をついた理由まで見抜かれていたことに少し恥ずかしくなってしまった
「それに俺だって嘘をついているんですから、謝ることはないですよ?」
「…フフッ、それもそうだな」
「そこは否定してくださいよ…。…はい、剥き終わりました。運ぶの、手伝ってくれませんか?」
「ああ、任せろ」
お皿を持って横に並んで歩く。彼女の心のモヤモヤはもうなくなっていた
─
「お待たせしました」
果物を出すと一斉にかぶりつく。難しい話をしていたので糖分がほしいのか?俺も欲しいです
「俺の話ですね…といっても、どこからどこまで話せば良いのやら…」
「なら、その力をどうやって手にしたのか、聞かせてもらえないかしら?」
「…長くなりますけどいいですか?」
そう確認すると、全員が頷いた。なら話そう。ここまで来たんだ、もう誤魔化す必要も、逃げる必要もない。ただ、そのままのことを言えばいいだけ
「…分かりました。では先ず、俺のいた世界について話していきます」
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