短編集「ジユウチョウ」

青野 瀬樹斗

俺のチートスキルを受け継いだ娘達が反抗期になった


 気が付けば俺は辺り一面真っ白な空間に立っていた。


「え……ここ、どこだ?」


 さっきまで家に帰っている途中だったはず。

 なのに俺の視界には住宅地の塀も電柱も青い空も無く、ただひたすらに真っ白だった。


「こんにちわ、白谷しらたに優也ゆうやさん」


 戸惑っていると女の人の声が聞こえた。

 俺は声がした方に顔を向けると……。



 淡い桃色の髪に黄色の瞳、白く神々しさを感じさせる法衣を身に纏っているめっちゃ綺麗な女性だった。


 

 しかも普通の女性じゃなくて、背中になんかぼんやりと光を放っている翼があった。

 それだけで目の前の女性が普通の人間じゃないことは容易に察した。


 というかどう考えても女神様だよ。

 これもしかして異世界召喚じゃない?

 異世界に行って俺Tueeeeeeeしてハーレム作っちゃったりするやつじゃない?


 勝った。

 もうこの後女神様にチートスキルを貰ったら魔王でもなんでも倒せるわ。

 

「私は地球とは異なる世界<フォーテス>の女神、ルヴェネアと申します。突然お呼び立てして申し訳ありません……何分急を要する事態でしたので……」

「分かってますよ。魔王か魔神を倒せってことですよね?」


 予想通りだったことに歓喜しつつ、俺は女神様の言葉を先取りした。

 それが当たっていたのか、女神様はふわりと微笑んだ。


「あら、流石地球人の方ですね。お察しの通り女神である私と対の神である魔神ブラジャグオが<フォーテス>を我が物にしようと企んでいます」

「じゃあその魔神を――」

「そうする前に私が封印をしたのでどうにか直前の危機は免れました」

「あれ、じゃあなんで俺呼ばれたの!?」


 封印しちゃってるのかよ。

 それだと俺のすることなくない?


「ですが魔神ブラジャグオの力は強大……封印した程度では時間稼ぎにしかなりません」

「てことは完全にトドメを刺すために俺を呼んだってことですか?」

「正確にはトドメを刺す手段として優也さんの力が必要なのです」


 ほうほう、俺が異世界に行って未来のお嫁さん達を鍛えるとかかな?

 それはそれでありだな。


 ゆうしゃのおしごとだな。


「もちろん優也さんにはここにお呼び立てした時点で多種多様のスキルが目覚めていますよ」


 先に魔神を封印したり、スキルを目覚めさせてくれたり仕事が早いな女神様。


「今ここで見ても?」

「構いません。〝オープン〟と唱えて頂ければ自分がどのようなスキルを持っているのか確認することが出来ます」

「分かりました……〝オープン〟!!」


 女神様の言う通りに唱えると、俺の前に半透明なゲームのウィンドウみたいなのが浮かび上がってきた。


 

《シラタニ ユウヤ》

《???》

【神剣術】【神槍術】【神弓術】【神武術】【神魔術】【神聖術】【思考加速】【危機察知】【無詠唱】【魔力の源泉】【神闘気】【必中】【限界解放】【状態異常無効】……etc。


 なんか色々あった。

 多すぎて全部見るのを諦めるくらい大量にあった。


「す、すごいっすね……」

「ええ、地球人でも優也さん程の豊富なスキルの持ち主は誰一人としていません」

「マジすか」


 一握りとか片手で数えられるくらいとかじゃなくて唯一人、オンリーワンと来たか。


「こんな大量のチートスキルがあるなんて、なんだか自分が頼もしくなってきました」

「それは良かったです……それでは、肝心要の私のお願いをお話させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい。無茶ぶりもばっちこいです」

「ふふ、本当に頼もしいですね。では私のお願いなのですが……」


 女神様はそこで一旦言葉を区切った。

 

 そして何やら顔を赤らめ、体をもじもじと揺らし始めた。

 腕を前に回して指を絡めたり解いたり落ち着かない様子で……というか女神様めっちゃスタイルいいな。

 

 腕で寄せられた胸が柔らかさを主張するように大した力が入ってないのにぎゅむって潰れてる。

 

 さらに瞳も心無しか潤んでいて、俺をチラチラ見ていたり……。


 果たして女神様のお願いがどんなものなのか耳を傾ける。


 やがて決心がついたのか、女神様はその綺麗な口を開いて……。





「私との間に、子供を作って下さい!」

「はい喜んで!!!!!!!!」





 即答。

 当然だろう?

 こんな綺麗でスタイルの良い女神様と子作りなんだぞ?

 例え一発でストライクショット決められなくとも、童貞を捨てられるチャンスなんだ。

 速攻で乗るに決まってる。


 これを断れる奴は絶対ホモだね。

 

 俺の即答が信じられないのか、女神様はポカンとした表情を浮かべていた。

 

「……あの、あまり悩んでいないように思えるのですが、本当によろしいのでしょうか?」

「モチ」

「後悔しませんか?」

「むしろ断るほうが後悔しますね」

「そ、そうですか……」


 女神様はそこはかとなく嬉しそうだった。


 っふ、俺は女神様とは今が初対面だけど、女神様は俺を前々から見てくれていたってことだな。

 きっと俺が十六年生きて来てて彼女が出来なかったのは、女神様が俺を盗られまいと目を光らせていたからなんだな。


 ははは、お茶目で独占欲の強い女神様だ。

 ま、そんな女神様を堕としちゃう俺の隠れ主人公補正の勝ちってことかな?


「察するに俺と女神様の子供が魔神を倒す唯一の希望というわけですよね?」

「は、はい! 未来予知により、優也さんと私の間に出来た子供なら、容易に果たせるそうです」


 可能性とかじゃなくて容易にと来たか。

 なら尚更早いほうが良いだろう。


「さ、女神様。俺はいつでもいけますよ」

「ほ、本当にいいのですか?」

Of course当然……女神様が嫌じゃなければ……」

「い、いえ、こちらからお願いした立場です……嫌だなんて言うつもりはありません……!」


 そう言って女神様は俺にゆっくりと歩み寄ってきた。

 俺とゼロ距離になった女神様は、その豊かな双丘を俺の体に押し付け、意を決した目をした。


 ここで引いたら男じゃない。


 さぁ、このまま大人の階段を昇っt――。




「えい!」


 ――プチチチチッ!


「――ぃて?」


 ……?


 今何をされた?

 どうして女神様は俺の毛を五本くらい抜いたの?


「ふぅ、まさか簡単に許可を頂けるとは思いませんでしたが、これで魔神滅亡へ一歩進みました!」


 やり切った感を曝け出す女神様の表情は希望に満ちていたものだった。


 そうしてブツブツと何か唱えて、自分の髪を数本抜いて俺の髪と絡ませた。

 すると二人の髪は五つの光へと変わった。


「……え、あの、女神様? 俺と子供を作るんですよね?」

「はい、そうですよ?」

「俺の知ってる限りの知識でも子作りに髪の毛は必要なかった気がするんですけど?」

「ああ、流石に神であっても創造神ではない私が無から生命を作るのは不可能なので、こうして優也さんのDNAを含むものを媒介にする必要があるんです。私ったら思ってたよりスムーズに事が進んだのでそのあたりの説明が抜けてしまっていましたね。申し訳ありません」


 本当にうっかりだったのか、若干申し訳なさそうに苦笑いする女神様は可愛いらしく舌を突き出していた。


 へぇ~、最近の女神様は髪の毛から生命を作れるんだー……って。




「ちょっっっっっっと待てやあああああああああああああああああああああああ!!!?」




 ようやく頭の処理が追いついた俺は、あんまりな女神の行動に怒り叫んだ。


 ふざけんな!

 あんなあからさまに誘っておいて実は必要なかったとかなんだその新手の生き殺しは!?

  

 いや確かに子作りはするって言っても、S〇Xするとは言ってないけどね!?

 でもDNAを取って英雄を作るみたいな言い方もあったと思うんだ!


「髪の毛が欲しかったならなんでわざわざ胸を押し付けたんですか!?」

「あ、それは、優也さんの身長が高くて……」

「日本人らしからぬ186センチの現役バスケ部ですみませんでしたね!? でもその翼で浮かべばよかったんじゃないんですかあああ!?」

「ああ!?」

「今気付いたのかよ!?」


 一気にポンコツ感が増したけど大丈夫かこの女神!?

 

「じ、じゃあ目的の物は手に入ったんですし、俺は地球に帰れるんですね?」

「え、私達の子供を認知しないつもりなんですか?」


 暗に用が済んだなら早く帰りたいという俺の言葉に対して、女神は昼ドラチックなセリフを吐いてきた。


 神様が認知なんて言葉よく知ってますね。

 あ、神様だからか。

 

 それに人の髪の毛を媒介にするなんて人体錬成染みた子作りで産まれた子供を、私達の子供と言い張るか。 

 子供はまだまだ若輩者の俺よりどこかお金持ちの夫婦に子宝として授けてやったらどうだろうか? 


 絶対そっちのほうが幸せだぞ。


「そもそも帰ると言っても優也さんは私が召喚した時点で地球に居たという事実は消え失せていますよ?」

「めっちゃ重要な情報をサラッと打ち明けんな! てかマジで!? じゃあ俺、今地球に帰ったらどうなるの!?」

「家族だった人や友達だった人達に自分は白谷優也という妄言を吐く無戸籍の十六歳ですね」

「〝だった人達〟とか明らかに他人事みたいな言い方は止めて!?」

「すでに地球には新しい白谷優也さんが今も元気に過ごしていますよ」

「愛と勇気だけが友達なアンパンヒーローの顔みたいに代替えまで用意してんのかよ!?」


 封印とかと同じように退路を断つ準備も早すぎない?

 

「もしかして俺が子作りを断ったらその情報を開示するつもりだったんじゃないだろうな?」

「そそそそそ、そんなわけないじゃないですかー!? 断られたら地球に帰してましたし、お願いを受けてもらってから入れ替えたんですよー!?」  


 オーケー。

 コイツ絶対最初から退路断ってたな。


 初めから俺に選択肢はなかったわけだ。

 むしろコイツが魔神なんじゃないか?


「あ、あー! そろそろ私達の子供が産まれますよー! たのしみですねー!」


 女神はあからさまに話題を逸らしたが、実際彼女の言う通りいつの間にか光は人の……それこそ赤ちゃんぐらいの大きさになっていた。


 光が消えると、そこには本当に赤ちゃんがいた。

 しっかりと寝息を立てていることから生きていることもはっきりと分かった。


 しかも五つ子。

 うっすらと生えている髪の色がそれぞれ違うから、一卵性じゃなくて五卵性――いや、五毛性五生児だな。


 すごいなー。

 今どきの子供は髪の毛から生まれるんだー。


 違う。

 女神パワー的なやつで生まれたって言っても、元が髪の毛だってところで普通なら感動していたであろう我が子の誕生の感動にどうしても引っ掛かりを覚えてしまう。


「わぁ~、見て下さい。みんな可愛い女の子ですよ」

「母親が女神だからか?」

「かもしれませんね。何と言ってもどの異世界においても初の半人半神ですから!」

「髪の毛から生まれたって点も全世界初だろ」  


 地球の男と女神の髪の毛から半人半神の五つ子が生まれました。


 この一文だけみたらマジで意味わかんねえな。

 事情を知らない過去の俺に説明しても病院に行くことを勧められる自信があるわ。


「この子達が魔神を倒せるまで育つのにどのくらいかかるんだ?」


 いくら魔神を容易に倒せるって言っても、実際にどの年齢まで育てる必要があるのか知っておきたい。

 そう思って俺は女神に尋ねた。


「力だけなら既に魔神は倒せますが、そのコントロールを覚える必要がありますね……ざっと十四年くらいが妥当かと」

「そうなんだー。夜泣きで魔神を倒せるのかなー?」


 なおさら俺が召喚された意味よ。

 テキトーに時間を止めて俺の髪を持ってってもよかったんじゃないか?


「あ、見てください。この桃色髪の子が私の指を握りましたよ!」

「おー、ほんとだ」


 大人の指を掴むのがやっとな程の小さな手は、確かに女神の細い指を握っていた。


「ほら、優也さんも!」

「あ、ああ……」


 自分の指を緑髪の赤ちゃんの手元に恐る恐る近付けていく。


「あぅ~」


 ――ギュッ。


「!」


 俺の指を小さな手が握った。

 たったそれだけなのに、目の前のこの子達は確かに自分の娘達なのだと実感した。


「きゃっ!」


 衝動のままに左手でほっぺをつつくと、嬉しそうに笑いだした。


 嬉しそうにする自分の子供を見て考えが変わった。

 こんなに可愛い子達を置いて自分だけ安全な日本に帰るのは違う気がしてきた。。


 ……どうせもう地球に俺の居場所はないんだし、十六歳とはいえこの子達の父親になるほうがよっぽど有意義だろう。


「……ちゃんと育ててみますか」

「!」


 俺が子育て、ひいては異世界救済に乗り気な言葉を零すと、女神は目を見開いた。

 方法が方法だったから断られると思っていたのだろう。


 俺が前向きになったのが嬉しいのか、女神は子供達を魔法で浮かせて俺の前に持ってきた。


「さぁ、優也さん! 私達の子供に名前を付けてあげましょう!」


 かなり歪な形だし、正確には違うだろうけど一応妻子持ちとなった俺は、ちゃんとこの六人と向き合うことを決めた。


 なら夫として、父親として名づけは当然だろう。


「そうだな、じゃあ――」




 ~~~~~~~~~~~~~~




「――さ、……さん」


 何か声が聞こえて、沈んでいた意識が浮かび上がっていく。


「……んあ?」

「――父さん! 早く起きて!」

「んんおっ!!?」


 突如耳元で聞こえた大声に驚いて俺はベッドから床に落ちた。

  

「はぁ、何やってんの? ダサ」

「あ~、いっつつ、おはよう、モモカ」


 体を起こして声の主を見やる。

 桃色の長い髪をツインテールにして、勝ち気な青色の瞳は彼女の性格をよく表していて、まだ14歳なのにすっかり女性らしい体つきをしている。


 シラタニ・モモカ。

 女神テルヴェネアと俺の間に生まれた五つ子の長女だ。


 剣や槍といった近接系の武器の扱いを得意としていて、俺との模擬戦においては既に何度か負かされている程の実力がある。

 前衛である彼女の装いは白色のシャツに紺色のミニスカート、さらにスパッツを着用している。

 そんな格好で大丈夫なのかと問いたくなるが、上に軽めの革鎧とかを着けるから問題ないそうだ。


 まぁ、服の話はさておき、モモカの近接戦で支えているのは各種【神術】スキルはもちろん、【分離思考】というスキルのおかげだ。


【分離思考】は複数の思考を同時に可能とするスキルで、これの何が凄いのかというと、例えばAを考えながらBをするのは普通の人でも出来るけど、Aを考えながらBをしてCを予測してDの行動を起こすなんてハチャメチャな思考が出来るわけだ。


 俺が攻撃をすると、防御と攻撃を同時に考えられるから単純に2対1で戦っているような気分になる。


【分離思考】は指揮にも活かせるため、長女ということもあって五つ子の中ではリーダーとして努めている。


「ふん、早く支度してよ」


 モモカは俺が起きたのを確かめると、そそくさと部屋から出ていった。

 

 まだ若干寝ぼけている頭と体を動かして寝間着から衣服に着替える。


 昨日はクエストを終えて夕食を食ったらすぐに寝た分、体力はすっかり回復していた。


 俺は今30歳と人によってはおじさん扱いされても不思議ではない歳になった。

 娘達も14歳になったから当然と言えば当然なんだがな。


 2年前から俺と五つ子達は魔神が住みかとしている大陸へ向かいながら己を鍛えつつ旅をしている。

 

 彼女達は自分達が魔神を倒す宿命を背負っていることを知っている。

 なんせ五つ子達を育てる過程で魔神の配下から幾度となく襲撃を受けていたからだ。


 その度に俺が撃退していったが、魔神を倒すことを打ち明ける必要があった。


 そうして旅を始めて娘達はすっかり強くなった。

 小さい頃のように俺の後ろに隠れてビクビクするような子達じゃなくなった。


 そんな風に昔のことを思い返していると着替えを終えた。

 部屋を出て階段を降りる。

 途中で宿屋の女将が作ったであろう朝食の香りが俺の食欲をそそりだした。


 階段を降りて食堂を見渡すと、既に席について談笑しているモモカ達の姿が目に入った。


 みんな母親に似て美少女だからすごく目立つんだよな~。


「それでね~」

「まぁ、本当ですの?」

「ウケる……」

「それはなんとも奇妙な……」

「ウチも見てみたかったなー」

「おはよう、みんな」

「「「「「! ……」」」」」


 娘達の席に近づいて挨拶をすると、先程までの賑やかな雰囲気が一転静寂に包まれた。


 どうしてだろう。

 挨拶をしただけでネタがスベった芸人みたいに静まり返っちゃった。


「遅い」


 モモカから痛烈なグッモーニンを頂いた。


 朝っぱらから辛辣過ぎない?

 パパ泣いちゃうよ?


「もう朝食が運ばれておりますわよ」


 艶やかな青色の髪のサイドを三つ編みにして後頭部に束ねるハーフアップにして、深緑の瞳は呆れかえる気持ちを隠しもせずに俺を見下していた。


 如何にも魔法使いであることを示す白と青のローブを羽織り、と自身の身長と同等の長さがある杖をテーブルに立てかけていた。


 シラタニ・ミソラ。

 五つ子の次女で攻撃系の魔法を得意とする五つ子屈指の火力アタッカーだ。

 地水火風の四属性だけでなく、聖属性と闇属性の魔法の最上級クラスの魔法も【無詠唱】と【魔力の源泉】のスキル効果によりマシンガンのように放つことが出来る。


 【魔力の源泉】とは、毎秒魔力が高速回復するスキルで、数値にすれば一秒に付き魔力を100回復させられる。


 これとミソラ本人の高い魔力によって最上級魔法ぶっぱが可能になっている。


 俺も全属性の魔法が使えると言ってもミソラみたいにバンバン撃つことは出来ない。

 今の俺に【魔力の源泉】が無いからだ。


 正確には魔法において父親以上の才覚を持つミソラに俺の中にあった【魔力の源泉】が受け継がれたのだ。


 それにより俺には下位互換の【魔力の湧き水】しかない。

 こちらは毎秒10だ。

 上位互換に比べて心許ない感じが拭えない。 


「悪い、ミソラ……なんだったらもう先に食べて良かったんだぞ?」

「いえ、先に食べてはいますので、お父様が早く食べて下さらないと私達が宿から出られないのですのよ」

「あ、そっか……」


 家族みんなで食べるために待ってなかったんかい。


 ちなみにミソラがお嬢様口調なのは小さい頃から話聞かせてきた漫画やアニメのお嬢様キャラに影響されたからだ。


 あと短期で雇ったことのある娘達の家庭教師に礼儀作法を一番熱心に聞いていたりしていたのもあったかな。


 ともかく、五つ子の中で一番の淑女となっている。


「……パパ」

「ん? なんだスイ?」

「……早く食べて」

「……あい」


 娘に早く食べなさいって言われるとは……。

 ちょっとパンがしょっぱく感じる。

 

 朝食のパンを食べながら食事を急かした人物を横目で見る。


 緑の髪を束ねて左肩に流し、紫色の瞳は常に眠たげで、表情の変化が薄い少女はウサギのぬいぐるみを大事そうに抱えていた。


 シラタニ・スイ。

 五つ子の三女だが、身長は五つ子の中では一番低い。

 緑と黄色を混ぜ合わせた法衣は小さな体躯の彼女に若干大きいのか手が半分隠れてしまっている。


 そんな彼女は回復や補助に特化した魔法の使い手で、いわゆるヒーラーを担当している。

 彼女の扱う回復魔法の効果は四肢の欠損を容易く治せるなどかなり高レベルだ。


 かと言って攻撃手段がないわけではなく、聖属性に限ってなら魔法のエキスパートである次女のミソラを凌駕している。

 

 そのため対アンデットでは大変お世話になっている。

 口数の少ない仕事人といった彼女は五つ子の中で縁の下の力持ちだったりする。

 改めてスイのチートっぷりを振り返っていると、朝食を食べ終えた。

 

「え~と、今日は一日休みだったな。みんなは今日どうするんだ?」 


 家族の会話としてそんな話題を切り出してみた。

 もし訓練したいと言うならそれに付き合うつもりだし、買い物なら荷物持ちくらいは出来る。


 そう思って話で見たのだが……。


「何故休日の拙者達の予定を父上に知らせねばならないのでござるか?」

「それは、父親として娘達の動向を気にするのは当たり前だろ」

「父親だからといって過干渉ははっきり申し上げると気持ち悪いでござる」

「気持ち悪いって、親に向かってそれはないだろ?」


 娘から気持ち悪いと言われた。

 シンプルな分余計に心に響いたぞ。


 俺の気遣いをバッサリ断ったござるが語尾の少女も五つ子の一人だ。


 シラタニ・ユカリ。

 五つ子の四女で、情報収集や索敵、罠の設置など器用さに関しては五つ子の中では一番だ。


 紫色の髪を頭頂部の位置に束ねてポニーテールにしていて、赤い瞳は本当に俺が煩わしいように細められていた。


 黒色の忍び装束を身に纏うその出で立ちはさながら忍者……というか異世界初の忍者だ。


 小さな頃に寝かしつける時に聞かせていた物語に登場していた忍者がかなり気に入って以来、ござるが語尾になるレベルで忍者にハマった。

 

 ハマりすぎて素早い身のこなしから繰り出す二刀流の刀術と中級魔法よって忍術を再現したくらいだ。


「そうよね、なんで父さんにアタシ達の予定を教えなきゃいけないの?」

「だから、みんなを心配して――」

わたくし達はもう14歳……子供扱いをされるのは癪ですわ」

「わたし達は、来年には大人の仲間入り……」

「そういった次第である故、拙者達は放っておいて父上は父上でお好きなようにすればいいでごさる」


 <フォーテス>では15歳で成人と認められているが、地球にいた頃の感覚が抜けきれていない俺にはモモカ達はまだまだ子供だ。


 当然家訓としてお酒は20歳になってからって決めてるし、何より今は旅の途中だ。


 何があるかわからない道中で来年には成人だからなんて理由で保護者責任を放棄するつもりはない。


 確かに休日の過ごし方を聞いたのはまずいかもしれないが、予め予定を聞いておくことで夕食のタイミングや緊急時に探しやすくなるという利点がある。


 それを抜きにしても家族として心配するのは当たり前のことだ。


 俺は自分の気持ちを伝えようと口を開いた。


「そんなこと言われても、子供の心配をするのは父親として当たり前のことで――」


「――さっきから聞いてりゃ〝父親〟〝父親〟って、それ以外の理由がないのかよ、親父」

「……シュナ」

「ミソラも言ってだけど、いつまでたっても子供扱いされたら堪ったもんじゃねえんだ……そもそもウチらより弱いやつに心配されるほどやわじゃないし、うざったいんだよ」


 とても口が良いと言えない言葉使いをするこの少女も五つ子の一人だ。


 火のように赤い髪は首元の長さに切り揃え、一房だけ三つ編みにしている。

 桃色の切れ長な瞳は俺を鬱陶しそうに睨んでいた。


 シラタニ・シュナ。

 五つ子の末っ子だが、姉貴気質な彼女の装いは黒い外套に五つ子の中で一番の大きさを誇る胸にさらしを巻くという完全ヤンキースタイルだ。


 シュナが小さい頃に、いつも話す物語じゃつまらないと言われたので、いっそ不良系の物語を教えたところ、ものの見事にハマったのが理由だ。


 ミソラといいユカリといい、外見はあまり似ていない五つ子だけどこういう影響の受けやすさは非常によく似ている。


 ともかく、シュナに話聞かせていた不良漫画の影響もあって、彼女は拳や蹴りなど己の肉体を武器として戦うパワフルな拳闘士という戦闘スタイルになっている。


 ぶっちゃけ身体能力だけなら五つ子の中でも一番だ。

 魔法は全く使えないが、それを弱点と感じさせない程の圧倒的な速さと威力を兼ね備える彼女の鉄拳は岩だろうと木端微塵に砕く。


 五つ子達と模擬戦をやってきて一番最初に負けたのがシュナだしな。

 

 でも彼女も洩れなく俺の心配を邪魔と捉えていた。


 もうここまで来たら誤魔化す方も面倒になって来た。

 

 そうです。

 14歳になったうちの五つ子達は揃いも揃って全員反抗期の真っ最中。


 それも別の時期とかじゃなくて、五人共同じ日に反抗期が表面化し出したのだ。




 ~~~~~~~~~~~~~~




 反抗期。

 それは人なら誰もが通るもので、思春期において芽生えた自立心から周囲に反発するという子供が大人になる過程で起きる心理現象だ。


 一口に反抗期と言っても、二種類ある。

 幼児期に親の言葉に反抗したり、オモチャを買って欲しいとだだをこねる等が第一反抗期。

 小学校高学年から中学生辺りに、将来に不安を抱えて塞ぎ込んだり、非行に走ったり、他人に暴言を吐くのが第二反抗期。


 娘達は14歳だから後者に該当する。

 異世界でも反抗期は遠慮なしにやってくる。

 人間だもの、仕方ないね。


 反抗期の兆しは半年くらい前にその日の洗濯物の担当だったモモカが発した言葉が発端だった。


「父さん。アタシ達の洗濯物は父さんのとは別々にして洗うから、自分のは自分で洗ってね」


 俺はというと地球育ちのくせにそれが反抗期の一種であることをすっかり忘れて……。


「それだと水が勿体なくないか? 節約のためにも一回にまとめて洗った方が楽だろ?」


 とマジレスをした。

 

 普通の父親なら言外に汚物扱いされたことにショックを受けることを言われたのに、真っ先に水の心配とか決して貧しかったわけじゃなかったが長年の父子家庭生活で庶民感覚がさらに鍛え上げられていた。


 まぁ俺の答えにあからさまに不機嫌な表情をしたモモカが〝じゃあその分稼ぐ〟ということでその場は治まり、自分の服は自分で洗ったのだが……。


 次に反抗期の兆しを見たのは、宿屋の裏で魔力コントロールの訓練をするミソラを見かけて声を掛けたときだった。


 五つ子で一番豊富な魔力量を誇るミソラは細かい魔力のコントロールがうまくいっていないようだった。

 それを見かねてちょっと指導したんだけど、訓練が終わるころにミソラからこう言われた。


「お父様、もう少しご自分の体臭を気になされた方がよろしいのではないでしょうか?」


 汚物を見るような蔑視の眼差しを受けて、ミソラに反抗期が来たということに気付いた。

 当然この時にモモカの態度も反抗期だったからだと察した。


 しかし、娘から臭いと言われたのは普通に傷付いた。

 自分の体臭は分からないと聞いたが、後日念入りに洗ったのにも係わらず再び〝臭い〟と言われて枕を涙で濡らしたのは記憶に新しい。


 モモカとミソラの反抗期に戸惑いつつ、その日のクエストのために平原でウィンドウルフを狩っていた時のことだった。


 ウィンドウルフは風属性の獣系の魔物で、素早い動きと中級までの風属性の魔法を放ってくる。

 一匹一匹はそこまで脅威ではないが、群れで行動している場合だと複数で連携を取って獲物を追い詰める強敵と化する。


 そのウィンドウルフの群れが平原に出没して行商人の荷馬車を襲ったりしているため、俺達がその討伐依頼を受けたのだ。


 そうして平原でウィンドウルフの群れを発見し、俺達は戦闘に入った。


「シュナは先制! ユカリはシュナのサポートを! ミソラは火属性の魔法以外なら何でもいいから詠唱して! スイはシュナに防御の支援魔法を掛けて!」


 旅を始めて一年を過ぎたあたりから【分離思考】の鍛錬も兼ねて戦闘中の指揮はモモカに任せ始めていた。


 既に指揮を始めて半年が経ってすっかり堂に入った様子だ。


「オラオラオラァ!!」


 シュナが目をギラつかせながらウィンドウルフの群れに突っ込んでいく。

 ウィンドウルフ達は爪や牙を立ててシュナに飛び掛かるが、彼女は臆することなく右こぶしを大きく振りかぶる。


「『轟烈波ごうれっぱ!』」


 シュナの右手が一瞬だけブレると彼女の前方にいた三体のウィンドウルフが胴体にクレーターを作って殴り飛ばされていた。


 地面に勢いよく叩き付けられたウィンドウルフ達はそのままピクリとも動かなくなった。


 口から血が出ているということは、殴られた時に肋骨が折れて肺か心臓に刺さったのだろう。

 そうでなくとも内臓が破壊されているかもしれない。


 相変わらず暴力的な意味で恐ろしいな【神拳術】スキル。

 

 武術の神様が扱う格闘術を身に着けられるスキルだが、戦闘能力だけなら五つ子随一のシュナには完全に鬼に金棒だった。


「ガルァ!」


 シュナが攻撃で動きを一瞬止めたところで数体のウィンドウルフが風属性の初級魔法『ウィンドショット』を放ってきた。


 風の弾丸を放つ初歩も初歩の魔法だが、それでも受ければ怪我は免れない。

 シュナは敵の魔法に気付くが既に風弾は彼女が咄嗟に避け切れない位置まで迫っていた。


 が、シュナの表情に焦りは一切なかった。


「『土遁・石壁の術ストーンウォール!』」


 モモカの指示通りにシュナのサポートに回っていたユカリが土属性の初級魔法『ストーンウォール』を唱えた。


 石壁は風弾の射線上に割り込んで次々と相殺していったため、シュナは無傷だった。


 風属性は土属性に弱い。

 ウィンドウルフは名前からして風属性だから事前に詠唱しておいたのだろう。

 

 ……勝手に忍術にしてたけど。


 それはともかく、土壁によって風弾を消されたウィンドウルフ達はユカリへと襲い掛かるが、敵が動いた瞬間にユカリはその場にはいなかった。


「不意打ち御免でござる」


 いつの間にかウィンドウルフ達の背後に回っていたユカリが敵の首を次々に切り落として行った。

 敵の攻撃は避けて自分は相手の急所を突く。


 敵の攻撃が当たる前に『空蝉うつせみ』で躱す。

 【忍び】スキルの技の一つである『空蝉』は魔力で己の身代わりを作り、相手の背後に回るという回避に用いる技だ。


 これは身代わりは俺でも見破るのが難しいため、そこらの魔物じゃ見破るなんて夢のまた夢だろう。


 捉えたと思った相手が忽然と姿を消したことに困惑したまま、ウィンドウルフは首をちょんぱされた。


 そんなアサシン染みた動きを披露するユカリはまごうことなき忍者だった。


 でたらめだろ?

 【忍び】スキルが発言した時は乾いた笑いが出たもんだ。

 

「本当の風属性の魔法を見せて差し上げますわ! 『ウェーブツイスター』『クロスハリケーン』!」


 前衛二人に気を取られている内に、ミソラがどんどん風属性の魔法を放っていく。

 上級から最上級の魔法まで軽々しく放っていく様はシュナの豪快さとは別の凄まじさを感じる。


「『アクセル』『ダウアクセル』」


 その間にもスイが味方(俺以外)に移動速度が増す支援魔法を施し、敵には移動速度を遅くする魔法を飛ばす。


 もはやウィンドウルフ達は娘達にされるがままだった。  


 この状況に仕立て上げたモモカの戦略眼に感心していると、ふとあることに気付いた。


「モモカ、俺は?」


 そう、モモカは妹達には指示を送っているのに俺への指示は何一つないのだ。

 俺がその事を指摘するとモモカは「――ッチ」っと舌打ちをした。


 すげえな、たったそれだけでパパのLPライフポイントはゼロになっちゃったよ。

 

「……大人なんだし自分で考えたら?」


 遊撃に努めろってことだな!

 それだけパパを信頼してるってことだよな!

 

 決して普段は自分を子供扱いするくせに、こういう時だけ指示を仰いでることに苛立ってるわけじゃないよな!?


「と、とりあえずスイとミソラの援護に回るわ……」


 後衛二人を俺とモモカの二人で守れば何とかなるだろうと思い、後ろで魔法を放っている二人の周囲を警戒を始めた。


 ちなみにスイ寄りだ。

 だってミソラには俺が臭いって言われたばっかだったからな。


「さぁ、スイ。お前には魔物の爪一本触れさせないからな!」


 気合を入れ直して剣を構えながらスイを安心させようと声を掛けた。


「パパ、邪魔」

「……え?」


 が、返って来た返答は辛辣なものだった。

 思わず後ろに視線を向けるとスイの眠たげな眼が忌々し気に歪んでいた。


「気が散るから、もっと離れて」

「でも魔物が――」

「いいから」

「あ、はい」


 滅多に見ないスイの眼光から放たれる圧の前に親の威厳など霧散してしまった。

 

 スイは一番俺に懐いていてくれていただけにモモカやミソラに比べて心のダメージが特に大きかった。

 まぁ元々致命傷だったのがさらに致命傷になっただけだ。

 

 ほら、腹に出来た風穴に剣を突き立てても意味ないだろ?

 それと一緒だよ。

 HAHAHAHAHAHA……はぁ……。


「これでトドメですわ! 『アイスブランド!!』」


 ミソラが水属性の上級魔法『アイスブランド』を放った。


 ウィンドウルフ達の頭上に無数の大きな氷柱が形成され、一気に降り注がれた。


 氷柱に貫かれたウィンドウルフは体を一瞬で凍結させられたり、運よく凍らなくても体を地面に打ち付けられたことで身動きが取れずに結局凍死したり、飛び散る血すら凍てつかせる冷気によりウィンドウルフの群れは全滅した。


「お疲れ、ミソラ」

「当然ですわ」

「ちえ、トドメはウチが刺したかったぜ」

「シュナもよく頑張った……」

「うむ、我ら同胞の姉妹に掛かればウィンドウルフなど敵ではござらんな!」


 そんなこんなで俺が特に何かすることもなくウィンドウルフの群れの討伐は終わった。


 一応討伐証明としてウィンドウルフの魔石(魔物の心臓のような石。これを鑑定することで討伐の証となる)を俺が回収する。

 そう、俺が。 


 みんな女の子だから魔物の体内に手を入れて魔石をほじくり出すとかしたくないもんね。

 決して勝利の称え合いに加わろうとしたら〝お前何もしてないだろ〟っていうご尤もな空気を匂わせて来たから、近寄りがたくて他にすることもなく魔石を拾い出したとかじゃない。


 ここで俺はモモカ、ミソラ、スイだけでなく、ユカリとシュナも揃って反抗期になっていることを把握した。


 一人でもキツイのに、五人同時とか想像もつかない。


 とりあえず、魔石を回収し終えたら娘達から〝お疲れ様〟の労いも無く、談笑する娘達の後ろをノロノロと付いて行くことしか出来なかった。


 町に戻り、クエストの完了報告を済ませたら夕食だがその前に戦いの汗を流すために風呂に入ることになった。 

   

 宿の部屋は俺が一人部屋、娘達が六人部屋を使っている。

 俺が一人部屋の理由はもう言わずもがなだ。


 反抗期の娘達が親と同じ部屋で寝るわけないだろ? 

 旅に出る前は六人で一つの布団に入って寝ていた時もあったのになぁ~。

 

 っと、それより風呂だ。


 この宿は娘達の要望で選んだのだが、風呂に入る時間を宿の職員に伝えておく必要がある。

 部屋は別々だが一団体として利用しているので、俺と娘達の入浴時間も同じなのだが……。


「父上」

「お、ユカリか。どうした?」


 モモカ、ミソラ、スイの三人の反抗期を目の当たりにした俺は内心ビクビクしながらもゆかりの話に耳を傾けた。


 正直向こうから話しかけてくれるだけでもありがたい。

 でも何言われるか怖いのも事実だ。


 本心から嫌われてるわけじゃないってわかっていても、やっぱり面と向かって避けられるのは辛いものなんだよ。


「今日から入浴は拙者達が先に利用させてほしいでござる」

「え、いつもは俺が一番風呂なのに?」

「ええ、正直に申し上げますと父上の後に湯船に浸かるのは遠慮願いたいのでござる」

「がっはぁ!!?」


 俺はその場で崩れ落ちた。

 ユカリは伝えることはもうないと言わんばかりに倒れる俺を無視してそそくさと去って行った。


 俺の汗が混ざった風呂に入りたくないどころか同じ空間にいるのすら嫌なのかよ。

 

 モモカには同じ洗濯水を使いたくないと言われ、ミソラには臭いと言われ、スイには邪魔と言われ、ユカリには後風呂は嫌だと言われ……。


 これもうシュナになんて言われるのか大体予想出来た気がするわ。


 だってあの子今外出してんだもん。

 もうすぐ風呂だし見つけたらちょっと独断行動は控えるように言うつもりだったけど、罵詈雑言で返される未来が見えるわ。


「あ、親父……」

「シュナ?」


 そんなことを考えていたらシュナが返って来た。

 喉元まで上がって来た〝どこに行ってたんだ〟という言葉を飲み込んだ。


 あっぶない。

 これ以上俺の心をズタズタにされてたまるか。

 ここは冷静に会話をする。


「お、遅かったな。もうみんな風呂に入ってるぞ?」

「……ふ~ん」

「な、なんだ? 言っとくが俺はまだ入ってないからな?」

「あ、なんだよかったわ」

「良かった!?」


 正直すぎないかシュナ!?

 そんなに俺が入った後のお風呂が嫌なのか!?


「じゃ、行くわ」

「あ、ああ……」

「あと脱いだ服は別の洗濯籠に入れといてくれよ」


 その別の籠に入れた服を明日洗うのは俺なんですね、解ります。


 面と向かって良かったなんて安心されるとは思わなかった。

 俺が呆気に取られているうちにシュナは風呂場へと向かって行った。


 5倍の反抗期はたった一日で俺の心を疲弊させた。


 このままじゃダメだ。

 見守るのが最善だと分かってるけど、いざ母親に会った時にも反抗期が続いてるようでは目も当てられない。


 せめて魔神を倒すまでには反抗期を解消させたい。


 そう決意した俺は、五つ子の反抗期解消に乗り出した。




 ~~~~~~~~~~~~~~




 そう決めて半年……全く解消になっていない。

 それどころか日頃の鬱憤晴らしと言わんばかりに模擬戦では俺をボコボコにしてくる。


 回復?

 自分でする以外の選択肢があるように見えるか?

 

 きつく言い過ぎないように当たり障りのない会話を試みても、すぐにスルーor罵倒のコンボだ。


 酷いときは一言も話さずに「ご飯」「風呂」「クエスト」と要件を端的に伝える一方通行な言葉しか投げ掛けて来ないからな。


 しつこくならないように接して一日に一言でも言葉を交わしたらマシな方だ。


 そう思う時点で俺の方も反抗期の状況に慣れというか悪化している気がする。


 でも俺は諦めない。


 罵倒されようとも反抗期と向き合わなきゃ父親として母親のあの人に顔向け出来ない。


 朝食を食べ終えて、娘達はそれぞれの用事のために町に出掛けて行った。


 俺はというと【気配操作】スキルと【千里眼】スキルをフル稼働させて尾行していた。


 やましい目的はない。

 偶然を装って会話のきっかけを掴むためだ。


 まずはモモカから。

 場所は他の町でも出店している程の有名な洋服店で、モモカは新しい服を買うために訪れたようだ。


 あの店は男物を取り扱っているので、俺もなに食わぬ顔で店内に入る。


 俺が同じ店に来たことに気付いたモモカが〝うわぁ〟という気持ちを微塵も隠すことなく表情を歪めた。


「お、モモカ。偶然だな」

「ッチ、最悪……」


 わざと聞こえるように言われたが、俺は聞こえなかったフリをしながら会話を続ける。


「洗濯していた服がだいぶ傷んで来たから、この際新しいのを買おうと思ってな」

「別に聞いてないし」

 

 モモカは興味がないという風に俺と目を合わせようともしない。


「それでな、最近はどういう服が流行っているのか知らないから、良かったらモモカが教えてくれないか?」

「なんでアタシ? 店員に聞けばいいじゃん」

「それはそうなんだか、どちらかと言うと実の娘からの率直な意見が参考にならないかと思ってな」

「ふーん……」


 言外にモモカを頼りにしているということで、彼女の自尊心を尊重する。


 第二反抗期は子供から大人になる一番繊細な時期だ。

 自分は成長しているという自尊心を尊重してあげることで、子供を一個人として認めると示すのだ。


 さあ、これで半年振りの家族らしいコミュニケーションを――。


「じゃあ、これとこれとこれ。お金はあの人が払います」


 モモカは服をササッと選んでカウンターへ持っていき、支払いを俺に任せて店を出ていってしまった。


 ……え?

 家族、らしい、コミュニケーションは?


 い、いや……これはあれだ、〝突然パパに服を選んで欲しいとか言われても困るし、恥ずかしいから早く選んじゃえ〟っていう一種の照れ隠しだよ……。


 そうじゃなきゃこんなよく分からない記号が掛かれているダサTシャツと短パンにどう表現すればいいのか分からない色の靴下を渡されるわけない……現実逃避は止めよう、空しくなるだけだ。


 ああそうですよ。

 これどう見ても適当に選んだだけですよね。

 しかも店員さんが丁寧に梱包したあとだったから実際にお金を払ってからじゃないと中身が分からないっていう嫌がらせ付きで。


 言われた通り選んだんだからそれでいいでしょ? って気持ちがひしひしと伝わってきて涙が一滴だけほろりと流れた。


 最近、涙腺が緩くなって来たなぁ……。


 そんなわけでモモカとのコミュニケーションは失敗に終わった。


 が、いつまでもへこたれてる場合じゃない。


 再び【気配操作】と【千里眼】スキルで町中を見渡した俺は、スイの姿を発見した。


 場所は手芸品を売る服飾店だ。

 大方新しいぬいぐるみを買うためだろう。


 スイは14歳になってもぬいぐるみを抱いてないと寝れないからな。


 旅先で気になったぬいぐるみを買ってるから、彼女の【アイテムボックス】の3分の1はぬいぐるみで埋まっている。


 【アイテムボックス】とは、異空間に道具等を収納しておけるスキルで、要約すれば四次元ポケットみたいなものだ。


 この異世界基準で普通は五百人に一人の割合でしか習得出来ないのだが、俺と五つ子達は全員使える。


 そのためこの旅の荷物は全て【アイテムボックス】の中にあることにより、これとかなりの軽装での旅を可能とした。


 普通は武器とか食料とかお宝を入れるのだか、さっきも言ったようにスイの【アイテムボックス】にはぬいぐるみが入っている。


 始めて来る町で新しいぬいぐるみを買う彼女を微笑ましく見つつ、俺はモモカの時と同様の方法で接触を試みた。


 あ、普通に入ったけど、ぬいぐるみとか服の布地が売られてる場所にアラサーの俺がどういう理由で入るのか考えてなかった。


「あ、パパ……」

「お、お~、スイじゃないか」


 どう言い訳をしようか考えているうちにスイに見つかった。

 あ、そうだ。


「なんで居るの?」

「なんでって、今日はいつも頑張ってくれてるスイにぬいぐるみをプレゼントしようかと思って来たんだけど……あ」

「サプライズの内容を本人に話すとか……」

「あ、あはは、まぁ折角だし好きなぬいぐるみを買ってやるよ」


 これだ。

 〝サプライズばれちゃったから開き直り〟作戦。

 これなら俺が場違いな服飾店にいても不思議じゃない。


 さらにスイの好きなぬいぐるみを引き合いに出せば自然と距離は元通りというわけだ!

 スイは欲しいぬいぐるみをタダで手に入る、俺はスイと元通りになれる。

 お互いにメリットしかないいい作戦だ。


「本当に?」

「ああ、もちろんだ」


 男に二言は無い。

 期待するような眼差しで俺を見つめてくるスイにそう告げた。


「じゃああれ」


 彼女はそう言って指差したのは、店の奥にある一目見て他のぬいぐるみより高いと判る王冠を被って赤いマントを羽織る黒熊とティアラとドレスを身に付けている白熊だった。


 その値段一体につき金貨500枚分で合計金貨1000枚(日本円換算だと約20億)と大変お高い。


 俺の【アイテムボックス】に入ってる全財産金貨510枚なんですけど……倍以上あるんですけど……。


「あ、あははは、片方ならともかく両方は買えないかなー?」


 体裁を取り繕うことも見栄を張ることもなく即ギブアップした。

 密かに貯めている娘達の嫁入り資金から切り出しても100枚足りない。

 この町に住んでるならまだ望みはあったが、生憎俺達は旅の途中。


 ぬいぐるみを買って旅の資金を失くしましたじゃ、反抗期でなくとも嫌われる。


「はぁ、別に最初から期待してなかったし……」


 スイは仕方ないという風にため息をつきながら自分の【アイテムボックス】から何かを取り出した。

 

 それは皮袋だった。

 だがただの袋というわけではなく、中から金属が擦れる音が聞こえた。


 それを店のカウンターに持っていたスイは、皮袋のくちを開けて逆さにしておもむろに中身をだした。


 ――ジャララララララララ!!


 袋から金貨の山が出てきた。


 山が出来上がる過程で店の中にいた全ての客の視線を独り占めしたスイは、キング黒熊とクイーン白熊だけを見つめていた。


「一番高いぬいぐるみを下さい」

「は、はい、少々お待ちを……」


 店員さんが金貨の山を数えること一分。


「確認致しました。確かに金貨1000枚頂戴いたします。誠にありがとうございました」


 店員さんはとてもホクホクとした表情で自分より一回りも年下であるスイに頭を下げた。

 

 その光景に俺は絶句した。

 父上より金持ちなのってどういうことだよ。


 あぁそうか……スイは最初からキング黒熊とクイーン白熊を買う金を持っていたんだ。

 日頃ぬいぐるみを買ってるのに、よく金貨1000枚を集めたな。


「欲しいものは自分で買えるし、子ども扱いしないで……」


 スイは冷たい視線を俺に向けながらキング白熊を【アイテムボックス】に収納して店を後にした。

 俺の気遣いはスイからすれば子ども扱いされていると思われていたようだった。


 こうしてスイとのコミュニケーションも失敗した。


 ぐあああああああああ!

 全く上手くいかねえええええええ!!


 で、でもまだ諦めてたまるか!

 再び奮起した俺は、先程同様【気配操作】と【千里眼】スキルで町中を見渡し、本屋の中に入って行くミソラの姿が映った。


 お嬢様口調なのに文学少女なミソラらしい。

 最近のお気に入りは恋愛小説らしく、新作を探しに来ているのだろう。


 3分でミソラのいる本屋に着いた俺は、三度目のなに食わぬ顔で入店した。


「……お父様」

「おお、ミソラじゃないか」


 さっきまでならモモカの時みたいに本を探して欲しいと頼むか、スイの時みたいに恋愛系の物語(ほとんど覚えてない)を話して共通の話題を探るかをしていたが、既にどちらも失敗している。


 じゃあどうするのかっていうと……。


「……なぁ、ミソラ。俺に何か言いたいことがあるんじゃないか?」

「言いたいこと、ですか?」

「あぁ、俺に対する不満があるのはよく分かってる。でも具体的にどこが駄目なのかちゃんと教えて欲しいんだ……ミソラ達にとって良い父親だって言われたいから」

「……」


 敢えてダメ出しを食らいに行く。

 聞いただけだったらドMか何かだと思われる作戦だが、断じて俺はノーマルだ。

 

 反抗期とは周囲への不満も原因の一つ……なら具体的に何処が駄目なのかを敢えて相手に尋ねて、この人は欠点を直して自分と向き合うつもりなんだと思わせる。


 そうすれば相手への不満は少なくなり、開いていた心の距離は元通りというわけだ。


 特にミソラは精神面において五つ子で一番成熟している。

 次女で大人びている彼女と関係を修復出来ればきっと他の姉妹とも仲直り出来るはず。


「……解りましたわ。買い物を済ませるまで少々お待ち下さいませ」

「ああ、ありがとう」


 渋々といった感じだが了承してくれた。

 よし、第一段階突破だ。


 10分で買い物を終えたミソラと人気のない宿の裏側で話すことにした。

 わざわざ移動した理由は、これから大の大人が子供に説教されるような光景が繰り広げられるからだ。

 

 そんなことを往来でやれば嫌でも注目は集まってしまう。

 そうなれば折角ミソラがのってくれたに、余計に嫌われるという結果になる。


 間違ってもそうなならない様に、こうして人のいない宿屋の裏に来たのだ。

 

「では、お父様に対する不満についてお話させて頂きます」

「おう、ばっちこい!!」


 さぁ、持ってくれよ。俺のメンタル……!


「まず、休日のわたくし達の動向を探ろうとした件については今朝にユカリが言及されたので除外しますが、朝起きる時くらい自分でしっかりと起きて下さいませ。お父様も30歳と若い頃より体力の衰えはどうしても無視できないで昨日のクエストでも体力を消耗させていたようですが、それでも娘に起こされる様では将来が不安視されますのに、お父様はそれを対して気になされていないご様子……これでは先が思いやられますわ。次に食事の時ですが自分が使った食器は自分で洗ってくださいませ。料理番を当番制で決めたからといって当番になった人に任せきりというのは作る側に失礼だと仰ったのはお父様ですわよね? ご自分でそれをお守りになられないとあってはとんだ恥知らずだと思いますわ。洗濯物に関してモモカからの言及もあったそうですので除外ですわ。が、敢えて私から申し上げることがあるとするならば、せめてシワを伸ばすくらいはやって下さらないと服が傷んでしまいますわ。戦闘中でも私達が強いからといって自分は何もしないでいい理由にはなりませんわ。魔法の詠唱時に前方に立たれると邪魔ですし、前衛のシュナやユカリとの連携もイマイチですから、モモカはお父様に遊撃を任せていらっしゃるというのに、それに気付きもせずただ立ち尽くすのみというのは大変目障りですわ。おまけに戦闘後は汗で汚れているのに洗いもせずに不用意に近づくなど、人としての神経の疑いますわね。寝る時にしても同じ部屋にしなくなったのはお父様のいびきがうるさいからです。それに寝相が悪くて何度か胸を触られたこともありますし、基本的に嫌な思い出しかありませんわ。そして最後に臭いです――以上ですわ」


 一通り話し終えたミソラは特に疲れも見せる様子はなかった。

 対する俺はもう心が粉微塵になってるけど。


 いくつかどうしようもないのが混じってない?

 寝相とかいびきとか……なんかテレビでそれらの解消法を観たけど、もう14年も前のことだから全く覚えてねえよ……詰んだ……。


 というか思ってたより不満あったな。

 精々臭いとか戦闘のことくらいだと思ってた。


 特に戦闘中は気を付けよう……ヘタしたら死ぬわ。


「後は――」


 まだあんの!?


「おか――っ、いえ、なんでもありませんわ……」

「? そ、そうか……」


 ミソラは何か言いかけたが、途中で止めてしまったため、よく分からなかった。

 そんな言葉にするのも謀られる程のことなのか……?


「もうお話することはありませんわ……これらの欠点を直されるならどうぞご自由に」


 そう言ってミソラは去って行った。

 手伝ってはくれないのね……それは流石に高望み過ぎるか。


 なんかもうちょっとストレスが限界に近づいてきた。

 町の外に適当に魔物でも一狩りしてストレス発散といくか。


 そう決めた俺は町の門を抜けて平原へと赴いた。


 今更だが俺は剣による攻撃と盾による防御の他、魔法による攻防も出来る万能型な戦闘スタイルだが、所謂サマルトリア戦法であるため、総合力では勝っていてもそれぞれの能力に特化している五つ子達には敵わない。

 あと【神級鍛冶】スキルにより世に2つとない最高の武具を作りあげることが出来、自分のも含め五つ子の装備も俺が作ったものなのだが、初回で最高品質だということと【武器不壊】の効果によりメンテナンスいらずになってしまっため、最初の時以外は大して役になっていない。


 まぁテキトーに作った武器や防具でも結構な値段で売れるから資金稼ぎには持って来いなんだけどな。


 それより平原に出て30分は経つのに一向に魔物と遭遇しないぞ?

 どういうことかと頭を悩ませていると、視界の奥で突然爆発が起きた。


 何か危険な魔物の襲来かと仮定した俺は、爆発の起きた場所へ【加速】と【俊足】のスキルを発動させて一気に駆ける。


 この2つのスキルによる高速移動は俺以外に出来るのは五つ子でもユカリだけだ。

 500メートルも離れていた距離を10秒足らずで詰めた俺が目にしたのは……。


 ピンク髪の少女がクレーターの中心で拳を地面に振りかぶった姿だった。

 というかシュナだった。

 

 土煙と相まってギア2みたいになっていた。

 無駄にかっこいいな、おい。


「……なにしてるんだ、シュナ?」

「ん? なんだよ、親父かよ……」


 シュナは何故か期待外れかのような表情を浮かべていた。

 なんであからさまにがっかりされたのかはもう解り切っている。

 

「一体何をしてるんだよ。突然爆発が起きたから何か厄介な魔物でも現れたのかと思って焦ったんだぞ?」

「親父には関係ねえだろ」


 出た反抗期で一番よく聞く常套句。

 あまりの素っ気の無い返事に苛立ちが募るが、見ず知らずの相手では無く自分の娘……そこは必死に堪える。


「厄介な魔物と戦ってたってわけじゃないなら、シュナが無事で良かったよ」

「はぁ? 別に心配されるほどやわじゃねえつってんだろ?」

「そう言わずに。心配してくれる人の存在ってありがたいもんだぞ?」

「だから必要ねえって。あ~、なんかむずむずしてきた……」


 シュナはイライラを隠さずに不機嫌な表情だ。

 そうだ。

 ちょうどシュナといるんだ。

 ここで4度目の反抗期解消といこう。


「シュナ、今から模擬戦をしないか?」

「模擬戦? 別にいいよ。親父ウチより弱いし」

「まぁまぁ、スキルありのガチンコで良いからさ」

「……どういう風の吹き回しだよ?」


 う、鋭いな……。

 俺がシュナにしようとしているのは〝夕焼けの川辺で殴り合って仲良し〟というあれだ。

 実力的にシュナが上なんだけど、それは素の身体能力の話。


 今までは周囲の被害を考慮してスキルを使わずに技術だけで模擬戦をしてきたが、今日はその制限を解除する。


 シュナは素の身体能力や戦闘関連のスキルは強力だが、魔法を使った搦め手に弱い。

 いつもなら他の姉妹のサポートがあるが、今日はそれは無い。


 大人げないと思うなかれ。

 こうでもしないと勝てないんです。

 

「なんだ? 負けるかもってビビってるのか?」

「ああ!? いいぜ、受けて立ってやるよ!!」


 ちょっと挑発したらすぐにのってきた。

 今はありがたいけど将来が不安になるチョロさだな。


 ともかく、模擬戦を受けてくれたシュナに模擬戦用の武器を渡し、相対する。


「おい、親父……啖呵切ったからにはあっさりと負けてくれるなよ?」

「当然。俺だってまだまだ戦えるんだって証明してやらないと、お前達の父親失格だからな!」

「……父親、ねえ……まぁいいや。いくぜ!!」


 そう言ってシュナは勢いよく俺に接近してきて――。



 十分後。

 俺は地面に突っ伏していた。


 負けた……ほぼ全力出したのに負けた……。


 いや、かなり善戦したんだけど、後半は俺のスタミナが尽きるという持久力が敗因だった。

 ここ最近体力が落ちてきたから暇を見ては鍛えていたんだけど、やっぱり若者には勝てなかったよ。


 それでもシュナは物足りなかったのか、既に新しい戦いを求めて去って行ってしまった。

 俺がスタミナ切れで動けなくなった時の〝結局この程度か〟っていう気持ちが見え隠れしていた溜息は、死体に鞭打つかのように俺の心に突き刺さった。


 まだ心身ともに完全に回復したとは言えないが、いつまでも平原で倒れていると魔物の良い餌食になるため、俺はゆっくりと立ち上がって町へと戻った。


 何気にもうお昼はとっくに過ぎていたので、飲食店で軽く昼食を摂った。

 ハンバーグ美味しかった。


 腹を満たした俺は宿屋に戻って装備の点検をしようかと思っていた時だった。


「父上。お話があるでござる」

「ユカリ? どうしたんだ?」


 【千里眼】で町中を見渡しても見つけられなかったユカリが話しかけてきたのだ。

 

「宿屋の裏に来て頂きたいのでござる」

「? まあいいけど」


 言われるがままに付いていく。

 宿屋の裏に着くと、ユカリ以外の姉妹四人が集合していた。

 

 あれ?

 なんか嫌な予感がする。


「み、みんなどうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも何も、父上は自分がしたことを把握していないのでござるか?」

「今日アタシ達に付き纏ってきたのはどういうことなの?」

「説明を求めますわ」

「最低……」

「なんか変だとは思ってたんだよなぁ」


 五つ子にそう言われて俺はようやく察した


 俺は【千里眼】で五つ子達の居場所を見つけてから偶然のようにそれぞれと接してきたが、五つ子達が互いの情報を共有したことで俺の行動の不自然さが浮き彫りになったのだ。


 つまり、今朝ユカリに過干渉されると気持ち悪い忠告されたのにも関わらず、娘達のプライベートに踏み入れたことで、さらに彼女達の不興を買ったということになる。


 そう理解した俺は全身に冷汗が止まらなかった。

 だがそれにしたってバレるのが早すぎる。

 

 その理由もすぐに教えられた。


「拙者の【視線察知】のスキルに頻繁に警鐘が鳴るのが気に掛かった故、【透過】のスキルで隠れていた

のでござるが、皆の話から発動者が父上であると断定したのでござる」


 迂闊だった。

 それぞれと別の日に接してたならまだしも、一日で済ませようとしてユカリに警戒されたんだ。

 今日の行動がバレたということは、そのまま俺が娘達に嫌われる要因へと繋がってしまい、反抗期解消とか言ってられなくなる。

 

 ここは何とかやましいことはなかったのだと説明しなければならない。


「違うんだよ! 何か変なことを企んでるとかそういうことじゃなくて、単に家族として色々心配をしてて――」

「余計な心配なんていらないって言ってるでしょ」

「私達をいつまでも子供扱いしないでくださいといつも言っているではありませんか」

「来年には成人するのに鬱陶しい……」

「今朝に拙者が言った事を全く意に介していないとは、見下げ果てたでござる」

「マジ最悪だな」


 五つ子達は俺に対する不満を晒してきた。

 完全に俺が何を言おうと信じるつもりはないという感じだった。


 その態度に俺は遂に我慢の限界を迎えた。


「――んだよそれ……」


 そんなままならない気持ちを抑えきれず……。


「俺だってどうしたらいいのか必死で考えてんだよ! 反抗期だから仕方ないって諦められないくらいみんなのことが大切なのに、なんでわからないんだよ!? そもそも16歳でいきなり異世界に召喚されて子育てをすることになって慣れないことに今まで必死で頑張って来たのに、皆が何を考えているのか解らなくてずっと不安になって来たんだぞ!!」


 なんで反抗期なんてものがあるんだろうか。


 家族なのに簡単に気持ちがすれ違ってしまうことに俺は止めどない不安を感じてきた。

 むしろ家族だからこそすれ違ってしまうのかもしれないけれど、少なくとも俺は彼女達との繋がりを失くしたくなくて、必死に仲を取り持とうとしているのに全く上手くいかなかった。


 元から溜まってきた不満がここで爆発した時だった。

 俺の言葉に五つ子達は驚いたように固まっていたが、一人だけ異なる反応をした者がいた。


「じゃあなんでアタシ達には母さんがいないのよ!?」

「! それは……」 


 モモカだけは更に苛立ちを募らせるように突っ掛かってきた。

 彼女の言う〝お母さん〟という単語に、俺は息を詰まらせた。


 過去に幼い五つ子達から、母親の事を尋ねられたことがあったが、詳細を話したことは一度もなかった。


 精々、母親は今大事な役目の途中で皆が魔神を倒すまでは会うことが出来ないとしか話していない。

 その理由は彼女とある約束をしたためだ。


「言えない……約束で……」

「また約束……そんなことじゃ信じられませんわ!!」


 今度はミソラが叫んだ。

 いつも母親と約束したことだから話せないと言ったことに不満を感じていたようだった。


「それは、悪いと思ってる。でも――」

「本当は私達が捨て子だからママはいない?」

「スイ、違う。そんなことは――」

「どうして私達は五つ子なのに似てないの? ママが別々だから?」

「違う! 皆ちゃんと血のつながっている五つ子だ!」


 スイから投げかけられた問いを否定する。

 確かに五つ子達は似てないし生まれ方に疑問はあったが、彼女達が成長するにつれてそのあたりは気にしなくなった。

 

 だが俺はそう思っても彼女達は自分達の容姿が似通ってないことに漠然とした不安を感じていたのが窺えた。


 そこまで問い詰められて、俺はどうしても娘達に聞きたいことがあった。


「どうしてまた母さんの事を知ろうとするんだ? 俺は彼女のことで隠し事はしてても嘘をついたことはないのに……」


 約束でどうしても教えられないことはあっても、娘達には答えられる限りのことは嘘も誇張もなく教えてきた。


 それでも納得しなかったのかと娘達に尋ねた。

 今度はユカリが前に出てきた。


「……だからでござる。故郷で母上の情報が全く得られないのならばと新しい町に来る度に調べてみたものの、母上の情報は手掛かりすら掴めないままでござった……唯一知っている父上は口が堅いままでは、納得できるはずないでござる……!」

「ユカリ……町に来るたびに母さんの情報収集をしていたのか……?」

「……」


 ユカリは目に涙を浮かべながら無言で頷いた。

 いくらユカリの情報収集能力が優秀といっても、五つ子の母親と女神ルヴェネアがイコールで繋がるような情報はDNA鑑定の技術がない異世界では絶対に出て来ない。


 でも次こそ顔も名前も知らない母親の情報がつかめることを信じ続けて、ユカリは情報を集めてきたのだ。

 その頑張りだけは否定しない。


「なんでおふくろがいないんだよ……親父はおふくろのことを悪く言わないんだったら、ウチらが悪いのかよ……」

「……そういうことじゃない。何度も言ってるけど、皆の母さんは魔神に関わる大事な役目の為に会えないだけで、皆のことを何とも思ってないわけじゃないって」

「いるかもわからねえ母親を信じることなんて出来るかよ! 頼むから約束とか言わずに全部話してくれよ……!」


 シュナが縋り付いてきたが、それでも俺は口を割らなかった。

 

 俺は娘達の反抗期の根本にある要因を理解した。

 顔も名前も声も知らない母親の存在を疑い、唯一その事を知っている俺が全く話さないせいで、更に不安が助長した結果、俺が母親のことで何かやましいことがあるからだと思って反抗心を抱いたのだ。


 今日娘達に会った時にも全く母親の事に触れようともしない俺に苛立ち、彼女達もついに我慢出来ずに俺を問い詰めることにしたのだろう。


「……父さん」


 しばらく口を閉じていたモモカが話しかけて来た。


「……父さんと母さんの約束って、小さい時にアタシを連れて行こうとした人達と関係あるの?」

「……ああ、そうだ」

「確か〝女神教団〟でしたわね」

「モモカの髪色が女神と同じだからって言ってた」

「父上が連中を処理するまで鬱陶しかった記憶があるでござる」

「ああ、あの胸糞悪い連中か……」

 

 よく覚えてたな。

 まぁあれだけしつこかったら仕方ないか。


 そもそも女神ルヴェネアは俺を召喚したあの白い空間で今も魔神の封印を抑え続けている。

 そうしないと魔神があっという間に封印を破ってしまうためだ。


 だからしばらくは五つ子達は俺一人で育てることになり、彼女から約束を交わして欲しいと言われた。


 女神と交わした約束というのは、娘達が自分の母親が女神だということを教えないで欲しいということだった。

 

 理由としては2つあって、一つは魔神の配下に人質として捕らえられるかもしれないということ。

 この場合は魔神側も何かしら対策をするだろうと女神は予見していたため、遅かれ早かれというくらいの差で、俺が守っていれば命の危機もないだろうとあまり重要視されていない。

 

 2つ目、こっちが本題で善悪の区別が付かない内に自分は女神の子供だと教え、それを周囲に話せばやがて女神を信仰する教団に攫われるだろうということ。


 女神を信仰する教団の奴らにとって、その娘である五つ子達はまさに格好の広告塔だ。

 五つ子達を内側に囲んで聖女として扱えば信者を多く獲得することに専念して救済を行わないなんていうくらい腐ってるらしい。


 そんな奴らに魔神を倒す宿命を背負っているとはいえ娘達の人生を縛られることを良しとしない女神は、自分の娘であることを俺に隠す様約束した。


 実際、過去に一度女神と同じ髪色だからといいう理由でモモカの身柄を引き取ろうと教団の連中が接触してきたことがあった。


 やれ聖女としてふさわしいとか女神の生まれ変わり(言い得て妙なので内心ドキッとした)とか色々言ってきたり、挙句金で釣ろうとしてきた。


 まだ幼かったモモカが俺達と居たいと望んだことと、俺が丁重にO☆HA☆NA☆SHIしたことで教団からの接触は無くなった。


 もし約束も無しにモモカに女神が母親であることを教えていたら、事態はもっと複雑化していただろう。

 

 母親の事を教えないというのは、彼女の特徴も含む。

 髪色が同じってだけでモモカを連れて行こうとしたくらいだからな。

 

 そんな事情があって娘達には〝母親は魔神に関わる役目のために会えない〟という母親の正体を隠した説明しか出来なかった。


 魔神の配下の襲撃もあって魔神の事は素直に受け入れられたが、見たことの無い母親のことをそんな説明で済まされては納得がいかないのも仕方なかった。


 娘達が母親の事を疑い出すのは時間の問題だったのだろう。

 14年という時間は疑問を抱くのに十分な時間だったのだ。


 俺は家族のためだって言って色々言っておきながら、母親のことを話して来なかった。

 それが娘達にとって何よりの不満だったのだろう。

 

 これからの事を考えると、やっぱり魔神を倒すまでは約束は守らなきゃいけない。


 でもせっかく不安をぶつけてくれた娘達に俺が出来ることと言えば……。


「みんなは美少女に育ってるよな」


 俺の言葉にモモカはきょとんとした表情を浮かべた。

 それはモモカだけではなく、ミソラもスイもユカリもシュナも同じような表情をしていた。


「え? 突然何?」

「お前達が美少女なのはお母さんのおかげだって言いたいんだよ」

「それって……」

「お母様も麗しい容姿ということですの?」


 戸惑うままのモモカとは違い、スイとミソラは俺が言いたい事を察したようだった。


「ああ、その通り。とっても綺麗な人で俺は一目惚れしたんだ。みんなを産んだ時も可愛いって言ってたぞ」

「父上が母上を愛しているのは承知でござったが……」

「おふくろのこと、話していいのかよ?」


 俺の変わり身にユカリとシュナも戸惑っていた。


 日頃俺が彼女をどんな風に思っていたのかよく聞かせていたことから、五つ子達は耳にタコができるくらい知っていた。


 五つ子達を育てる過程で、もし彼女が居たらなんて考えている内にすっかり惚れ込んでしまった。

 教団の奴らが聞いたら罰当たりなってキレられそうだが、好きになったものはしょうがないしいい気分だから関係ない。


「ああ、詳しいことは約束だから話せないけど、当たり障りのないことなら話せるんじゃないかって思ってな……今まで気付いてやれなくてごめんな」

「「「「「……」」」」」


 俺がそう謝罪すると五つ子達は一斉に黙った。

 相変わらず隠す事は多いけど、それでも彼女達の不安を取り除けるなら、出来る限り伝えて行こうと決めた。


「よく考えれば、全部終わってお母さんが出て来たとしてもなんの話も聞いてなかったら解らないよな。約束は破れないから多くは話せないけど、これからはちょっとでもお母さんの知っていって、魔神を倒したら……あの人を〝お母さん〟って呼んであげて欲しい」


 そうして俺は頭を下げた。

 娘達に頭を下げるなんて情けないと思うだろうが、これが誰かにお願いする時の一番の気持ちの伝え方だと俺は思う。


「……母さんのこと、ちゃんと話してくれなきゃ嫌」

「っ、モモカ……」

「――ねえ、母さんに一番似てるのって誰?」

「……髪ならモモカ、顔はスイ、魔法の腕はミソラ、頭の良さはユカリで、スタイルはシュナで……みんな似てるところがあるから一概に誰って言えないな、悪い」


 俺がそう言うと、五つ子達はそわそわし出した。


「髪……そっか……」

「顔って、一番可愛いってこと?」

「魔法ですか……きっと私の知らない魔法をたくさん知ってらっしゃるのでしょうね」

「頭脳は拙者なのでござるな……」

「戦いの腕じゃなくて身体ってのが微妙だけど、まあおふくろに似てるっていうならいいや」


 みんな嬉しそうだった。

 こういう簡単なことなら、最初から言っていればよかった。

 約束だからって隠し続けて娘達の不安を煽ってしまったのは俺だし、これくらいお安い御用だ。 


「俺のことは嫌いでも、お母さんのことは嫌わないでやってくれよ?」

「ちょっと何言ってるの?」

「え?」


 モモカが心外だと言う風に苛立ち気な表情をしていた。

 どういうことなのか解らずにじっとモモカを見ていると、なにやら顔を赤くしてそっぽを向いて言った。


「嫌われてるとか被害妄想はやめてよ……一々言葉にしないだけで、いつも、その……アタシ達をここまで育ててくれてることには、か、感謝してるんだからね!?」

「いつも模擬戦に付き合ってくれるし、親父以外にまともに戦ってくれる奴がいないし、親父が相手だからウチも強くなって来てんだぞ?」

「幼き頃に拙者に一番知識を授けてくれたのは、父上、で、ござるよ?」

「ん、私達の我が儘を嫌な顔せずに聞いてくれるし、感謝は、してる……」

「私一人ではここまで魔法を扱えていたか解りませんわ……ありがとうございます」

「――」


 みんな口々に俺に感謝の気持ちを伝えてきた。

 含みのない賛辞に俺は心が温かくなるのを感じた。


 今日ほど、父親になって良かったと感じた程。


 それにいつの間にか普通に話せているということは、反抗期も落ち着いて――。


「「「「「でも臭かったり戦闘で邪魔なのも本当(だから)(ですわ)(でござる)(だぜ)」」」」」

「上げて落とされた!!?」


 この流れで加齢臭のことを持ち出してくるか普通!?

 と、取り敢えず出来るところから直していこう。 

 

 反抗期はまだまだ続きそうだと思っていると、五つ子達が俺を見つめていた。


「ねえ、アタシ達お昼まだだから奢ってよ、父さん」

「はっ!?」

「私達は一銭たりとも払いませんわよ?」

「ええ!?」

「まんまる豚の丸焼きとシャキリレタスのサラダとゴールデンフィーバーパフェと――」

「多いよスイ!?」

「拙者はモチリパンを十個所望するでござる」

「高級パン屋の人気パンじゃねえか!?」

「ウチはデラックス大神鳥の肉だな!」

「存在すら怪しい神獣の肉を頼むなよ!!」


 色々ふっかけてくる娘達の言葉は、少しだけ優しくなった気がする


「そうだ、お母さんの名前は?」

「名前か……ああ、大丈夫だ」

「良かった、それでなんて名前なの?」

「皆のお母さんの名前は――」





 ~~~~~~~~~~~~~~




 

 今朝の続きかのように懐かしい夢を見た。

 

 それは俺が女神ルヴェネアのことを娘達に話さないと約束を交わし、いよいよ異世界に向かおうとしていた時のことだった。


「……本当に来れないのか?」

「はい。私は<フォーテス>の女神です。ここで魔神の封印を維持する必要がありますので」

「この子達に何か伝言は?」

「……母として愛しています、とだけ伝えて下さい」

「……わかった」


 本当は彼女も一緒に来たいのだろう……寂しげな表情が物語っていた。

 それでも代わりに魔神の封印を維持する方法がないため、俺にはどうすることも出来ない。

 

「魔神を倒したら、来れるんだな?」

「はい。この件を以って私は女神ルヴェネアの権能を次の代へと移します。それを終えてから皆さんのもとへ向かいます」


 そう、現女神ルヴェネアは魔神騒動の後に女神で無くなる。

 そうして俺達の元にくるというのはなんだか寿退社っぽい感じだ。


「それでは、優也さん、モモカ、ミソラ、スイ、ユカリ、シュナの五人を<フォーテス>で一番魔神の脅威が薄い場所へ転送します」

「あ、そうだ。最後に一個だけ」

「何でしょうか?」


 俺は女神が代替わりすると聞いて疑問に思っていたことがあった。

 

 それは――。



「君の本当の名前は?」

「――!」


 彼女は大きく目を見開いていた。

 俺の質問が予想外だったのだろう。

 

 あくまで教えてくれればいいと思って尋ねたのだが、そんな反応をされると思っていなかった。 


「わ、悪い! 言えないなら無理に――」

「いえ、そんなことを尋ねられたのは随分久しぶりですので、驚いただけです……ぜひ名乗らせて下さい」

「お、おう……」


 神様の事情はよく知らないが、彼女が嬉しそうなので野暮なことで口を挟まないことにした。

 一度深呼吸をし、彼女は名乗った。



「イヴシエル……です」

「イヴシエルか……とても似合ってるな」

「ありがとうございます」


 本当にいい名前だ。

 聞きたい事を聞こえた俺は、いよいよイヴシエルが用意した転送魔方陣へ乗る。

 今日から五つ子の父親として頑張ろうと決めた。


「――優也さん!」

「イヴシエル?」

「魔神を倒して、平和になったら、その時は本当の家族になってくれますか!?」


 そう告げた彼女の表情は惚れ惚れとするような綺麗な表情だった。

 彼女にどんな境遇があったかは知らないけど、俺から言えることは一つだけだ。


「ああ! 約束だ!」

「――はい!!」


 魔神を倒して彼女と本当の家族になる。

 娘達を幸せにする。

 それが俺が異世界で生きる目標となった。


 夢だから、最後に彼女に向けてこれだけ言っておこう。


「俺のチートスキルを受け継いだ娘達が反抗期になったけど、俺は頑張っていくよ」


 夢の中だから聞こえるわけないと思って言ってみたら……イヴシエルが笑った気がした。

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