第986話 幻想的な風景は茨城にもある

「珍しいの、寒い寒いと引きこもる常陸が、このように寒い朝に自ら出るとは」


俺は早朝、織田信長、そして落ち込んでいる茶々達を誘って、袋田大子城の外堀になっている久慈川のほとりに出た。


「義父様、熊の毛皮を着ながら出ている真琴様では説得力はありませんけどね」


茶々は周りを和ませる気丈な振る舞いをして笑いを誘っていた。


「今日みたいに冷え込んだ朝に見られる特別な物を見せたくて」


肌を刺すような冷え込みの中、川面を見ると


「あっ、良かった~やっぱり今日なら見られると思った」


「ん?・・・・・・おっ、川を流れる流氷か?」


「信長様『シガ』って言うんですよ」


『シガ』今見ている久慈川で厳冬期、年に数えられるほどしか見られない川の流氷。

『晶氷』『氷晶』などとも言われる現象で、薄い氷が流れる現象。

地理的な要因で見られる川は少なく、珍しい現象らしい。


「へぇ~本当に茨城のことなら詳しいわよね~真琴様は。こういう物を絵に描けば言うことなしなのに」


「お初まだ、それを言うか?」


お初は萌え絵をいつまでも受け入れられないスタンスが笑える。


「まるで氷の華のよう・・・・・・」


茶々が呟くと


「茶々様、氷花や氷華って漢字で表されたりするんですよ。って、私も真琴君と同じく常陸国育ちだけど初めて見ました」


茨城県民でも実際に見たことがある人は少ない。

気象条件が上手く揃わないと見られない現象だからだ。


「マコ~、朝日に輝いて宝石のようだよ」


「おっ、珍しいな、お江なら、かき氷にしようとか言うと思っていたのに、うっ、頸動脈を絞めるな」


「もう、せっかく感動していたのに」


お江に静かに首を絞められ落ちそうになる。


「すまんすまん、謝るからやめてくれ」


茶々がお江の肩を叩いて止めてくれた。


「静かにせい。こういうのを常陸の歌で表現するなら、『川の華 聖光の久滋 心洗う』とでも詠むのか?」


「字余りですが、綺麗な俳句だと思います」


「ふっ、そうか?良いか?ふはははははは」


織田信長は俳句を詠み上機嫌だった。

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