第88話 銀閣寺城御成御殿・行幸の間

 織田信長は現在、複数の城を築城中。


俺の引っ越し先の大津城、京の都の嵐山と、銀閣寺近くの吉田山、東近江の賤ケ岳、西近江の牧野、石山本願寺跡とほぼ同時進行。


かなり無理なような気はするが、俺が提案したパネル工法が活躍しているらしく順調に進んでいるとのこと。


そんな築城ラッシュの中、俺は安土城本丸天主の茶室でいつものように信長と一緒に茶々が点てるお茶を飲んでいた。


「常陸、今日呼んだのは吉田山に造らせている銀閣寺城の事なのだが」


銀閣寺城?なんちゅうネーミングセンス織田信長。


吉田山に作られている城は特別な城として作られていた。


吉田山は京都盆地の北東にある隆起した山で近くには銀閣寺が存在する。


その銀閣寺の城内として作られているのが、信長の京での寝所となる城、本能寺の経験を生かしてかなり巨大な堅牢な平山城として築城中。


嵐山が京の西の備えの武骨な山城だが、吉田山に作らせている城は絢爛豪華な真逆な城となっている。


「帝に行幸していただくための御成御殿を作っておる。そこにじゃ、突飛抜けた物を作りたい」


「突飛抜けた物?」


「帝や公家衆、列席する諸大名の驚くものじゃ」


具体的に何が欲しいのかを言ってもらわないと俺には理解が出来ない。


観覧車やメリーゴーランド、ジェットコースターでも提案すれば良いのか?


水車がある以上、回転する歯車構造は作れる、となると人力だか馬だか牛だかにロープを引っ張らせて動かすものを作りかねない。


そんなものが城に有ったら誰しもが驚くと思うけど、行幸で帝がお出ましになるのにそんな物作ったら帝、乗せられちゃう?


想像すると恐れ多くて身震いがした。


時の陛下にそんな物に乗らせてはいけない。


腕を組んで考える俺を見ながら信長は、バリボリバリボリとビードロの瓶から金平糖を出して食べて待っていた。


信長、短気ではあるが俺が考える時間が発生するのは予測していたのだろう、そんな時は静かに待つ人物なのだ。


金平糖ね、美味しいよね、食べ出すと止まらないんだよね・・・・・・。


ん?瓶、ガラスの瓶がこの時代って普通にあるんだよね、そういえばステンドグラスってヨーロッパではもう普通に教会とかで普及しているんだよ、ひとしくん人形クイズ番組で見た。


「ステンドグラスって知ってます?南蛮寺とかに使ってませんか?」


金平糖を食べる手を止める信長。


「聞いたことがないな、南蛮寺は南蛮建築技術も応用しているが資材はすべて、この国の物」


俺は金平糖の入っている瓶を指さす。


「南蛮ではいろいろな色の板状のガラスを組み合わせて一枚の絵として南蛮の寺に用います。そうですね、障子の代わりと言ったほうがわかりやすいかもしれませんね。確か、この時代では、もう一般的に作られているはず、ガリレオが望遠鏡作るのにガラス使っていたはずだし、で、まだ日本に入ってきていないステンドグラスを御殿に取れ入れてはいかがですか?」


っと、言うと金平糖の入っていた瓶を眺め出している信長。


「面白い、なかなか良いぞ、よし、すぐにフロイスに申し付けよう」


と、立ち上がる信長、結論が出ると行動は早い。


「あっと、ちょっと待ってください」


と、止める俺に振り向く信長。


「フロイスって、宣教師ですよね?そのまま注文してしまうと宗教画のステンドグラスになってしまうので注意が必要かと」


と、言うと今一度座る信長。


「どういうことじゃ?」


「南蛮の寺のステンドグラスって基本的には確か宗教画なんですよ、俺のつたない知識でしかないんですが、キリストが生まれた時の絵や、その母マリアだったり、でですね、それを作られてしまうと『帝』が入るのによろしくないかと」


「確かにそうだな」


「ですから、デザイン、えっと、絵柄はこちらから指定しないと」


「あいわかった、狩野永徳に書かせたうえで、そのステンドグラスとやらを作らせようではないか、ははは、流石に未来人、常陸だな、雇って良かった良かった」


と、出て行った。


ん?狩野永徳って見たことあるぞ、屏風、ゴールデンウイークに米沢城のお祭りに行ったときに博物館で本物公開していた。


確か国宝じゃなかったか?洛中洛外図屏風。


その絵師デザインのステンドグラスって、国宝を通り越して世界遺産になってしまうのでは?


と、考えると鳥肌が立った。


ブルブルっと震える様子を見て、茶々が熱いお茶を点ててくれた。


違うんだよ。


今は水を一気に飲んで、ため息を出したい気分なのに、こういうとこが、まだまだだな。


と、熱い茶をすすった。


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