(仮題)弾雨に踊れ、エンターテイナー!④
しかしまさか、これほど派手にドンパチをやらかしていたのに、第三勢力が介入してくるとは組織『エンターテイナー』の誰もが思っていなかった。
自らを生き埋めにして、地下を制圧した帆山。彼女は微かな殺気を覚え、慌ててバックステップした。すると、一瞬前まで帆山がいた場所の天井に大穴が空き、それに見合った大男が降って来るところだった。
「な、何?」
味方……ではないな。権田とも安野とも図体が違いすぎる。
その人物も黒っぽい格好をしていたが、その上からでも全身が屈強な筋肉で覆われているのは分かる。
そして防弾機能でも兼ねているのか、マントを羽織っていた。これでは相当動きにくかろうに。
しかし、そんな帆山の考えは杞憂だった。
何だかRPGのラスボスみたいだ、と帆山が思った直後。
床にひびが入るほどの勢いで、大男は帆山に向かって駆け出してきたのだ。
「くっ!」
慌てて身を翻し、尻餅をつきながらも体当たりを回避。
ゆっくりと振り返った大男の顔には、皺とも傷跡ともつかない凹凸がたくさんある。
一体どれほどの死線をくぐり抜けてきたのか? いや、考えるのは後回し。
こちらにのっそりと足を向ける大男に向かい、即座に体勢を立て直した帆山は、ナイフによる連撃を繰り出した。
しかし、そのほとんどが最小限度の動きでかわされる。
焦って手元が鈍ったところに、強烈な手刀が打ち込まれた。
「がっ!」
これにはたまらず、帆山はナイフを取り落とした。
それを拾い上げた大男は、ナイフを素手で掴んでぐにゃり、と折り曲げ、使い物にならなくしてしまった。
この組織で、近接戦闘では誰にも引けを取らないはずの帆山が、明らかな劣勢に追い込まれている。
敵の動きは相変わらずのっそりしているが、格闘戦にでもなったら間違いなく私は殺される。そんな考えが浮かんだ。
しかし、相手の素性も知れないままに死んでしまうのは誠に不本意だ。せめて一矢報いてやろう。
そう思った帆山が柔術の構えを取った、その時だった。
《瑞樹、逃げろ! それから伏せろ!》
権田からの通信。今はそれに頼るしかないと判断し、帆山は前後左右に跳躍し、少しずつ大男から距離を取った。
そして、『それ』が目に入った。手榴弾だ。
先に危険を知らされていた帆山はともかく、大男は突然致死性の高い武器が眼前に降ってきたのを見て、微かに動きを止めた。
連続する爆音。発せられる熱。周囲に散開していく金属片。
通常の防弾装備では防ぎきることは困難であるはずだ。が、大男はうずくまり、マントを被るようにして、その手榴弾によるダメージを無効化してしまった。
なっ、何なのよコイツ!? と困惑する帆山の視界に、もう一人の人影が入ってきた。
権田だ。どうやら、大男が天井に開けた穴から自分も降り立ったらしい。
権田の姿を認めたのか、大男は戦闘態勢を解いたかのように見える。権田の方も、狙撃銃は背負ったままで、予備の拳銃にも触れようとはしない。
口火を切ったのは、権田だった。
「久しぶりだな、大倉敏也。名前に似合わず、また随分とのっそり動いているな」
「権田宗次郎、そういうお前こそここで何をしている?」
「積もる話が合ってな。昔のバディだからといって、安易に受け答えすることはできないぜ」
「確かに自分も、今それを明かすのは少々場が悪い。だが、ここにいる人物の中にお前の仲間がいるのなら、全員の安全は保証しよう。今日は喧嘩はナシだ」
「そうだな。あとで少々、お前の最近の動向について調べさせてもらう」
「構わん。自分の口から話すのでは信用されんだろうからな」
それだけ言うと、大男――大倉敏也は非常階段へと向かって駆け出した。
「権田さん、今のは……?」
「まあそのうち話す。だが今は任務中だ。帰りの足になるヘリを待たせるのも悪い」
そう言い終えた瞬間、二人のヘッドセットに安野が割り込んだ。
《こちら安野、地下二階の薬物精製プラントを制圧。流石にもうじき警視庁の偵察ドローンが飛んできます。皆でさっさとトンズラしましょう》
「こちら権田、及び帆山。了解した」
こうして三人は、姐さんの陣取る、これまた都内にある活動拠点へと帰ることとなった。
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