第7話 機構

ようやく見えてきた。一時期は死をも覚悟したが、ついにたどり着いたのだ。見た目はそんなに大きくない。無人島かもしれない。だが、それでもよい。なんとか生き延びることが大事なのだ。ルーチンはかつて技師であった。何もないこの状況からでも、知識と技術を使ってなんとか生き抜こう、と決心したのであった。


まず、次のように言葉を定義する。

素数指数表現に現れる自然数がすべて1か0になるまで繰り返し適用した表示を「再帰素数指数表現」と呼ぶことにする。

有限の表記で終わらせるため、以降がすべて0になるようなものは書かないことにする。また、

1の再帰素数指数表現は1である。

さて、ある自然数の再帰素数指数表現を3つの部分に分ける。

I.小さい素数から連続する0の項

II.はじめて0でなくなる項

III.それ以外の項


たとえば、

(0,0,(1),1,(1),0,1)

を考える。

I部分は0,0

II部分は(1)

III部分は1,(1),0,1

である。


ほかに、

(1,(1))

を考えると

I部分は無い

II部分は1

III部分は(1)

である。


また、

((1,1))

は、

I部分は無い

II部分は(1,1)

III部分は無い

である。


さて、概略の説明に入ろう。詳しい定義は次回以降である。

I部分の役割はメモリーである。これは一進法的にのみ数えることができる。

無し

0

0,0

0,0,0

0,0,0,0

0,0,0,0,0

のようなイメージである。つまりある自然数を保管する役割を持つ。


II部分の役割は送信管である。III部分で作り出した自然数をI部分を送り込む役割を担う。また、後ほど、III部分の極限を取る順序数としての役割を果たす。さらに、最後に出力する素数を表す数でもある。


III部分は主要部分で、順序数を表す。前回までの説明で作ってきた順序数をそのまま表記する。ただし、(1),1のような場合はまだ定義されていないが、これは後ほど行う。


まず、概略を説明する。例として、

(0,0,1,(1))=245

を用いて巨大数をつくる。

I部分は0,0

II部分は1

III部分は(1)

である。

III部分の(1)は、ω^ωに相当するところだが、これの基本列を取る。すなわち、

1

1,1

1,1,1

1,1,1,1

...

このもとの自然数番目、すなわち245番目の基本列を取りIII部分を変形させる。すなわち、

(0,0,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1)

この数をxとしよう。

ここで、

I部分は0,0

II部分は1

III部分は245個の1

である。III部分の順序数はω^244に相当する。

次はまたIII部分の基本列を取る。

...1,1,1

...1,0,0,...(x個)...,0,1

と変形することになる。(まだそこまで巨大な数ではない。素数定理によると、(0,0,...(x個)...0,1)の大きさは、x ln(x)程度である)


別の例を挙げよう

(1,1,1)=30

を用いて計算をする。

I部分は無し

II部分は1

III部分は1,1でωに相当する。

1,1の基本列は

0,1

0,0,1

0,0,0,1

...

である。そこで、この30番目を取る。

(1,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,1)

となる。

さて、ここで、

0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,1

は、後続順序数であり、31に相当する。

後続順序数であるとき、この列の左端の0を送信管(すなわちII)を通して、I部分に送り込む。とはいえ、この時点でIIがなんであるかは問わない。ただ、0を(1,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,1)=262個にコピーし、I部分に送り込むのだ。

結果、

(0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,1,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,1)=3192797

となる。

I部分には、262個の0

II部分は1

III部分は29個の0のあと1

となっている。


そのあとは、

I部分に3193059個の0

II部分に1

III部分に28個の0のあと1

という具合に進行する。


さて、このまま続けると、最終的に、

(0,0,0,...,0,1,1)=x

という形になるが、

III部分の1をさらに後退させて消滅させたのち、x個の0を1部分に追加して、計算は終了する。そのときの形は、

(0,0,0,...,0,1)

となる。これは素数である。このようにして巨大な素数を手にすることにする。(ただし、これはまだべき乗レベルでそれほど大きい数ではない)

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