第5話 「再会」

 夢見る少女になって、一人でほほ笑んでいたとき、カフェのドアがぎい、と重苦しい音を立てて開いた。

「ああ、お久しぶりです」

「ほんと、ほんと、マスター、元気だった?」

「おかげさまで」

 ……この声は。

「お、我妻先輩、お久しぶり」

 その男は、呼ばれもしないのに勝手に私のテーブルにやってきて、ひょいと顔を覗き込んだ。

 「やめてよ、妹尾」

 妹尾つかさ。私の大学時代の後輩だ。私は教員免許を取得しても、教員採用試験を受けずに民間に就職したが、妹尾は子供好きだったのもあり、中学校の社会科教師になった。社会科は倍率が高く、もともと優秀だった妹尾もなかなか試験を突破できず、非常勤講師をしながら採用試験を受け続けていたようだ。彼が合格した時には、関係者が集まって祝賀会を開いた。その時以来、彼には会っていなかった。

「つれない先輩。俺泣いちゃうよ?男殺し!責任取って」

「馬鹿なこと言わないで。今日は冗談言いたい気分じゃないのよ」

 妹尾は、私の前に腰かけると、じっとこちらを見つめた。

「なんかあったんですか」

「ん。秘密」

「悲しいことなら、俺が胸を貸しちゃう。思う存分泣くがよいぞ」

「残念ね。とてもうれしいことよ」

 注文したココアが運ばれてきて、妹尾はただでさえ甘いそのココアに、たっぷりホイップクリームを入れてかきまぜ、昔のように「カスタマイズ」した。もはやチョコレートクリームを飲んでいるようにどろどろしたそれを、苦労してストローで吸い続ける妹尾は、相変わらずだったが、いつのまにか影のようなものが顔に宿っていた。

「なんですか、うれしいことって。男?まさか、まさかですよね~」

「そのまさか」

 妹尾は、クリームをすするのをやめて、私の指を見つめた。その指は、真壁さんが触れた指だったので、私は妹尾に見つめられるのが恥ずかしくて、さりげなくカップの裏側に隠した。

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