第26話 前途多難の初討伐

 太助がパーティの話を振った次の日、早速と行き込んだカリーナの先導で冒険者ギルドへと向かっていた。


 エンティはさっさと習いたかった剣に属性を纏わす所謂、魔法剣を学びたいと嫌々ではあるが気が逸るカリーナに文句を言わずに付いて来ている。


 前を歩く2人を見ながら歩くこちらも2人、テルルとミンティア。


 ミンティアは相変わらずボゥーとした顔をして歩き、空を飛んでいる鳥を目で追っていたりする様子からこれからする事をどの程度、把握してるか不安に駆られる。


 そんななか、一番憐れなのはテルルだ。





 昨日、いつものようにボロボロになって帰ってくると興奮気味のカリーナと仏頂面のエンティに挟まれてダイニングに連れて行かれた。


 状況も分からずワタワタするテルルに


「明日、冒険者試験のゴブリン退治に行くから用意しておいてね!」

「えっ、えっ、わ、私はもう終わって……」

「私達はパーティだ。苦楽は共にする。間違ってはいないはず」

「は、は、はい!? ぱ、パーティ? 何の話……」


 エンティにまで詰め寄られて混乱に拍車をかける。


 2人に詰め寄られてミンティアより濃い、青色の瞳に涙を溜める。


「いいわよね?」

「勿論、異論はないな?」

「あうあう……」


 SOSを発しているテルルが離れた位置で右手にリン、左手にアコ、そしてティカを頭の後ろに装備している太助に向けてくる。


 まるで息を合わせたかのように4人同時、いや、足下にいたタヌキもバッチリのタイミングで顔を背ける。


「みゅぅぅ……」


 とても情けない声音であったが太助の耳に長い間、残ったそうである。





 などと考えていると冒険者ギルドに到着した太助達。


 まだ興奮気味のカリーナが扉を開け放つだけでなく、要らない事まで放つ。


「私が来たわっ!!」

「はい、いらっしゃい」


 カリーナのやらかしに冒険者ギルドにいた者達は目を点にさせるが、おそらく私の辞書に動揺という文字はない、と本気で言いそうな冒険者ギルドの生き字引こと、エルダ―エルフのミラーが出迎える。


 太助はティカ達を抱えたまま蹲り、テルルは太助の影に隠れようとする。


 それを見て嘆息で済ませるエンティと何事もなかったように虚空を見つめるミンティア。


 3人がミラーがいるカウンターに行き、まだ蹲って他人のフリをする太助達を不機嫌そうに見つめるカリーナとエンティ。


 目の前にいる3人の隙間から覗き見るミラーがヘラヘラした笑みを浮かべながら太助に話しかける。


「ちなみに私の辞書の空欄には『楽しい事は正義』と書かれてますよ?」

「ミラーさん! 本当は心を読めるんじゃないんですか!!」


 飛び跳ねるように立ち上がった太助を見て、へっへへ、と笑うミラーに戦慄する太助。


 何を言っても求める答えを言わなさそうだと諦めた太助がテルルを連れてカウンターに向かう。


 カウンター前にやってきた嫌そうな顔をする太助に一度、微笑を浮かべた後、カリーナ達を順々に見つめて再び、太助を見つめる。


「この子達でパーティを組むのですか? 面白い……偶然なのでしょうか」

「まだ何も言ってないですぅ……」

「テルル、目の前にいるのはミラーさんだよ?」


 怖いよぉ、と言いたげのテルルの頭を撫でてあげたいがティカ達で塞がれており出来ないのでリンが代わりを申し出てやってくれる。


 先程から変わらずボーとしているミンティアを何か探るように見つめるミラーに詰め寄るカリーナとエンティ。


 近くに張っていたゴブリン討伐の依頼書をカウンターに叩きつける。


「もう! 私達は冒険者試験を受けに来た。早く手続きをしてよ」

「そうだ。ゴブリン如き、さっさと済ませたい」

「はいはい、分かりました」


 肩を竦めるミラーは酷くあっさり引き下がると依頼書にハンコを押し、サラサラっとサインをする。


 手渡された書類を受け取り、満足そうにするカリーナとエンティは頷き合うがすぐにしまった、という顔をするとプイッと顔を背けて冒険者ギルドから出て行こうと背を向ける。


 そんな2人に着いていくミンティアも込みで見つめる太助が溜息を吐こうとしたタイミングでミラーが話しかけてくる。


「タスケ君、頑張りなさい」

「えっ? はぁ……あの2人は特に俺の言う事を聞いてくれないけど頑張ってみます」

「そういう意味じゃないんですけどね」


 珍しく苦笑いをするミラーを見て、困惑する太助が聞き返そうとする前に「いってらっしゃい」と送り出される。


 ミラーが何を言いたかったかは気になるが騒ぐカリーナ達に呼ばれ、諦めて冒険者ギルドを後にした。





 太助達は冒険者ギルドを出た後、前回、カリーナと向かった森へと到着した。


 ゴブリンの気配を見る為に同行を太助は申し出たが、カリーナとエンティに即答で断られた。

 なので、仕方が無く太助は遠く離れた所からカリーナとエンティ、そしてミンティアを眺めていた。


 何かあったら飛び出せるようにティカ達を降ろしておく。


 ゴブリン捜索する3人をハラハラしながら見つめていると聞き覚えがある声で呼ばれる。


「やっぱりタスケか、こんなところで何をしておるんじゃ?」

「えっ? あ、巴さんにジッちゃん、アカさんも? そちらこそ、こんなところで?」


 振り返った先には銀髪の花魁姿の幼女がキセルを咥え、紫煙を吐き出す姿と青竜刀の代わりに釣り竿を肩にかける雄一、ベストポジションと言わんばかりに肩車されるアカの3人がいた。


 太助に聞き返されて鼻の頭に皺を作って不機嫌になった巴が近寄ると躊躇なしで太助の脛を蹴りあげる。


「質問を質問で返すな、わっちが聞いた事はキリキリと答えるのじゃ」

「つぅぅ! あ、あっ! カリーナ達の冒険者試験中です!!」


 蹴られて痛がる太助に追い打ちだとばかりにぽっくり下駄で蹴る動作に入ったのを見て慌てて答える。


 太助の様子を見て蹴るのを止めてキセルを咥える巴を見て苦笑いする雄一が巴の代わりに答える。


「こっちは夕飯の魚でもと釣りにな。そうか、この面子、4人でパーティを組む気なのか?」


 そう言う雄一が1人、1人を見ていき、一瞬、ミンティアの時に動きを止めたがすぐに太助を見つめてきた。


 雄一の行動に疑問を覚えた太助が質問しようとしたがアカの短い足で頭を蹴っ飛ばされる。


 痛がる太助に取り合わず、アカが前方を指差す。


「小娘達がゴブリンを見つけたようじゃが良いのか?」

「あっ! 本当だ!」


 見つめた先で草むらから顔を覗かせて奥を確認する様子を見せる3人が頷き合うのが見えた。


 ティカ達を抱えた太助はテルルを連れて追いかける。


 しかし、太助が来るのを待たずに戦闘を始める3人。


 まったく打ち合わせをした様子のない3人。各自で勝手に行動を始める。


 エンティは特攻するように飛び込み、カリーナは魔法を詠唱すると迷わず放つ。


「頑張れぇ~」


 そしてミンティアは応援して踊る。


 まったく連携が取れずに邪魔し合う形になる3人。


「私の邪魔をするな、当たるかと思っただろう!」

「貴方がトロイだけじゃないの?」

「2人共、危ない。『光○力バリア』!」


 喧嘩し合うカリーナとエンティ、それが見えてないようにマントに使える布を広げて持ち上げるだけのミンティア。


「3人共、ゴブリンといえ、真面目にやらないと!」

「みゅうぅ」


 必死に太助を追うテルルと絶望的にチームワークというモノが無縁な3人を見て泣きそうになる太助。


 それを見送っていた雄一達は踵を返して離れていく。


 背後をチラっと見た巴が横で歩く雄一に呆れた顔をして見上げる。


「やれやれじゃ。分かっておるよな、ご主人」

「……光○力バリアは毎回のように壊される……痛いぞ?」


 本気で呆れを見せる巴とアカが足と頭を同時に打撃を入れてきたものだから、さすがの雄一もこの2人の攻撃は充分に痛い。


 顰めっ面する雄一がやや拗ねるように明後日を見つめるのを見て、巴とアカは顔を見つあって嘆息する。


「ご主人、我儘も大概にせんと……」

「そうだ、2度も願いは聞いてやらんぞ?」


 2人にそう言われた雄一はもう一度振り返り、太助達を見つめて目を伏せる。


「……分かっている。だが……思ったより早かった。それもよりによって太助か」


 再び、前を見つめて告げ、少し口を閉ざして考える素振りをした雄一が呟くように言う。


「少し調べるぐらいは構わんだろ?」

「はぁぁ、ご主人のそれは死んでも治らん病気みたいもんじゃな」

「知って、余計に引き下がれんと言い出したら我の手加減少なめで、分かっておるじゃろ?」


 分かったと上の空で答える雄一を見る巴とアカは深い溜息を零す。


「「まったく手のかかるのじゃ」」


 同時にまったく同じセリフを言われた雄一はさすがにバツ悪いと思ったのか首を竦めた。

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