08.咲々芽さんは、気付いた?
「
「見てようが見ていまいが、他にどうやって行くのよ、異世界に? いちいちトラックに轢かれるわけでもないんでしょ?」
「と、トラッ……怖いわ!」
いつのまにか、隠れ里から異世界になってるし……。
「そもそも恐竜がいたとして、そのバットで何をどうするつもり?」
「
「……その常識を、もうちょっと他の部分で働かせようよ」
まあまあ、
「普通は、霊子だの隠れ里だのなんて話、眉唾でしか聞いてくれない人も多いのに、自分まで行くつもりで聞いてくれる人なんて稀だよ?」
「そりゃそうでしょうね。……というか、花音にはもともと事務所のことについては多少は話してたんですよ」
あの事務所は、警察が本腰を入れてくれないような不明者捜索を専門に請け負っている……という程度の情報だけど。
それでも、普通の女子高生――いや、当時は中学生だったけれど――が、何の疑問も持たずに『ああそうなんだ!』と受け入れられるような内容じゃないだろう。
ただ、花音に関して言えば、もともと常識という部分に多少の不具合をかかえているうえに、オカルト好き。
探偵社なんていうちょっと浮いた話も、昨日のミラージュワールドなんていう現実離れした話にしても、まるっと受け入れられたのはそのおかげなんだろうな。
「まさか環さん、花音まで連れて行く気じゃ……」
「いや、さすがにそれは無理だけどね」
苦笑する環さんに、今度は花音が詰め寄る。
「え? 今日召集されたメンバー、みんなで行くんじゃないんですか? 異世界……」
異世界でもないし、誰も
「う―ん……それはちょっと難しいかな。少なくとも、何度か経験を積んでからでないと、実際の事件に関わるミッションには参加させられないけど……」
「わかりました! あたし、がんばります!」
と、金属バットを肩に担ぐ花音。
まてまて……なにをがんばるつもりよ?
「環さんっ!!」
私の
「そんな……ガチで不思議そうな顔しないでくださいよ!
「いいんじゃない? やっと四台目の
「それには反対しませんけど……なんでよりによって
花音に向けた私の人差し指を目で追いながら、環さんが首を傾げる。
「ん――……勘かな?」
でたよ……。環さんの気まぐれ発言。
「あまねくんは、
環さんの質問に一瞬だけ上げた視線を、しかし、すぐにパソコンのモニターに戻す
「トラッキングは問題ないけど、
「なに言ってるのよあまねくん」と、花音が彼の横にひらりとピットイン。
「あたし、言うほど一般人じゃないからね?」
一般人でしょ、コテコテの!
「えっと、こう見えて結構体力はあるし、思いやりもあるし、よく友達から相談さるし……ああ、そうそう! 五百円玉貯金で一万円貯めたよ!」
「間違いなく一般人だよ! ただの庶民だよ!」
花音から金属バットを取り上げて、もとあった場所に立て直す。
「そもそも、一万円ぽっち、なんの役に立つのよ?」
「バカだなぁ咲々芽は……金額の問題じゃないってば。五百円玉十枚を使わずに貯め続ける、その根性に注目しなさいよ」
「十枚じゃ、五千円じゃん」
「……だ、だからぁ! 金額の問題じゃないって言ってるじゃん!」
「いや、根性の問題にしたって大した枚数じゃないからね? っていうか、それならこの前カラオケで貸した千円、その五百円玉で返してよ」
「もうない。使った」
「ダメじゃん! 根性なし!」
あれ? そもそもなんの話だっけ?
ああ、そうそう、花音がミラージュワールドにいくかどうか、みたいな話か。
「私は、絶対反対ですからっ!」
と環さんに向き直るも、すでに私たちのくだらないやり取りなどそ知らぬ様子で、
まだ何か、気になる点でもあるのかな?
「ところで
おもむろに振り向いた環さんが、今度は
「この壁の向こうは、誰の部屋?」
「あ、えっと……私です」
「ちょっと、そっちも見せてもらっていいかな?」
「え!? 私の部屋をですか? ど、どうしてですか?」
「深い意味はないんだけどね。霊粒子の位置が位置だし、一応、周囲は見ておきたいな、って」
「わ、分かりました……ちょっと、散らかってるんで……片付けてきますから、二、三分待ってもらえますか?」
そう言って、慌てて手嶋さんが部屋から出て行く。
二、三分で片付けられる程度なら、散らかってるうちに入らないよ。
「どうしたんです、環さん? わざわざ手嶋さんの部屋まで……」
「う――ん、別に、はっきりとした理由があるわけじゃないんだけど……咲々芽さんは、気づいた?」
「なにがです?」
「え―っと、それじゃあ彼女、うちの事務所に何を相談しにきた?」
「え? それは……弟の琢磨くんが、行方不明になったって……」
「そう。普通は、人がいなくなれば〝行方不明〟だとか〝失踪〟だとかって表現するよね」
「そうですね」
まあ……言われてみれば、なかなか他の言い方も思い浮かばない。
「でも、雪実さんはずっと、弟が〝消えた〟って言ってたんだよ」
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