第六章
第135話 第六章が始まるらしいですよ。
「単刀直入に言うぞ。出来るのか、出来ないのか、それだけを答えろ」
面会室、目の前には椅子に縛られ、足に重りを付けられ、両手を後ろで拘束されている、目つきと性格の悪い丸い男が居る。
「ふん、仮に出来たとして、そんなことしてこの私に何の得がある?」
相変わらずムカつくなこいつ……
「まあそう言うなよ丸男」
「だから誰だよ丸男って!!私の名前はだな……!」
「ええい黙れ興味が無いぞ丸男」
「頼みに来てるのにその言い草!?」
そう、こいつ……ミューさんを改造した諸悪の根源であるところの丸男こと……丸男である。
「丸男こと丸男ってなんだよ!!だから、私の名前は!!ゼ…」
「うるせぇ黙れ丸男。唇の上下を縫い付けて二度と口が聴けないようにしてやるぞ」
付き添いのイジッテちゃんがイライラしてキツいツッコミを入れております。
「なんなのこの幼女怖いんだけど!」
怯えておる怯えておる。まあ、そのくらいの方がこっちとしては会話を進めやすいのでちょうどいい。
「いいか丸男、一応言っておくけど、僕らはお願いしに来たんじゃない、取引に来たんだ」
「取引?」
「ああ、お前が今逮捕されてるのは、私達が軍に罪を訴えて引き渡したからだ。もしも僕らの言うことを聞いてくれるなら、その訴えを取り下げても良い」
「なんだと!?そ、そうしたらここを出られるのか?」
「それはどうだろうな、捕まった後でいろいろ調べられてマズい証拠がいくつも出て来たんだろう? さすがにそっちまで無罪ってわけにはいかないと思うぞ。ただ、多少は罪が軽くなるだろうし、なによりも、お前に人を助ける技術や国の為に貢献する意思がある、ということを示せば、お前をただ投獄しておくよりは上手く利用した方が国にとって都合がいい……と思われるかもしれない。僕らからも、そういう進言はしよう」
さて、どう出るか。
これで乗って来てくれたら楽なんだけど……。
「ふん、そんな不確定な甘言に惑わされるとでも思ったか?」
さすがに乗ってこないか。
となれば……
「では、確実で即効性のある報酬でどうだ?」
「……つまり?」
「つまり、お金だよ」
僕はテンジンザさんから預かった金貨を1枚、目の前に置く。
「ふん、金貨一枚くらいで……」
もう一枚、もう一枚、もう一枚、もう一枚。
「5枚か……悪くはないがその程度で……」
ジャラジャジャラと、あと5枚手のひらを開いて机の上に落とす。
「金貨10枚、これだけあれば、この腐った国なら兵士や責任者を買収して、外に出るとまでは行かないまでも、牢の中で快適な暮らしをさせて貰えるのでは?」
表情が変わった。
「もちろん、さっきも言ったように僕らの依頼を受けてもらえれば、人助けをしたとして罪を軽くするようにも進言します。その時点で死刑は無くなるはず。ならば長い牢屋生活……少しでも快適に過ごしたいと思わないか?」
だいぶ揺らいでるのが表情でわかる。
「……10枚では、せいぜい数年間だろう。そんなわずかな期間の為に手は貸せんな」
「お前なら、数年あれば自分で金を稼げるようになるんじゃないか? 牢の中でもある程度の自由を与えられれば、何か国の役に立つものを作れるでしょう。作ったものをを売るなり、技術を売るなりすればいい」
「それには開発予算が居る、もう少し……」
僕は、さらに3枚追加する。
「……いや、しかしそれでは……」
もう1枚。
「……もう少し……」
もう1枚。
「……どうせなら、一気に……」
その瞬間、僕は机の上に置いていた金貨を全て自分の方に引き寄せて、机の上から持っていた皮袋に戻す。
「おい、何を!?」
「言ったろ? これは取引だ。この金額で引き受けてもらえないのなら、この話は無かったことにするよ」
「おい、いいのか?」
イジッテちゃんが問いかけてくるが、僕は構わずに立ち上がり、
「――――さようなら、お前は、牢屋の中で死ぬまでみじめに暮らすのがお似合いだよ」
そう言い放ち、背中を向けて歩き出す。
「まっ、待ってくれ! 15枚!15枚でいい!それで充分だ!やらせてくれ!」
すぐさま後ろからそんな言葉が飛んでくる。
わかりやすい奴め。
まあそりゃそうだ。金貨15枚がすぐ目の前にあったのに、突然それが手に入らないとなれば惜しくなるに決まっている。
僕はわざとらしく大きくため息をついて、振り返る。
「一つだけ確認させろ。本当に出来るのか? ――――ミューさんを助けることが」
本当はこんなやつに頼みたくはない、だが……あれから目を覚まさないミューさんを助けるには、そもそもの改造手術をしたこいつに頼むしか……。
「―――たぶん、出来ると思う」
「たぶん?」
「いや、その、前にも言ったが元の人間に戻すことは出来ない。だが、角や杖が折れただけなら、改造後の状態に戻すだけでいいのだろう? それならおそらくは出来る、出来るが……正直、その損傷で意識障害というのは私の研究では無かった症状だ。だから、意識が戻るかどうかの確約は出来ない」
……ふむ、ここは嘘をついてでも助けられると言った方が都合が良いはずだけど……一応は、研究者の誇りみたいなものがあって、結果に対しては嘘をつけないのだろうか。
「角と杖を直せば、体調は安定するか?」
「それは、おそらくそうだ。改造によって魔力が体内の奥深くまで循環する仕組みになっているから、おそらくどこかの回路から魔力が漏れていることで体調が安定しないのだろう。その部分はどうにかなるはずだ」
………嘘やその場限りのごまかしを言ってるようには見えない。
「どう思う?イジッテちゃん」
「……ん? まあ、こいつがそう言うならそうなんじゃないのか?」
イジッテちゃんはこう見えてわりと鋭いところがあるからな。そのイジッテちゃんがそう言うならそうなんだろう。
「おい、こう見えてってなんだ」
「ん? 超可愛く見えてその上優秀、って話だけど?」
ガインガイン。
「あっ、ダーリン! 心配してたぞ! 大丈夫だったか? 怖くなかったか? お腹壊さなかったか?
外に出ると、ミルボさんのお出迎えだ。
今僕たちは、3つのチームに分かれて行動している。
チーム名は、いつも全裸だと芸が無いから、スケベチーム、おげれつチーム、星空のきらめき☆チームに分けよう、と提案したのだが意味が解らない、と言われて却下された。
そうだろうそうだろう。僕もそう思う。
僕は何を言ってるんだ??
3つ目なんて適当にギャップを出そうとして言っただけの安易なボケじゃないか、と自分を恥じたものです。
まあともかく、ミューさんの治療の為にこの懐かしのキャモルの国に来るチーム、タニーさんの無事を確認する為にドルクに行くチーム、そして仲間集めの為に貴族たちへ情報を伝えに行くチームだ。
ドルクの様子次第では、ミューさんも病院に入院させたいし、それでミューさんが回復すれば丸男を連れていく必要はないのだけど……折れた角が不安材料として残り続ける可能性は消しておきたい。
「ところでミルボさん、仲間集めの方に行かなくて良かったんですか? リーダーが居ないんじゃ説得力無いですよ」
「大丈夫大丈夫!実質的な責任者はミナナの方だってみんな知ってるから!」
それはそれでどうなんだという気がしないでもない。
「それよりダーリン? ミルボさん、だなんて他人行儀じゃない? ミルルって呼んでいいのよ? 歴代のダーリンにはみんなそう呼んでもらってるの!」
「じゃあ嫌です」
「なんで!?」
「歴代のダーリンたちに並び立つ気は無いので…」
というかそもそもダーリンになる気は無い。
「そうか、そう言うことなのね……」
あっ、無下に断って機嫌を悪くされてもダメなんだった。
慣れない!!人から好かれようという言動に慣れない!!
「わかったわ……歴代のダーリンたちなんてあっという間に追い抜いて、一番のダーリンになる、そう言うことよね!」
「違います」
「照れ屋さん♪」
あれ!?話通じない人だ!?
イジッテちゃんはもはや死んだ目で僕を見ている。
焼きもち妬いてくれるならまだしも、その目で見られるのは辛い!
僕がそんなふうに心を痛めていると、背後に突然気配を感じて振り返る。
「お待たせしてすませんヌヤ」
独特の語尾と共に現れたのは、僕の2倍以上はあろうかという大男で、その肩に丸男を担いでいる。
岩男が人間に転生したのですか?
「オイは、キャモル陸軍二等兵のユウベと言うものヌヤ。囚人の護送役を任されたヌヤ。よろしくおねがいしますヌヤ」
いや語尾気になる!!
あと一人称はオイなのか。
短い黒髪に穏やかな笑顔。ゆったりとした布の服と皮のズボンに身を包んでいて、ぱっと見は兵士らしい格好には見えないが、腰には僕の背丈くらいの大剣が差してある。と言っても、この人のサイズからすると普通の剣くらいの感覚なのだろうけど。
「どうも、よろしくお願いします、コルスです。こっちはイジ……イジーちゃん。それとミルボさんです」
軽く自己紹介。イジッテちゃんと言おうと思ったけど、初対面の人にその名前で紹介するとイジッテちゃんは怒るし、イージスと紹介するのもアレなので、イジーということにした。
ちらりとイジッテちゃんを見ると、まあ良いだろう、という顔をしている。合格いただきました!!
「おい、いつまでこの体勢なんだ、降ろしてくれ」
ユウベさんの肩の上で丸男が何かわめいている。
「ダメヌヤ。絶対に目を離すなと命令を受けているヌヤ。この形が一番安心ヌヤ」
「私は安心じゃない!トイレに行きたくなったらどうするんだ!」
「だからオムツ履くように言ったヌヤ……」
「絶対嫌だよ!!トイレにすら行かせないなんて人権侵害だ!!」
「すまんヌヤ、この国では、犯罪者に人権は無いヌヤ」
「怖い国!!」
とは言え、漏らされたらこっちも嫌なので、その時は腰に紐をつけて用を足させてあげるように話し合って、何とか承諾してもらった。
「ぬーん、でも心配ヌヤ……紐を切って逃げてしまわないヌヤ?」
「大丈夫です。する時も僕が近くで見てるので」
僕のせっかくの提案に、丸男が反発する。
「やめろよ恥ずかしい!!」
「僕は恥ずかしくない!!」
「何で恥ずかしくないんだよ!!」
「なんなら見てる僕も全裸になろう!そうすればお互い恥ずかしくないだろう!」
「いやお互い恥ずかしいだろ!!」
「僕は恥ずかしくない!!」
「なんでなんだよ!?頭おかしいのか!?」
「はい」
「肯定!!!肯定されたらもうしょうがない!」
この辺りで、イジッテちゃんが「何の話なんだよ!」と大ツッコミを入れてきたので、この話はこれで終わりとする。
ミルボさんがちょっと引いてるけど、まあそれはそれで好都合だと思うこととしよう。
そんな会話を、軍基地を出てすぐの場所でしていると、さすがに人目が集まってきて中々に気まずいが、同時にうずく。
これは……脱衣ボンバーチャンスでは!?
「そんなチャンスはねぇよ!!」
イジッテちゃんのフライングニールキックが顔面に直撃したので、せっかくのチャンスを諦めることにした。
惜しい……
「惜しがるな。捕まるぞ」
本当だ、近くに軍人さんもたくさんいる。
脱衣してすぐさま羽で逃げる、という手も有るが……どうする僕!?
二度目のフライングニールキックです。はいはい、やめますよー。
なんてことがありつつも、僕たちは無事に拠点に戻ってきた。
そしてさっそく、拠点地下の中にある一つの部屋に入る。
そこは本当になんてことのない、四方を壁に囲まれただけの部屋だが、ベッドがあるのでミューさんを寝かせてある。
「――――あら、久しぶりねぇ丸男?」
ベッドの横には、まだ憔悴した様子のパイクさんがずっと看病を続けていた。
「ひっ…!」
恐怖の感情を見せる丸男。
あの時、矛へと変化したパイクさんに散々やられたもんなぁ。記憶がフラッシュバックしたのだろう。
「治せるなら治して、出来ないのなら……」
ゆらりと立ち上がるパイクさんの全身から漂う気配は、僕ですら気圧される迫力があった。
それだけ本気でミューさんのことを心配しているのだろう。
丸男はユウベさんの肩の上で、震えながらユウベさんの頭部に抱き着いている。
「おう、よしよしヌヤ」
ペットをあやす感じのユウベさん。まあ、あの体格差なら実際そんな感覚なのかもしれない。
「まあまあパイクさん、怯えてたら出来るものも出来ませんよ。ともかく、様子を見てくれ」
僕が間に入り、丸男にミューさんの様子を見させる。
肩の上から、じっとミューさんを見た丸男が、こうつぶやいた。
「――――――なるほどな……これはなかなか厄介だぞ……」
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