幼女を盾に勇者は進む。

猫寝

プロローグ

第1話

「痛い!痛い痛い痛い!!待って!痛い!すごく痛い!」


 洞窟の奥深く、僕の前に立ちふさがり、敵の攻撃をその体で受け止めつつ叫び声をあげている彼女に声をかける。


「あの、ごめん、ちょっと、あの、やめてくれます?そうやって痛がると、僕が凄い悪者みたいじゃないですか。女の子を盾にしてるクソ外道に見えるじゃないですか」


「実際その通りだよね!?痛い!」


「いやそうですけど、そうなんですけども」


 その姿に、僕らの前方にずらりと並んだ大量のモンスターたちも、なんだかざわざわし始めた。


「あんな外道、今まで見たことないぜ…!小さな女の子の後ろに隠れるなんて!」

「なんかオレ、攻撃するの申し訳なくなってきた……くそっ!あの子を助けたい!」

「このチキン野郎!恥ずかしくないのか!女の子がかわいそうじゃないか!」


 おかしいな……近隣の村の畑を荒らし、農家の皆さんを困らせている極悪非道なモンスターを退治に来たはずなのにな……?


「あの、聞きました?僕酷い言われようなんですけど。血も涙もないはずのモンスターたちに、クソ外道扱いされてるんですけど」


「大丈夫!私は傷つかないから!痛いけど!」


「僕の名誉が大変傷ついているし、心が痛いです」


「お前に傷つく心があるとは意外だったな!そもそも、これが私の役割なんだから、仕方ないだろ!だって私は――――」


 そう、それは全くその通りだ。


 だって、君は――――伝説の盾なんだからさ!



―――――――――――――――――――――――――



 あれは本当に、奇跡のような偶然だった。


 駆け出し冒険者の僕が、伝説の盾が眠っているという噂のダンジョンへと入って行ったのは良いが、モンスターが強すぎて奥には進めずに逃げ回っていたら完全に迷子になり、進むことも戻ることも出来なくなってしまった時のことだ。


 僕はやけくそになり、弱い爆発魔法を自分の服の中に出して、それによって服を吹き飛ばし一瞬で全裸になるという、飲み会で鉄板の一発ギャグ「脱衣ボンバー」を、なぜか誰も見ていない洞窟内でやってみた。


「脱衣ボンバー!」


 服は見事に吹っ飛び、僕は見事に全裸になった。

 飲み会なら拍手喝さいを貰っていることだろう。


 ―――が、その直後、違和感に気付く。


 吹っ飛んだ服が空中で止まったのだ。


「……なんだ…?」


 壁でもなく、天井でもなく、本当に何もないところで止まった服を取ろうと引っ張ったら、突然、横の壁に穴が開いた。


 どうやら、魔法で見えなくしてある紐があり、それを引っ張ると壁の入り口が開く仕掛けになっていたらしい。


 中に入ると、奥まで長い通路が繋がっていた。

 壁の所々には明かりが灯っていて、足元まで明るく、モンスターも居ない。


 誰が何のために作った通路なのかわからないが、ここを進めば外へ出られるかもしれない。


「へっくしょん!この道…少し寒いな…」


 しかしそんなことは言ってられない。

 そのまま進むと―――正面に、扉が見えた。


 周りを見回しても他に何もなく、完全にこの扉へとたどり着くための道だったのが良くわかる。


「外への出口じゃないのか……」


 それが出口ではないことはすぐ分かった。

 扉には小さなのぞき穴のようなものが開いていて、その向こうも変わらず洞窟だったからだ。

 少し落胆しつつも、戻ったところで結局あるのは、迷子という現実だ。

 だったら、中に入ってみるっきゃないだろう。ちょっと怖いな!怖いけども!


 大きく息を吸い、呼吸を整え、覚悟を決めて扉に手をかける。

 幸いカギはかかっていないようだ。

 

 少し重い扉をゆっくりと押して開く……中には、少しだけ真っ直ぐ進む道と――――部屋のような空間があった。


 それほど広くはなく、普段よく寝泊まりしている安宿の一人部屋と同じくらいの、端から端まで歩いても5秒かからないくらいの部屋。


 その真ん中に、ぼんやりとした薄い光が浮かんでいる。

 炎でも自然光でもない、魔法の光だ。

 足の長い燭台のようなものに、その魔法の光が宿り、周囲を照らしいている。


「……洞窟の中に部屋……?}

 しかも、なんていうか……少し生活感がある。誰かがここに住んでるのか…?

 いやいや、こんな洞窟の中にまさか……。

 警戒しつつそこへ近づいてみると――――光の下に、何か塊のようなものが見えた。


 薄明りの中で目を凝らすと……


「―――――人…か?」


 そうだ、人だ。人が……倒れている?

 光の下で人間の形をした何かが、少し丸くなるような形で横になっている。


 「なんでこんなところに……」


 いつ何が起きても即逃げ出せる体勢をキープしつつ近づくと……それは、女の子だった。

 見た感じ、12歳くらいだろうか、まだ幼さの残る顔立ちに、金と銀がマーブル模様のように入り混じった艶やかなロングヘアー。

 足元まである白いワンピースに身を包んでいるが、素足で靴は履いていない。


 返事がない、ただの屍のようだ………という想像をしたが、違う、ちゃんと生きている。どうやら寝ているだけのようで、微かに寝息が耳に届いた。


 さらに近づくと、足元にあった何かに足が当たり、それなりに大きな音を立ててしまった。


「……っ誰!?もしかして、お爺さん……」


 女の子は驚いたように目を覚まし、何かに期待するような顔でこちらを見て―――――


「ぎいやああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 まるで、人生最大の変態を目の前にしたような声で叫んだ。


「へ、へんたーーーーーーーーーい!!!」


 ような、じゃなくて、実際に変態を!?


「え?誰が?僕が!?変態!?そんな失敬な!!」


「寝て起きたら目の前に全裸の男が居るのに、これが変態でなくてなんなのよ!!」


「ZE・N・LA?」


 ははは、おかしなことを言う。僕が全裸だなんてそんなこと………全裸じゃん!!!気付けば全裸じゃーーーん!!


 し、しまったぁぁぁぁ!!!脱衣ボンバーのせいだぁぁぁぁ!!


 それでか!どうりでちょっと寒いなーと思ったんだ!!全裸だもん、そりゃ寒いよね!そして、そりゃ変態に勘違いされるよね!!


「出ていけ!このクソド変態ゴミクズ全裸露出大好きマン!!」


「初対面で付けられるあだ名としては最低のレベルだ!!」

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