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麗子は独りでクリスマスを祝うことにした。
今や彼女には一緒にイヴを祝ってくれる相手はいなかった。彼女ほどの美貌の持ち主なら、お洒落な店を選んでほんの三十分もカウンターに向かっていれば、難なく男がそばにやってくるに違いなかった。しかしもちろん、そこまでして誰かと一緒にイヴを過ごしたいと思うほどあさはかではなかった。
何も毎年男と一緒だったわけではなかったし、 大学卒業後はクリスマスを日本で過ごすこともそう何度もあったわけでもなかった。
麗子は今日の朝から、今夜の料理のことで頭がいっぱいだった。
本格的なクリスマス料理を作ろうと決心したのは、彼女にとってはかなり無謀とも思えたが、とにかくやってみることにした。
書店を何軒もはしごして料理本を買いあさり、家に帰ってそれらを熱心に読み比べ、メニューを決めるのに昼過ぎまでかかった。そしていつもは滅多に行かない遠くの大きなスーパーまで車を走らせ、夕方近くになってようやく料理本に書いてあったすべての材料を揃えた。
スーパーや商店街はクリスマス・デコレーションのおかげで賑やかだった。
ほとんどの客がケーキを大事そうに抱え、袋にいっぱいの買い物を重そうに下げて自分の車に急いでいた。
アメリカのアットホームなクリスマスやドイツの宗教色豊かな降誕祭と違って、日本のクリスマスは一種のお祭りに過ぎないのだと、麗子はいささか失望を感じながらアクセルを踏んだ。
家に帰り、キッチンの調理台に買ってきた材料を全部ぶちまけて、彼女は大きく溜め息をついた。
そしていかにも頼もしそうに腕まくりをすると、壁に掛けてあるエプロンを取り、しっかりと身につけてから独り言を言った。
「──さあ、一世一代の大仕事に掛かるか」
彼女は積み上げてあった真新しい料理本を手に取った。しばらくのあいだはまた無心に読みふけっていたが、やがて本をどさりと手もとに下ろし、早くも根を上げたような頼りない声で呟いた。
「……勝也って、偉いやつだったのね」
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