パパのドキドキぼんぼり旅行

中田祐三

「決意」

 時刻は六時三十四分。 


 いつものスーツ姿で駅前に降り立つ。


 季節は十月を三分の一ほど過ぎたあたりだが比較的暖かく、額に汗が滲んでくる。


 いやもしかしたら冷や汗かもしれないな。


 妻と子供には北陸出張と偽っているのだから……。


 バレたら……離婚……かな? 


 心臓がドクリと高鳴るけれど、それでもこれからのことを考えるとそれ以上に心は踊る。


 そうだ……何をしても後悔は必ず後にやってくる。


 諦めたとしても、やはり行けばよかったと後悔するだろうし……。

 

 気を取り直し、携帯を確認する。 待ち受け画面には愛する妻と娘……なんとなく目を逸らして新幹線の時間と料金を確認する。


 片道きっかり一万二千円……。 

 

 半年前から行けるかどうかもわからないのに小遣いを貯め続け、降りしきる雪のように降りてくる仕事を無理やり片付け拵えた休日。


 そして妻子の愛情をベットして僕はいま旅立つ。


 そう夏の通り過ぎたあの北陸へ……。



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