青い髪の紫陽花

猫野みずき

第1話 紫陽花の暇つぶし

「おい、ポッキー買ってこい」

「は、はい。今すぐ」

 オレは、「姐さん」雫(しずく)姐さんから、小銭を受け取って、「たまり場」の屋上から、雨がしとしと降る中を走ってコンビニへ向かった。そして、姐さんが好きなチョコのかかったポッキーを2箱(いつもどおりだ)買って、すぐに姐さんの元に戻った。

 「30秒遅れた」

 「すみませんっ!!」

 「まあ、今日は雨だし、いいよ。要るか?」

 「ありがとうございます!」

 姐さんは、ポッキーの袋をがさりと開けると、1本引き抜いてオレに渡してくれた。その瞬間、姐さんの手がオレの指にふれて、オレは胸がパンクしそうに高鳴って、真っ赤になっていないか心配になった。


 もうわかったと思うが、オレは姐さんのことが好きだ。恋、というか、敬愛、そして女性としても魅力的な姐さんの姿に、オレは一生ついていくつもりだ。

 姐さんは、喧嘩が強い。孤独な一匹狼で、オレ以外に親しくしている人間もいないようだが、それで結構ご本人は満足しているらしく、オレは唯一の弟子だ。姐さんの背中を見て暮らせる、たったひとりの男。舎弟にすぎないとしても、オレは満足だ。大好きな姐さんの近くにいられて、一生使い走りでも……。

 姐さんは、がさつで乱暴だが、根はやさしい。髪の毛は真っ青。目立つことこの上ないが、なぜ青い髪なのか、誰も知らないし、オレも知らない。ずっといじめられっ子だったオレが、ちょうど梅雨の時期に、カツアゲされようとしているところを救ってくれたのは、この青い髪の闘う紫陽花。それ以来、オレは姐さんの強さにほれ込み、一生懸命姐さんに仕えているのだ。しかし、勉強は怠らないし、髪も染めていなければ、制服もきちんと着こなしている。それは、姐さんの教えだ。姐さんいわく、「お前は普通の世界で生きろ」とのことだ。だが、なんとか昼休みの姐さんの休憩時間には、この屋上でいっしょに過ごさせてもらっている。


「退屈だな」

 青い髪をかきあげて、姐さんがあくびをした。

「そうですね。雨ですしね」

「ゲームをしようか」

 姐さんが、いたずらっぽく持ち掛けてきた。オレは、何の気なしに聞いた。

「また、何か遊ぶもの買ってきましょうか」

「そうじゃねえよ。私とお前の、裏庭での一騎打ちだ」

 オレは耳を疑った。

「な、何言ってるんですか!!今は雨ですよ。それに、オレが姐さんに勝てるわけが……」

「勝てない、って決め込んでいたら、いつまでも勝てないさ。お前が、もし私に勝てたら、青い髪の由来を教えてやるよ」


 そうだ。姐さんに勝てないままだと思い込んでいたオレは、恥ずかしくなって、受けて立つことにした。

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