第9話

飛び込んできた彼女をしっかり抱きとめると、細い腕を精一杯伸ばしてコートをギュっと掴んだ。

そして、誰にも言えなかった思いを吐き出すように言った


「ずっと、1人だった。

ずっと、淋しかった。

ずっと、…ずっと…」


泣きじゃくる薫さんの涙に濡れた頰に口づけた


「さっき、泣き止んだのに、また、泣いてる。

もう、泣かなくていい。1人じゃないから」


うんうん、と首を縦に振った


「泣き虫だなぁ」


「そんな…こと、ない。

いつもは泣かないのに」


「じゃ、俺の前だけ?」


「かも…」


「それ、すっげぇ、嬉しい」


「きゃっ」



彼は私を持ち上げるように抱きしめて、顔を見上げて嬉しそうに笑った


「誰かに見られる。おろして」


「こんな時間に誰もいないよ」


抱き上げたまま私の胸に顔を押し付け、大きく息を吸う


「はあー、薫さんの匂いがする。やっぱ、いいわぁ」


「もっ、ほんと、おろして」



「あっ!」


「聞いてるのー?」


「雪!!」


真っ暗な夜空から白い雪が舞い降りてきた


「初雪…だね」



私をそっとおろした彼は額に唇を押し当てて、優しく微笑む


瞼、頰、鼻先、そして、唇に長いキスをした



12月のクリスマスイルミネーションと白い粉雪の中、

愛しいあなたとずっと、一緒にいられますようにと祈った







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る