第36話、喜劇と理不尽が同居している

「…………まじか」


「ちっ、タイミングの悪い……」


 結界内に突如現れた大柄な妖怪。しかもひとりではなく複数いる。姿形だけで言えば少し前に討伐した皮膚が紫色の1つ目妖怪に似ているのだが、明らかに違うところがある。


 皮膚が海の色をしているリーダー格っぽい1つ目妖怪が俺達をじろりと睨みつけた。そしてゆっくり口を開く。


「まさか、本当に人間のガキがあの変な結界をつくってたなんてな」


 紫色の妖怪は喋ることはなかった。ギリギリ中級の妖怪だけど、人間の言葉を理解し、言語として使うに至らなかった弱小妖怪同然な奴だった。


 けど海の色のこいつは人間の言葉を話している。


 中級、または上級一歩手前くらいのそれなりに強い妖怪という証。


「お前らか?俺の子分を消し炭にしたって奴は」


 そしてなんだかご乱心のご様子。やべー。早く結界から出ないとガチでやべー状況だぞこれは。


「ねぇ南雲、子分って言ってるよ。多分あのときの紫1つ目妖怪だよね……」


「ああ、多分な。大方、子分の仇討ちしに結界に入ったってとこか。全く面倒な……」


 こめかみを押さえて忌々しそうに妖怪達を睨む南雲。


「柳。奴らを引き付けておくから素早く結界の外に逃げろ」


 そう言って符を構える。

 南雲が符を構えたことで殺気立つ妖怪達。


「てめぇが俺の子分を消しやがったのか……クソ陰陽師が!」


「ハンニン!」


「ケシズミニシタヤツ!」


 どうやら流暢に話せるのはリーダー妖怪だけらしい。後ろの二人はカタコトで日本語の意味を理解しきれているのか怪しいもんだ。


「だったらどうした。妖怪は皆消されるべき存在なんだから、消し炭にして何が悪い?」


 南雲、目ぇ据わってる。符を持つ手がプルプル震えてる。そんなに妖怪が嫌いか!


 白狐も元は野孤の妖怪だ。今は神使だけど妖怪なのには変わりない。なのにそこらの妖怪よりもずっと優しい。だから俺は、悪い妖怪ばかりじゃないんじゃないかなぁって思う。


 まあこの学園に来てからは悪い妖怪しか見てないけどね。南雲は悪い妖怪しか見たことないんだろうな。討伐するたびに忌々しそうに睨むし。いつかは良い妖怪もいるってこと教えてあげたいな。


 ……って。そうじゃねぇよ。早く結界から出ないといけないんだよ。


「南雲、あとはまかせた」


「ああ。後ろからなら抜け出せるぞ」


 こういう事態になると痛感するなぁ。

 自分が無力だってことを。


「じゃあ俺はバイナラしまーす……」


 こそぉっと南雲の後ろから遠ざかり、結界の中心からどんどん外に向かう。


 あと少しで安全な結界の外に出れる、というところで、それを阻むひとつの影が。


「オイオイ、何逃げようとしてんだあ?」


 リーダー格妖怪にも似ている巌のようなガタイのデカさの三つ目妖怪が行く道を塞いでいた。てか周りを見渡せば1つ目・三つ目妖怪がうじゃうじゃいる。最悪なことに囲まれていた。


 うわー走ればよかった……


「逃げたってことは心当たりがあるってことだよな?俺の子分を殺したのはてめぇか」


「めめめ滅相もない!俺は断じて何もしてない!」


 わーすんごい睨んでる。威圧も半端ない。けど残念だったな。神様の独特な威圧に日々耐えてきた俺の精神はそんなチンケな威圧にびくりともしないんだよ!


「どっちにしろお前らはここから出れないぞ。おとなしく僕に討伐されろ」


 南雲さんんんん!!爆弾発言ー!!事実そうなる運命だけども!わざわざ自分から言っちゃったら………


 一人おろおろしてる俺の横をものすごい勢いで何かが通過した。


 左の頬には一筋の赤い線。そこからつぅっと流れる鉄の臭いのする赤い液体。


「覚悟はできてんだろうなあ?」


 ほらこうなるー!!



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