テストが終わっていつの間にやら

第22話、何気に頭良いのです

 さんさんとした太陽の暑さが夏の兆しを物語ってる今日このごろ。


 春と夏のちょうど真ん中くらいの中途半端な暖かさに包まれたここ白帝学園。


 その学園の敷地である霊能科校舎の下駄箱前に張り出された1枚の紙を見て、このやや暑い空気が凍りつくくらいの氷点下な空気を身に纏い、文字通り凍っているみたいに微動だにしない少年がそこにいた。


「………解せん」



〈爽side〉



 雷鳴轟く豪雨だった先日とはうって変わって快晴日。


 時刻は8時、場所は白帝学園普通科校舎前の掲示板。


 そうですね、テストの結果が出たんです。


 他ではどうか知らないけど、この学園では抜き打ちテストでも順位が張り出されるらしい。


 順位として張り出されるのは漫画見て知ってたけど、自分は何位なんだろー気になる~!みたいには思わなかった。


 何故なら。



1位 柳 爽


2位 南雲 清流


3位 野守 迅


4位 由井 流斗


5位 久ヶ島 イオリ


6位 ……


 ……………


 一番上に自分の名前あったからね。自分の名前探す手間省けて嬉しいけど言ってみたかったな。


 なんて思ってたら周りの女子達が物言いたげにこちらをじっと見つめていることに気がついた。なんだ?ぽっと出の新参者が首席になったから怒ってるのか?いやでもそんな雰囲気じゃない気がする。やばい女子の心理意味不明。


 女子の視線が気になり数分待ったが結局話しかけてくる者はいなかったので校舎の中へ。


 奥ヶ咲は療養中だから名前がないのは当然だとして、イオリちゃんが5位なのはびっくりしたなー。イオリちゃん頭良いんだなー。しかも南雲2位だし。常に授業サボってるあの南雲が2位だし。昼も夜も仕事してるのにいつ勉強してんだあいつは。毎日コツコツ勉強頑張ってる人達が可哀想に思へぶらぁぁっ!!?


 いきなり背後から回し蹴りをくらいますた。


 突然の猛追に対処する術はなく、身体を仰け反らせた俺は華麗に数メートルぶっ飛んでいった。


 ちょっと待て。色々おかしい。


「ってぇ!!なんっだよ今の!?」


 勢いよく蹴られた腰は悲鳴をあげ、四つん這いの状態で右手で腰をさする。めっちゃ痛い。なんなの?俺になんか恨みでもあんの?


「なんで僕が2位なんだ!!」


 その声で誰にやられたのか一瞬で分かったのだが脳が理解するのを拒む。


「なっ、ぅえ!?南雲!?」


 ダッシュで来たのか息を乱して敵意ある目で俺を睨む南雲の姿が。


「やな……ぜぃ、なん……はぁ、2位……なったくらいで……げほごほっ」


「と、とりあえず落ち着け!」


 肩を上下させて咳き込む南雲。こんなんなるなら奥ヶ咲を助けに行ったときに使った魔法の絨毯みたいな術使えば良いのに……


「ぐっ……くそっ、なんで学園内は術を使っちゃいけないんだ……」


 ああ、そゆこと。


 何気に周りの視線が突き刺さる。そりゃそうだ。誰とも知らぬ人間がいきなり回し蹴りで乱入して人がぶっ飛んでんだもん。ジロジロ見ないで、恥ずかしい。今俺腰さすってるから。パッと見おじいちゃんみたいな姿勢だから。


 ようやく息を整えた南雲。だがまだ興奮冷めやらずな様子。


「柳が首席になったせいで仕事できる時間が減るじゃないか!」


 なんのこっちゃ。


 頭上に?がいっぱいの俺と怒りと悲しみと絶望が入り雑じった複雑な表情で何かを訴える南雲。何に対しての怒りかまるでわからずに狼狽えるばかりな俺に救いの手は差し伸べられず、ただただ道行く人達はチラリと見て見ぬふりをするだけ。非情な人ばっかりで悲しい。この理解不能な現状をなんとかしてくれる救世主はいないだろうか。


「せーちゃんせーちゃん、そーくんに八つ当たりしちゃダーメ☆」


 いた。救世主いた。


 その声は上から聞こえてきており、しかも結構近い距離にいることが分かった。だが見上げたくない。俺の中の悪夢が甦る。


「そーくんおひさー!また今度ゲームしよーねー!そーくんとやるといつもより作戦が違うから新鮮で良いよぉ」


 この間の抜けた声。ゲームという単語。そして極めつけには白いワンピース。


「こぉらっ!学園長の言葉を無視しなぁいの!」


 ゲーム大好きオタク気質な学園長が凧揚げされていた。


「「うおあぁぁぁぁ!!?」」


 見上げなきゃ良かった。


 見上げなきゃ良かったぁ!!


 凧揚げ初めて見たけど初めてがコレかよ!学園長もっと普通に登場できないの!?南雲でさえびっくりしてるじゃんか!つーか糸誰が持ってんだよ!


 バッと糸が続いている学園長の真下を見下ろす。


「あ、どうも。学園長の秘書の山内です」


 地を這いつくばってる虫のように伏せていた秘書さんがいた。……秘書さんに何やらせてんの学園長。


「もういーよー!降ろしてー」


 糸を手に巻き付けながらゆっくり降下させていく学園長秘書・山内さん。黙々とやるその姿は忠犬のよう。


 ようやく落ち着きを取り戻した一同に学園長が説明してくれた。


「実はねー、中等の入学式のときにせーちゃんから交渉されたの。学年首席キープして尚且つ学園に来る依頼の山を片付けるから授業には出ないって」


「毎日こなしてる仕事の半分近くは学園の依頼だ」


「渋々承諾したんだけど、これまた宣言通り3年間ずーっと首席キープして、学園のちょっと危ない依頼をたんまり引き受けてくれてて頭上がんない状態だったのよー」


 ま、まじか。俺の知らない二人の交渉か。てか南雲中等からこの学園にいんのか。


「だけどそれももうお終い!」


 びしっと俺を指差してにんまり笑う学園長。


「そーくんが1位の座を奪ってくれたからね!」


 学園長は心なしかものっすごく笑顔がキラキラしている。それだけでなんとなく察した。


 いくら学園の依頼をこなしてくれてても首席キープしてても、授業サボってやりたい放題やってる南雲は正直かなりの曲者だったんだなぁと。


 確かに、そばで見てただけの俺でも分かるけど、南雲の依頼のこなし方はちと問題があった。


 南雲は普段、学園の外には出ずに依頼をこなす。


 対象の妖怪が出る地区に結界を張り、結界内に入った妖怪が南雲の元に来るようにするというなんとも奇妙で特殊なやり方。


 その仕組みは、地区に張った結界と南雲の元に張った結界が連動してるから。


 地区の結界に妖怪が入れば結界が波動?を感じ取り、自動的に対となる南雲の結界内に移動させられる。そしてそれを討伐して依頼完了、となるのだが1つ大きな問題がある。


 地区に入った妖怪は討伐対象外の妖怪も南雲の元に移動する。


 俺は未だ南雲の本気を見たことないけど、南雲は近年稀にみる天才で、最強の陰陽師らしい。だから大丈夫だとは思うけど、万が一結界内に南雲の手に負えない妖怪が来た場合、学園の者では太刀打ちできないのだ。


 それが分かっていたのにも関わらずこんな手間のかかる奇妙な術を行使した理由はなんと、中等のとき授業中に学園外に行く許可が降りなかったから、だって。


 自由すぎるわ。そのときの学園長が困り顔だったのは容易に想像がつく。


「そーくんがずーっと首席キープしたら皆が幸せになれるんだけどな~」


 わざとらしく俺をチラチラ見て目配せしながら言う学園長。飄々としてるけどどこか必死だ。


「そうだ。だから柳、おとなしく僕に首席の座を譲れ」


 こっちもこっちで分かりやすく必死だ。


「う~ん……俺は別に構わないよ」


「本当か!」


「うん。俺は首席じゃないといけないって理由がないからなあ」


「理由ならあるよぉ?むしろせーちゃんより深刻な問題」


「はい?」


 さらっと言ってる学園長に聞き返す。


「あの方から聞いてないの?」


 あの方?どの方?


「……聞いてないです」


「もー、あの方は!本当面倒くさがりなんだからー!」


 面倒くさがり、ってことは嵐武様か。納得。


 半ば呆れ顔の学園長は苦笑いして言った。


「そーくんは奨学金でやりくりしてるよね?その奨学金が支給されるの学年首席の子だけなの」


「はああああっ!?」


 嵐武様聞いてねぇぞおい!!


 じゃああれか?俺がはいどうぞって首席譲ったら奨学金の支給はなくなり、学費を払えない俺は退学になり路頭に迷うって結果に結びつく訳か?


 そんなの……そんなの…………


「ごめん南雲。味方になれない」


 南雲の肩に手をぽんっと置いて悲しい瞳を向けながら言った。


 まあ、こうなるよね。


「そーくん本当にありがとー!せーちゃんちゃんと授業に出てねー!」


「……良いんですか、学園長。授業に出ろというのなら依頼こなしませんよ」


 おとなしく授業出ろよ。反抗期か。


「んーいーよー。どうせこの時期は依頼少ないし、難しい依頼もそんなにたくさんある訳じゃないし!だから安心して授業に出なさい♪」


「………チッ」


 舌打ちするんじゃない。


「私としてもそーくんが退学になるとかいう事態は避けたいのね?あの方からお咎めがあるし。(小声)ぜぇんぶまあるくおさめるためなのよ~」


 あれ?今なんか小声に………まあいいか。


 それでも渋る南雲に痺れを切らしたのか、ハア……と深いため息を吐く学園長。


「……あの子と同じクラスにしたのは流石に悪いと思ってる。けどね、南雲くん」


 せーちゃん、から南雲くん、に呼び名が変わった瞬間、学園長の纏う空気がピリピリと小さな電流が流れたような、威圧のあるものに変わった。


 その様子はいつものヘラヘラしたときの明るく朗らかなそれでは決してなく、まさに学園長としての威厳ある姿だった。


「仕事に逃げても何にもならないのは、キミもよく知ってるはずだよ」


 見た者を射抜く鋭い眼光に狼狽える南雲。それに構わず言葉を紡ぐ。


「彼女は地の果てまでキミを求め続ける。無駄な抵抗はしない方が得策だよ」


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