桜木恵子は微笑む

 委員長会議を終えると、提出資料をまとめ足早にミーティングルームを出た。

「あれ? 恵子、鞄は?」

 管理委員長で友人の皆川玲奈が訊いてきた。

「あー、六限終わってすぐ担任の吉田に急かされちゃったんだよねー。だからこれだけ」

 私はそう言って筆箱を少しだけ持ち上げた。

「まじかー……確かにあいつ几帳面でせっかちな性格してるし、早くしろとか言いそうだわ。あれでしょ? あいつが担当の教室掃除になったが最後、地面には塵一つ残らなくまで掃除させられるってやつ。冗談でも怖いわ」

「え、あれ本当だよ? 三組の教室掃除斑は目視できるゴミがなくなるまで徹底的にやらされてるもの。私はまだ順番が回ってきてないから、どんなものか知らないけれど……サボるとペナルティがあるらしいよ」

「うげぇ、もうそれ以上は勘弁だわ。想像しただけで辛い……じゃあ、あたし先に正門とこで待ってるから、鞄取ってきな?」

「あ、うん。分かった。できるだけ早く取ってくるよ」

 言い終わる前に駆け出した私は、サバイバルナイフを置いてきてしまった事を後悔していた。会議中は気が気でなかったのだ。

「ゆっくりでいーよー!」

 後方から玲奈の声がしたが、最早私の耳には届いていなかった。

 見つかっていたとしても今更だが、バレてしまっては誰かにバラされる前に処理をしなくてはならない。なんて事を考える私の口角は耳元まで裂けていたに違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る