EP3. *Boy meets girl《殊能者の学園》
EP3-1 学園ネスト
――GPー7『
燃えるような紅い髪をなびかせて走る美少女。その彼女から必死に逃げているのは、黒髪でボサボサ頭の冴えない少年である。
二人とも襟袖が山吹色のラインで縁取られた紺色のブレザー。少女のスカート、少年のスラックスは藤色。ジャケットの胸には、鳥の巣に似た幾何学模様の
その制服は、彼らがこの『学園ネスト』と呼ばれる特殊な学校機関に属する生徒であることを示している。
「待ちなさい! このド変態っ!」
学園のキャンパス内――教室から大講堂に向かう道で、少女は可愛らしい顔を惜しげも無く険相に歪め、怒鳴り声を上げた。
少女の名前は
腰まであるロングストレートの紅い髪と、大きな茶色の瞳が特徴的であった。加えてハリのある白い肌と健康的で発育の良い身体。それは誰が見ても美少女と認めざるを得ない、恵まれた容姿であった。
「ごご誤解だっ! 濡れ衣! 不可抗力なんだって! 俺の話を――」
彼女に追われる少年の名前は
明らかに素人の手による不揃いな前髪と黒い瞳。顔立ちは決して悪くはないものの、髪型同様の何とも言えないやる気の無さが表情にも顕れており、それが彼の冴えない印象を確固たるものにしていた。
ホノカは走りながら進路上の小石を拾い上げる。すると彼女に握られたその石は、突如激しく燃え盛る炎に包まれた。
「言い訳ぇぇぇ――」
その炎の石を大きく振りかぶり、数メートル先をひた走るマナト目がけて全力で投擲――鮮やかな投球フォーム。
「――無用ッ!」
逃げながら振り返ったマナトはその様を見て狼狽し、躓いて転ぶ。火球はそこへ一直線。
「のわぁっ?!」
思わずマナトは自分の顔の前に掌を翳す――すると炎の剛速球はマナトの手に触れた瞬間、そのままの勢いで反転して、今度は投げた
「――っ!? ……え?」と、ホノカ。
一瞬何が起きたのかを理解出来ずに、彼女は目を丸くした。そして数秒してから、それがマナトの能力であることを理解すると同時に怒りが再燃して、文字通り物理的な意味をも含んで彼女の全身がメラメラと燃え上がる。
「っっのぉ、変態男がぁぁぁ!」
ホノカはウォレットチェーンで腰にぶら提げていた刀の柄――刀身の無い単なる柄を右手で取り外すと、それを左手で作った輪っかに密着させる。
その輪と柄をゆっくりと離していくと、隙間から火の粉と炎を零しながら焔の刀身が出現した。
「ちょ、ちょっと待て、まさかお前『スルトの火』か?! ならそれはマズくないか……? 今のは悪気があったわけじゃ……」
尻もちをついたまま慌てふためくマナトと、派手な焔の刀を振りかざすホノカ――。その騒ぎを聞きつけて、二人の周りにはいつの間にか多くの野次馬生徒達が集まって来ていた。
鑑マナトと朱宮ホノカ。二人の少年少女がこの残念な邂逅を果たしたのは今朝。つい30分程前の出来事であった――。
***
学園ネストとは、軍拡気運高まる世界情勢の中で、この国でも強力な
表向きは学校法人としてネスト理事会による運営が行われているが、その理事会のメンバーの大半が軍部出身者或いは現役軍人であり、国防省の後ろ盾と大手民間軍事企業の技術提供などもあって、その社会的影響力と優位性は一学校機関としての範疇を大きく逸脱していた。謂うなれば超エリート校である。
そして『
しかし超能力と云えどそれは限定的な能力であり、基本的に一人の人間が持つ殊能は1つのみ。そして殊能の効果は、触れたものを発火させる、鉱物の形を変える、飛翔体を自在に操る、力の向きを反転させるなど、個人によって様々であった。
学園ネストの入学式の今日――。
世界中に数ある殊能者育成機関の中でも最難関と云われるこの学園に入った者の多くは、最初の内は己の殊能こそ一番であるという自負と自身に満ち溢れている。その為、中には初日から自分の
そういった者の標的として、いかにも冴えない見た目のマナトが選ばれるのは無理からぬことであった。
マナトに難癖をつけてきた生徒は、如何にも不良じみた風体の、風を操る殊能者であった。
すれ違いざまにわざとらしく肩をぶつけて、早速その
おかげでホノカは入学初日から、大勢の生徒が見守る中で
そして烈火の如く激昂したホノカは
「覚悟しなさい、この妖怪変態ボサボサ頭!」
ホノカは創り出した焔の剣を、目の前で腰をついたマナトに向かって大上段に構える。
「雑なネーミングはやめろ! そして落ち着け!」
「るっさいわね! 問答無用!」
燃え上がる灼熱の剣をホノカが振り下ろす――あわや刃が命中するかという、その瞬間。金床を叩くような硬い音が鳴り響き、焔の剣は受け止められた。
「――?!」
防いだのは白く光る六角形の板。それはマナトの殊能ではない。
(何っ?)と、周囲に気を配るホノカ。するとそこへ――。
「そこまでですよ、1年生」と、人だかりの中から少女の声がした。
野次馬の海を割って現れたのは、高等科4年の18歳、生徒会長の
「入学初日から
コノエがそう言いながら指をパチンッと鳴らすと、ホノカの剣を止めていた光の障壁は泡の如く散っていった。
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