ああああああ
きたさん
序章 「黒騎士アロク」
フルダイブMMORPG。それにハマる少し前。
俺は、VRでTRPGをするという珍妙なゲームにはまっていた。
要するに、アバターでなりきって遊ぶというコンセプト。
一応、戦闘…はあるが他のVRMMOと比較にもならないお粗末。
そんなゲームで全身真っ黒の騎士を演じていたのだが…。
思い出すだけで恥ずかしい。所謂、黒歴史という奴だ。黒騎士だけに。
余りに痛々しい、言動から数少ないプレイヤーにも相手にされなくなり、
居場所を失って、いくつかのVRMMOをプレイし、
『ナルアグア』へと流れてきた。
トラウマというべきか…。人との接し方を見失い、
ただレベル上げに注力しだし、それが週間病から中毒へと。
それでも、レベル上げしか考えないような俺にも、仲間は出来た。
「よー、ついに転生回帰50回目おめでとう!」
「どんだけ遣り込んでんだよ、廃人かよ!かっこ笑い」
「まだアタシは12回もある…頭痛がする」
「全鯖で最強間違い無しだな。うらやま爆発しろ」
共にレベル上げで苦労する四人の仲間。
一人目に声を発したのは、近接特化の肉弾野郎ジャバウォック。
二人目は、特殊であるが、攻城戦において、
敵を錯乱させるスキルに特化させたゼシュタル。
三人目は、遠距離特化で雷魔法を好むエルクレア。
四人目は、対人特化の暗殺者、戦風(ソヨカゼ)
回復手段は一部スキルとアイテムのみという縛りで、
攻撃・防御・バフデバフ職で編成されたPTだ。
殺られる前に殺れをコンセプトに、戦い続けた仲間。
そして、防御に偏った成長をした黒騎士、ああああああ。
名前が変?気にしない、というかレベル上げに名前は関係無い。
容姿も初期のプリセットそのまま。
「で、ダークナイトの転生カンストスキル。
どんなだったんよ?」
「あ、ああ。ダークナイトになるまでに転生した4つの職。
それらをCR(クラスランク)99、転生回帰10/10の状態で、
取り巻き召喚出来るみたいだな」
「ひでぇ!ただでさえ硬いのに、取り巻き召喚できるとか」
「攻城戦で猛威を振るいそう。羨ましい」
今後の事について、夢を膨らます仲間達を他所に、俺は一人溜息を漏らすと、
エルクレアが不思議そうに尋ねてくる。
「なんでここで溜息? 攻城戦で無双出来るじゃないのさ」
「…。いや、他にオープンβ開始したのあるから、そっちにいく」
と、言うと、突然の事に全員が驚き、止めようとしたが、即座にコンソールを
開いて、ログアウトボタンに触れる。ただ一言、言い残して。
「レベルが上がらないナルアグアに、価値が…、見出せないんだ」
VRMMOいや、RPGの楽しみ方はレベル上げのみ。その他一切を
否定するかのような発言を残し、俺は、この世界、ナルアグアを去った。
―――そう、去った筈だった。
なのに、何故か、空から落ちている!!!!!
「ちょ!ま!! ぎゃぁぁぁああああっ!!!」
高度は如何ほどか? 眼下に広がる雲の海。高さは察し…
などと余裕ぶっこいてる間に、ボスン!!という音とともに雲海に
突っ込み、またボスン!!という音と共に突き抜けた。
当然ながら雲が掴める筈も無く、垂直落下。フルプレの重みも相まって
落下速度は絶望的なまでに加速する。しかもなんか、熱い…空気摩擦!?
「うおぉぉぉぉおっ!! あっちぃぃぃいいいっ!!!」
最早、思考がどうこう言うレベルでもなく、勝手に体が攻撃スキルを
放ち、ひたすら落下速度を緩めようとするが、時既に遅し。
多少なりとも緩めてはいるが、
轟音とともに何かの建物に突っ込んだのが最後の記憶。
…。全身が痛い。焼ける痛みや、鈍痛が酷い。指一本動かす事も
難しい。そう思えたが、生きてはいるようだ。
「…く」
無理矢理、体を起そうとするが、無理無駄無茶の三拍子と共に諦めた。
「あ、気付かれました? 驚きました、空から突然降ってくるんだから」
女性の…声。トーン高めで澄んだ声色だが、どこか芯の強そうな印象をうけた。
うすぼんやりとした視界のまま、上に意識を集中すると、分厚い雲が広がる空。
声の主はいない。ただ俺は、痛む右腕を空へと翳す。
「あ、こら。動いたらダメ! 酷い重症なんだから」
その声と共に、視界に入ってきたのは、金糸と見紛うブロンドの長い髪と、
まだ幼さが残るも、意思の強そうな真紅の眼。…助かったのか。ならば。
「…きゃ! なに、それ」
「ん?ああ。ダークオーラ。自己回復…は、知っているだろう?」
なんだ。小さな口に色白の小さな手を添えて、驚いて。ただのリジェネだろう。
「あ、貴方はまさか…聖騎士様、ですか? 確か隣国の聖騎士様も…」
「その反対。ダークナイト…黒騎士だ」
ガタン!という音と共に、彼女が引いたように思えた。
…良く判らないが、痛みも大分引いてきた。むくりと起き上がり
周囲を見回すと、一応、家の中…ではあるが、
俺が降って来た衝撃で、屋根が吹き飛び、壁が崩れて、
家具等も色々と壊してしまっている。
「これは、察する所…俺が破壊してしまった。という所か」
「え?あ、はい。あ、でも気にしないで下さい」
「気にするだろう常識的に、弁償せねばならない」
インベントリからゴールドを出そうと…あれ、コンソールが開かない…だと。
おかしい、何故だ。よくよく見ればHP/MPバーも、この子の名前も…。
全てが表示されない。だが、脱がされたのか、
横に置かれていた黒のフルプレと
黒の片手直剣は、ナルアグアのもの。バグったか?
コンソールが出ない=GMコールもログアウトも一切不能。
さて、どうしたものか…。
「あの、黒騎士様。私はこれから用事がありますので、
このような所ですが、ごゆっくりしていて下さい」
「用事? 俺に手伝える事であれば…」
「そんな!最近活発になった異界点の調査依頼なので、
私だけでも大丈夫です。それにお体の方が…」
「ふむ。ならば護衛しよう。体の方は心配無用だ」
「って、もう傷が…凄い」
異界点? なんだろうか…にしてもNPCにしては、不自然なまでに自然な
挙動するなぁ。もしかして、ログアウト時のバグで、
ナルアグアの次のアップデートのテスト鯖に迷い込んだとか?
装備品やら、壊れたとはいえ、家屋の造形やら考えると、それしか
考え付かない。…ならこれは、クエストフラグか?
…いや、もう経験値も上がらないクエに興味は…。
然し、介抱して貰った礼と、家の弁償の件もある。
何より美少女。此処は一つ、手伝おう。
まだ少し痛む体を起し、黒のフルプレを纏い、
黒の片手直剣を腰に…。
「くす…。真面目な方なのですね。ところでその禍々しい闘気を纏った
剣は…あ、私も剣士をやっているので、気になって」
クエスト…なんだよな。AI…なんだよな。だったらRPしても、
恥ずかしく無い…よな。
「これか。これは100人ものユキチで鍛えられた魔剣。アマタノユキチ。
…ほう、君のような可憐な少女が…剣を?」
「ひゃ…百人の生き血で鍛えられた…って、何を急に言い出すんですか!
お、怒りますよ」
あ、やはり痛かったか。少し身を引いて…顔を赤らめた…?あれっ。
いや、生き血じゃなくてユキチなんだが。まぁ血肉も同然だし…
そっちの設定でGO。
「ふむ、それは、すまない。
まぁ、元より呪われた身。力になりこそすれ、害にはならない。
所で、君の名前は?」
あ、しまった。自分の名前を言うのが先…しかし、ああああああ、なんだよな。
軽く咳払いをして、言い直す。
「失礼。俺はアロク。見ての通り黒騎士だ」
6つも『あ』が並んでいるので、アロクと安直に命名してみた。
「あ、わ、私は、レムリアルナ・ウェザー。レディ・ブレーダーです」
「かように美しくも可憐な容姿をお持ちで、何故、戦いに身を?」
「私には、これしか、ありませんから…、
それに、この剣を与えて下さった方を、私は、守りたい」
ふむ。彼女が手にした剣は、普通の鋼の剣だが、
紅い宝石やらが柄に埋め込まれており、高価そうな代物だ。
まぁ、何かしら理由あり…か、レベリングしか無い俺と似たようなもんか?
ともあれ、軽く挨拶をした後、異界点と呼ばれるモノがある森へと。
―――異界点 ウェムザ森林―――
う、おぉぉぉ。何と言う禍々しい雰囲気でてるんだ。
歪んで捻れた木々が、あたかも断末魔をあげる人にも見える。
何よりこの紫色のモヤがなんとも…。
「アロクさん! それに近寄らないで!!」
「ほう、というと?」
えらく慌てるレムリアルナ…まぁ、あのあと、レムリアと呼んで良いといわれた
ので、以下レムリアと呼ぶが、これに触れると宜しくないらしい。
全く情報無いので、NPCに従って一歩後退。
「アロクさん…、異界点の瘴気をご存知無い?」
「ああ、すまない。情報の開示を求めたいが、宜しいかな」
「判りました。といっても、単純に、密度の濃い瘴気に触れると、
異形化する。とだけしか。異界点の出現理由その他一切不明です」
成程。と、頷いて、軽く頭を下げるが、何を調査するのか。
と、彼女を見ていると小瓶を取り出し…採取するだけか。
何のこともなく、このまま無事に調査が終わる、そう思われた。
「っ!!」
「む? 地震…いや、地響き?」
ズン、ズン、ズンと、瘴気が濃い向こう側から、何かが…うぉ。
なんだ、このヌメヌメ、ツヤツヤ、ゴツゴツ感の素晴らしいテクスチャー。
全身鱗に覆われた…あー、なんだっけ。このデカいトカゲ。
「逃げましょう。あれは異界種…ヴァーシュドレイク、人の手に余ります!」
「ドレイク…地竜か。そういえば、そんな容姿だな…レムリア。
アレから取れる素材ならば、家の弁償は十分かな?」
「異界種素材…家どころか豪邸が建ちますよ!?って、無理ですって!!」
ふん!地竜のCRは記憶違いでなければ70前後。そのなんたら化を含めても
精々80~90前半だろう。例え99でも転生回帰無しなら敵じゃない。
にしても、ルイガルト周辺の敵CR20前後の筈…。
まぁいいか、ナルアグア鯖唯一のカンストキャラの力を見せてやる。
ズン!と地竜に負けじと右足を強く踏み出し、黒騎士となるまでに
転職したジョブの下位~中位バフを使用する。
「エンチャント!
「こ、これは近接職の下位と中位汎用技能…」
「まだまだ。
「え…嘘…それ、
「特に要らんが…スペルアップ!
「ら…
む。まだ軽くバフかけただけなんだが…えらい驚きよう。
…少し、調子こいちゃおっかなー!?
「ダークエンチャント!!
黒騎士最上位技能の一個上、悪威。全防御値を攻撃力に転化。
ちなみに攻撃力がバフ装備込みで2400、防御転化状態で…9999だ。
完全にオーバーキルだな、と思いつつ、既に怯えている地竜をみやる。
ま、成仏してくれや…と、その前にこの子を下がらせないとな。
「準備完了。レムリア、下がってくれ」
「え、あ、それは? い、いや、わ、私も手伝います」
「不要。これは戦闘では無い」
「え…」
不思議そうに俺の背を見ているだろうレムリア。
振り返らず、ふぅ…と、軽く溜息を吐く。
「ただの――虐めだ」
腰のアマタノユキチを引き抜き、腰を深く落とす。
構えは上段からの袈裟斬りor横薙ぎがスキル発動条件。
確か、スキル説明文にはこうあった。
暗黒斬り
黒の闘気を剣に宿し、敵を裂く。極めれば一つの城をも両断する。
前方扇範囲、斬属性。
城を両断とか説明文だけ強すぎて笑ったもんだ。
実際は扇範囲で敵を吹っ飛ばす程度だった。まともに当たれば
何人かは裂傷エフェクトでてたが。
「いくぞ。黒の波動、解放」
などと言いつつ、上段に構えると、いつものように黒いエフェクト――
「こ、これは…凄い」
レムリアが口を開け絶句するのも頷ける。俺もヘッドギアの下では
凄まじく驚いている。
なにせ、剣の黒いモヤのエフェクトが両手剣を飛び越えて、ドラゴンスレイヤー。
いや、それ以上になっているじゃないか。
竜を斬るにはこれだけのサイズが要る。ならば城を斬るにはこのサイズと
いわんばかりのふざけた巨大剣。キャッスルスレイヤーとでもいうべきか。
余りの巨剣に、敵である地竜が逃げ出そうとするが、大事な弁償代金を逃がす
わけもなく、思わず昔の癖で口走る。
「逃がすか、斬・城・
攻撃力カンストの暗黒斬り。
慌てて背を向けた10mはあるだろう地竜と、周囲の木々を、
黒い斬撃エフェクトが空間ごと一刀両断する。ズルリとずれた地竜の上半身から
腹圧から解放された内臓が、泡を吹いてブジュルと飛び出る。
グジュ…ブジュッ…グチュる…
うう、目と耳に優しくない。
そんなトコまでリアルに表現せんでも…うぷ、気持ち悪い。
いまだ生きて動いている地竜の体がのたうちながら痙攣を起す。
頭部がついた方は例えがたい鳴き声をあげて血の泡を噴いている。
「凄い。ヴァーシュドレイクを一撃…。それに、その技は、
城をも両断する。は、はは…嘘には、思えない威力でした」
「ふむ。ついでにあの瘴気も吹き飛ばしたようだ。
安心して地竜の素材を手に入れられますな」
剣を腰に挿し、彼女の方へ向く。
「え、ええ。あの…竜を倒したのですよ?
それも一撃で…。喜ばれないのです?」
「ん?ああ、まぁ。地竜なら腐る程、斬って捨てた。
あのような雑魚で喜べる筈も」
「ざ…雑魚、腐る程…ですか。あはは…」
NPCでは無理でも、あの程度の敵なら一撃だろ上位プレイヤーなら。
多分にその差があるのか、彼女の驚きが理解できなかった。
ともあれ、無事に調査も終了し、後から持ってきた荷車に高額素材を
乗せるだけ乗せて、俺とレムリアは、ルイガルトという城下町へと。
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