scene6*「むかしばなし」

再会のエピソードはご愛敬ってことで。



【6:むかしばなし 】



「あれ?ひょっとして、ハセベ?」

「え……?あ、うん」

「おーすげー偶然!元気してたか?」

「あ、まぁ……」

「こっち住んでんの?結婚したとか?懐かしいなぁ~」

「あの……えっと……」

「ん?」



「誰、だっけ……」



思い出すようにして私の声真似をした彼はそう言うと、分かりやすく盛大に呆れ、ため息をついた。


「だもんなー。俺さ、人違いしちゃったかな!?って思ったし」

「ごめんごめん!だってぶっちゃけわかんなかったし。成長だよ成長!」


調子良く返すと、彼は騙されるもんかとでも言うように厳しい目つきで私を睨む。


「嘘こけ!あの後、俺の名前言っても分かんなかったじゃねーかよ」

「まぁまぁ。でも、こうしてさ、恋人にまでなっちゃったし」

「ちゃっかりっつーか、なんつーか……」

「そんな昔話よりさ!結婚式、誰呼ぶ??」


私は早く彼の気を逸らそうと、旅行とか結婚式とか予算とか、何かのメモをとるために1冊置いてある「生活ノート」を広げて、ペンでトントンと叩く。


向かい合わせに座る彼は小学校と中学校が同じで、クラスもときどき同じで、でも私はそれをあんまり覚えて無く……申し訳ないことに名前すらうろ覚えというか。

そこそこ会話はしたかなーという感じだった程度なので、失礼な話だけれど久々の再会でもまったくピンとこなかった。


「まさか同級生全員呼ぶわけにも、ねぇ~。どうしよっか」

「うーん……まぁ仲の良いやつだけがいいんじゃねぇ?結構クラス多かったし」


気がつけばお互い27。そろそろ結婚適齢期とも言われる年齢。

まぁ、してもいいかなってときだったし、

付き合ってくうちに彼のことは知れてきたし、

一緒にいて楽しいし将来一緒にいるのも想像できるし、いいんじゃない?って事でこうなった。


人の縁は不思議だ。

まぁ、腐れ縁だと思うのだけれど。

それにしてもまさか自分が同級生婚しちゃうなんて思わなかった。

ホントは年上のしっかりした頼りがいのある人がタイプだったんだけどなぁ……。

そんな私の視線に気づいてか、彼が「なんだよ」ってきょとんとした顔になる。

その顔を見た瞬間、さっきの考えを取り消した。


「なんだよ、変な顔して」


……カッコいい理想なんかより、一緒にいて楽しいこの人がやっぱりいいなって。

だって一緒に暮らしてくんだから。


「え?変な顔とは失礼な。幸せを噛み締めてる顔って言ってよ」


そう言ってみせたら、彼は顔をくしゃくしゃにして笑ったので、私もつられるように顔をくしゃくしゃにしながら笑ったのだった。




( 人生ってどこで誰とどう交わるかわからない。 )

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る