大人になるということ

泥団子を一つこねる

地面から掬い取った泥を

掌でこねて

大きな球になるように

夢中になって丸めた


泥団子を一つこねる

表面を擦ると少しだけきれいになって

もう一度擦るとまたきれいになって

壊れないように優しく

きらきらと太陽のように輝くまで

夢中になって擦った


泥団子を一つこねる

部屋の棚に作品として飾って

また一つ

また一つと

隣に並べていくと

少しだけ誇らしくて

何もない僕の心が少しだけ満たされる


楽しくて

楽しくて

仕方がなかったのに


いつからだろう


泥団子が汚らしい泥の塊に見える

ただの泥だと気付かされて

泥なんかを丸めてどうすんだって

これまでの時間が無駄に思えて

恥ずかしくなる


飾られた泥団子を端から壊していく

費やした時間と

楽しかった思い出と

ちっぽけな誇りと一緒に

床に叩きつける


手についた泥を落として

すっきりしたって言い聞かせて

涙を裾で拭いて

全部忘れて


さぁ、宝石を買いに行こう

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