三
まさに、紙一重だった。
ナイフが鈴子に到達する直前に、刺客の胸元から、銀色の刃が突き出していた。
「夢葉さん! 亜蓮さんをお願いします!」
鈴子の危機を救った神楽先輩は、刺客に刺さったサーベルをすばやく引き抜き、そして
鈴子は完全に戦意を失っていた。
まずい……
鈴子が戦闘不能になったということは、寿が危険だ。二人がかりでこの惨状なのに、一人であの〈首刈り〉を相手にするのは、荷が重すぎる。
「人の心配してる場合かよ」
両手にナイフを持ったチンピラ風の、名も知らぬ坊主頭の男子学生が、ぼくに切りかかってきた。
ぼくは彼の一撃をかわし、そして、精一杯顔の筋肉をコントロールし、嫌味ったらしい笑顔を作って言った。
にやあっとね。
「悪いけど、モブにかまってる暇はないんだ」
八木師匠が好んで使っていた手だ。師
敵の〈坊主〉は顔を
案の定〈坊主〉は、ぼくを突き殺そうと積極的かつ
足元がお留守だよ。
ぼくは、敵の足を思いきりかかとで踏みつけた。
〈坊主〉は一瞬顔をこわばらせた。意識が足元へ向いたのが、ぼくにはハッキリとわかった。
ごん。
次の瞬間、ぼくはトンファーの柄の部分を使って、空手の回し打ちの要領で、死角から敵の後頭部を
ぼくはすぐに寿の加勢に回った。寿は棍棒で赤月瑠璃の頭部を狙い、ぼくもそれに合わせるように背後から彼女の後頭部めがけてトンファーをくり出した。
ぞわっ。
……急に
そしてほぼ同時に、首に鋭い痛みを感じた。
後ろ向きのままくり出された〈首刈り〉の刃が、正確に、ぼくの首の肉を切り裂いていたのだ。
「縁人!」
寿が叫んだ。
首に手を当ててみると、べっとりと血にまみれていた。背筋にまた寒気が走った。
大丈夫だ。出血量は大したことない。
おそらく、もう一歩踏みこんでいたら……
完全に油断していた。
戦闘中に背後から襲いかかれば、いかに〈首刈り〉といえど、
これが、〈首刈り〉の実力……
彼女の背中には第三の眼でもついているってのか?
ならば、今度は正面から襲いかかるつもりで。
寿は〈首刈り〉相手によく敢闘していた。防戦一方だったが、棍棒のリーチと手数を活かして赤月瑠璃を間合いに入れないようにしてなんとか
赤月瑠璃は寿と打ちあいながら、酉野先生と戦っていた終零路と蒼天音に指示を出した。
「時間がありません。天音さんは〈標的〉の確保を優先してください。零路さん。その女を足止めできますか」
標的……?
「なめんな!」
烈火のごとく激昂し、
しかし寿の嵐のような猛攻を、赤月瑠璃はなんなく
ひゅんひゅん。
赤月瑠璃は、その一対の刃を、航空機のプロペラのように両手でぐるぐる回しはじめた。
正面から脇へ、脇から背へ、背から頭上へ。
絶え間なく回る両刃の先端が、まるでぐにゃぐにゃと
まるで曲芸だ。生半可な腕では、自分の体を切り裂いてしまうだろう。
敵ながら見事な武器さばきに、ぼくは思わず
寿は一瞬たじろいだが、すぐにうおおおと
ぼくはそれにあわせ、今度は彼女の
とん。
赤月瑠璃は、高く跳躍してぼくの下段攻撃をよけると共に、そのまま棍棒の軌道に合わせ、両切刀の
「はっ」
なんだそりゃ。
見せつけられた圧倒的実力差を前にして、ぼくは思わず苦笑いしてしまった。息もピッタリ合っていたし、前後上下を完全に
寿の棍棒は空を切り、一瞬、懐ががら空きになった。本来ならすかさず棒の反対側の二撃めが来るのだが……
その一瞬の隙を、〈首刈り〉が見すごすはずはない。
ひゅんひゅんひゅん!
棍棒の反対側が到達する前に、赤月瑠璃は両切刀を大きく回転させ、周囲を大きく
そして、寿の二撃めが空を切り、地面にがつん、と力なく衝突した。
寿の腹を、赤いひと筋の線が横断していた。
その線はじわじわと、上下に広がっていく……
「ぐぼ」
寿の鼻と口から、赤黒くどろりとした
「寿!」
ぼくは叫んだ。
次いで、ずるずる、と、寿の腹からミートソースをかけた極太のうどんのようなものが、
おそらく腸が出てきてしまったのだろう。
寿は、腹の傷から垂れさがったその〈赤いうどん〉を、不思議そうに
「介錯します」
赤月瑠璃は相変わらず人形のように無表情のまま、無慈悲に冷たく言い放ち、両切刀を構えた。
「寿い!」
〈首刈り〉を止めなくては……
寿を救うため、ぼくは彼女の背後から
しかし……
「っ!」
次の瞬間、ぼくは足に鋭い痛みを感じた。足に杭でも打ちこまれたかのように、まったく地面から離れなくなり、立ち
「ああああああああああ」
寿は最後の力をふりしぼり棍棒を振り下ろしたが、彼の最後の一撃は、虚しく、空を切った。
そして……
寿の頭が、ごとり、と地面に落ちた。
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