2ページ
見たことのない顔だと思ったら、男性はこの春に結婚してこの近くへ引っ越してきたらしい。どうして大量の固形石鹸を持っているのかと訊いたら、奥さんがこれしか使えないからなのだとか。
「安売りをしているから買って来てって頼まれて」
「そうでしたか。それはお疲れ様でございました」
わざわざ奥さんの為に大量の石鹸を買ってきてあげるなんて、優しい旦那さんじゃないの。
「いえいえ、その、僕はこれくらいしか出来ませんから」
「そんなこと」
「ほ、本当なんです。食事も作れないし、掃除も下手くそだし、それに鈍くさいし。家のことは全部彼女がしてくれていて、僕が出来るのは頼まれた買い物と仕事で稼いでくるくらいしか」
うーん、まぁそれが昔からの男女間の結婚って感じもしなくもないけどなぁ。男は外で稼いで女は家を守る、みたいな。それこそ頼まれた買い物をするだけ、昔の親父とは違うような感じもするけどさ。
「いえいえ、ちゃんと夫婦でいろんなことを分け合って暮らしている人たちもいますから。そんな旦那さんに比べたら、僕は彼女に頼りきりです」
確かに最近はそんな夫婦も沢山いるし、それが普通なのかもしれないけれど。でもそれだけが全てじゃないでしょ? 二人居るからこそできることがある、それが夫婦なのでは?
「そうなれていたらいいんですけれどね。僕にとっては彼女が笑ってくれていたらそれだけで十分だから」
彼はそう言ってニッコリを微笑む。雲の切れ間から覗く、太陽のように。
「賑やかで楽しい生活にしようって結婚の時に誓ったんです。自分の無力さに悲しくなる時もあるけれど、それだけは守って行きたいので」
そう言った彼をなんとなく心配になってアーケードに入るまで見届けてしまった。
夫婦の数だけ形がある、なんて使い古されたフレーズかもしれないけれど、きっとそれは本当だ。彼がどれだけ鈍くさくても、二人の生活はとても明るいものだろうから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます