第273話 SSS級クエスト16

かなり予想外ではあったが、何とかユキと合流したシュウ達はホッと胸を撫で下ろし・・・てはいなかった。


「お、おかしいのじゃ・・・」

「あの体の何処に入ってるんだよ・・・」

「20までは数えたのですが・・・」

「「「化物!」」」

「・・・・・。」


尋常ならざるペースで吸い込まれるハンバーグに、竜王達が思わず声を揃える。ユキというかティナ専用に開発された、1つ500グラムの特性ハンバーグ。20個の時点で10キロもの肉塊が、ユキのお腹へと消えている。だと言うのに、ユキの見た目にはそれ程大きな変化が無い。まさに化物。


そんな竜王達のやり取りを、ナディアは無言で見つめている。見慣れた光景に呆れて言葉も出ない、とも言うのだが。


「こらユキ!肉だけじゃなく野菜もちゃんと食え!!」

「え〜?草は嫌よ・・・」

「そういう所はティナなのね・・・。」


ユキの言い草に、ボソリと呟いたのはフィーナ。全員を呼びに行ったソルトとブラスカにより、合流を果たして昼食を共にしている。とは言っても、フィーナ達が食べているのは予めルークが渡した食事。現在のシュウは、ユキと1対1で勝負している。他の者に食事を振る舞う余裕など無い。


弱火でじっくり焼かなければならないハンバーグという料理は、作り手が圧倒的に不利である。特大サイズともなれば、火の通りは悪い。生焼けが怖いのなら煮込めば良いと思うかもしれないが、スープの具材とは違って無理がある。・・・スープの具がハンバーグというのは斬新だろうか、などと考えるシュウであった。




ともあれ、ユキが満足するまでハンバーグを焼いたシュウは、後片付けをフィーナ達に任せてその場を離れる。その後ろにはユキの姿。みんなの居る場所から、およそ200メートル程離れた場所で立ち止まって振り返る。


「それで?何か聞きたい事があるんだろ?」

「うん。」


日本語で問い掛けたシュウに、ユキは短く答えながら頷く。示し合わせての事ではなく、何となくそう感じての行動であった。あまり聞かれたくないだけに、ダンジョンという場所を選んだのではないか。シュウはそう考えていたのである。


「不自然じゃないようにみんなで追い掛けたけど、一体何?」

「どうしてシュウ君は、文明を発展させないの?」

「・・・責任を取れないから、かな。」

「責任?」


便利になれば、人は喜ぶはず。ならば責任とは何を指すのだろう。それがわからなかったユキは、素直に問い掛ける。


「この世界にはさぁ、魔法があるだろ?勿論魔法が全てとは言わない。文明が発達すれば、それなりに人々の生活は向上する。けどそれは、デメリットも大きいんだよ。」

「デメリットって?」

「そうだなぁ・・・例えばユキは何を思い浮かべる?」


あまりにもスケールの大きい話に、どう例えるべきか悩んだシュウは質問に質問で返す。


「電化製品とか移動手段。それと・・・銃。」

「なるほど。なら聞くけど、電化製品に必要な物って?」

「それは・・・電気?」

「確かに電気は必要かな。それ以外には?」

「・・・・・専門知識?」


暫く考え込んで答えを絞り出す。ユキが悩んだ理由、それは必要な物の多さだろう。そんなユキの答えに、シュウは苦笑混じりに告げる。


「それも必要だけど、オレが言いたい事とは違うかな。」

「じゃあ、シュウ君の考える物って何?」

「電子部品。」

「・・・え?」


予想外の答えに、ユキは思考が追い付かない。当たり前過ぎて、すぐには思いつかなかったのだ。


「電子部品が出回るとさ、与える影響が大きいんだよね。」

「それは暮らしが豊かになるんだもの、影響は大きいよ。」

「違うよ。オレが言いたいのはマイナスの影響。」

「マイナス?」

「ユキは感じたことない?人の欲望ってさ、限りが無いんだよ?」

「それは・・・」


シュウの言いたい事が痛いほどわかる。だからこそユキは言い返せない。


「資質に左右される魔法とは違う。誰でも使えるんだ。そうなった時、欲深い者達はどうすると思う?」

「・・・・・。」


この世界では、権力の力が大きい。そして命の価値も地球とは異なる。そこから導き出される答えを、ユキは口にすることが出来なかった。だがシュウは違う。敢えて口にする。


「他者を排除し、奪ってでも手に入れようと考える。独占しようと目論む。ここはね、地球じゃないんだ。いや、過去の地球だと思えばいいのかな。生み出された技術は必ず悪用される。ハッキリと言えば、戦争に使われる。・・・通信装置も移動手段も。」

「それはルールを取り決めればいいでしょ!?」

「地球なら、ね。この世界の法は、万人に対して平等じゃない。時に王侯貴族がねじ伏せるだろ?自然に発展して生み出された物なら、受け入れるしかないと思う。でも持ち込むのは駄目だ。地球で魔法を使えるようになったらどう?いずれは対抗戦力によって鎮圧されるだろうけど、最初は馬鹿な事を考える者が現れると思わない?」

「それは・・・。」

「人目に触れれば、再現しようとする者が現れる。だからオレは作らない。いや、作ってはいけないんだ。」


ありとあらゆる知識を有するシュウが地球の発明品を作らなかった理由に、ユキはただただ沈黙するしかなかった。そんなユキに対し、シュウはさらなる予想外な言葉を口にする。


「それにさ・・・ユキは銃って言ったけど、それこそ銃は作るべきじゃないよ。」

「何で?」

「それはね・・・・・」


話の途中で歩き出すシュウ。後を追い掛けるでもなく佇むユキと、距離が10メートル程開いた時。突然シュウが振り返る。



ーーパンッ!

ーーキンッ!



乾いた破裂音と同時に鳴り響く金属音。そこには右手に拳銃を持つシュウと、抜き放った刀を掲げるユキの姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る