第264話 SSS級クエスト11

それなりに警戒しながら進んでいたフィーナ達だったが、1階を半ばまで過ぎた頃には駆け足となっていた。それでも全速力には程遠いとあって、会話が途絶える事は無い。とは言っても全員が修羅場を潜り抜けている以上、世間話の類ではなかった。


「冒険者が殺到するのも納得じゃな。」

「あぁ。この分だと、今日中には10階層まで進めるんじゃねぇか?」

「無茶を言うな。師匠の話にあったように、何時ダンジョンが変化するかわからないんだ。1日5階層までを維持するぞ。」


すれ違う冒険者を眺めながらランドルフが呟き、アレンが余裕だと告げる。対してアスコットは、今のペースを維持する事を宣言した。当然聞くまでもなく、全員がその理由に思い至る。


「黒狼族か・・・」

「厄介な連中だな・・・」

「調子に乗って50階層まで行かなきゃいいけど・・・」


全員が口々に呟いた。そう、現在ダンジョンには黒狼族が逃げ込んでいるはず。彼らとしては、安心出来る階層まで足を踏み入れる必要がある。状況によっては、50階層まで到達するかもしれない。


エリド村の者達が全速力で駆け抜ける事が、その一因となりかねないのだ。例えばユキが1人で接近するとしよう。その場合、黒狼族が逃げる事は無い。寧ろ喜んで出迎えるだろう。


対してエレナ達はと言うと、21人という大世帯。尚且つ名が売れてしまっているとあって、彼らが逃げるのは間違いない。猛スピードで向かうのは、ハッキリ言って愚の骨頂。逃げ出せない距離までは、静かに近づかねばならないのだ。



その後も大した変化は無く、フィーナ達は無事に5階層で一夜を明かしたのだった。




一方のユキだが、驚く事に11階層をウロウロしていた。11階層まで到達していた、ではない。11階層までしか到達していなかったのだ。彼女の移動速度であれば、1日で20階層も無理ではなかった。しかしキレていたにも関わらず、途中でペースを落とした。否、立ち止まったのである。その理由はダンジョンの地形にあった。


「5階層までが砂漠、10階層までが岩石砂漠。どうなる事かと思ったけど、ココは当たりね。」


ユキが思わず呟いたのは、11階を彷徨いて少し経った頃。募らせていた不安が一気に消し飛んだ為であった。と言うのも、このダンジョンに足を踏み入れた事を、後悔し始めていたのだ。


何故なら、ユキと言うよりティナの最大欲求である食欲。その食欲を満たせる魔物が現れなかったのである。1、2階層はゴブリンとコボルト。何処が砂漠だと言いたくなる魔物しか現れなかった。3階層からはサソリとサンドワームも現れはした。しかし、ユキの記憶と人格を取り戻した事が災いする。


「冒険者達は挙って狩っていたけど・・・虫は嫌。」


珍味として人気のサソリとワームだが、日本人の感覚により一蹴してしまう。肉以外にも魔石や素材といった価値のある部位もあるのだが、ほとんどが食欲で出来ているティナには響かない。結局無駄な戦闘は一切せず、11階層まで駆け抜けてしまったのだ。


こうして辿り着いた11階層。ここまで蓄積されたストレスが、一気に開放されてしまう。その反動とでも言うべきか、ユキのテンションは振り切れた。


食える魔物は全て狩ろうと思い立ち、11階層の入り口から扇状に行動する。最早変人の思考なのだが、強者というのは変人が多い。漏れなくユキもその1人という事だろう。



と言うのも、11階層は渓谷なのだ。普通ならば歩き易い場所を進み、高い場所を目指すような真似はしない。お陰で他の冒険者と鉢合わせる事が無かったというのが、せめてもの救いだろう。


真っ直ぐ進んで突破するなら1時間程度の所、何往復もした関係でかなりの時間を費やした。だが満足そうな顔のユキは、そのままの表情で一夜を明かしたのである。



2日目。フィーナ達が10階層へと到達した頃、ユキの姿は13階層にあった。このままならば、明日には追い付くと思っただろう。しかしそんなのは、運命の女神が許さない。・・・運命の女神が存在するのかは、アークに聞かなければならないが。



冗談はさておき、今はユキである。何故1階層に半日も掛けているのかと言うと、答えはその戦闘スタイルにあった。


実はここまでの間、一切魔法を使用していないのである。即ち手にした刀のみ。それだけなら問題無さそうなものだが、此処では少し違う。何しろ11階層以降の魔物は空を飛ぶモノが多いのだ。ヒトが渓谷を移動する場合、標高の低い場所、つまりは谷間を縫って歩く。沢や川もある為、水棲の魔物も現れるのだが、此処はダンジョン。侵入者を空から迎え撃とうとの意図で作られていたのである。


逃げ場の無い状況下では、常に空を警戒しなければならない。だが当然、下にも魔物は居る。ソロには少し厳しい場所なのだ。しかし魔物が弱い事もあって、未だ初心者向けの域を出ない。



他の冒険者との接触を避けたいが為、ユキは谷間を避けて移動している。結果、刀を振り回しながら鳥を追い回すという、非情に痛いヒトとなっているのだ。まぁ、見られる事も無かったので、それを知るのはユキだけだが。




簡潔に説明しよう。山賊か山姥かと言った変態的行動のせいで、無駄に時間を費やしたという話である。




実際には、そこまで間抜けな姿ではない。圧倒的スピードで迫り、一刀のもとに首を両断する。しかし魔物が群れで行動する以上、一度に全てを狩る事は出来ない。結局は逃げた魔物を追い、右往左往したという事だ。

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