第252話 SSS級クエスト4

おっきなワンちゃんの種類があまりにも物騒な為、国を預かるスフィアが確認する。


「ナディアさん、ルーク!詳しく説明して下さい!!」

「詳しくって言われても、ケルベロスは・・・ケルベロスよ?」

「3つ首の犬だ。」

「そんな事は知っています!私が聞きたいのは『超特大』の方です!!」


咄嗟に説明を求められるも、気の利いた説明が思いつかないナディアとルーク。そもそもケルベロスとは文献や物語に度々登場するような魔物。子供でも知っている程有名なのだ。今更説明と言われても、どう答えたら良いのかわからなかった。


当然スフィアも知っているのだから、ありきたりな説明を求めてなどいない。聞きたいのはルークが発した不穏な響きの方。



「あぁ・・・お手をさせるのに、大人10人が全力で受け止める位の大きさって言えば伝わるか?」

「「「「「10人・・・」」」」」

「何処で飼おうと言うのですか!?」

「いや、何処って・・・城?」


知らねぇよ、と思いつつも律儀に答えてしまうルーク。当然火に油を注ぐようなもので、スフィアの興奮は収まらない。


「飼えるはずがないでしょう!そんな事もわからないのですか!?」

「・・・すみません。」


スフィアの剣幕に、反射的に謝ってしまうルーク。そんなルークの様子に、冷静になったスフィアが謝罪の言葉を口にする。


「いえ、すみません。ルークのせいではありませんでした。」

「いや、まぁ、気にすんな。」

「それでどうするの?」


スフィアが落ち着いた所で、ルビアが話を進めるべく尋ねる。ダンジョンがあるのはルビアの祖国である以上、自身が動かねばならない事を理解しての発言であった。



「追いかけるしかないだろうな。」

「ですが、本当にユキさんが向かったという確証もありません。」

「ならまずは情報収集じゃない?」

「そうだな。このままダンジョンに向かうにしても、一旦冒険者ギルドへ行く必要があるか。」


ダンジョン侵入の許可を得るには、冒険者ギルドを通さなければならない。だが、何かを思い出したナディアが思いついた事を告げる。


「待って。確かケルベロスって30階のボスじゃなかった?転移出来なくなるのは50階に足を踏み入れてからよね?直接転移出来ないかしら?」

「それが無理なんだ。」

「「「「「?」」」」」


試しもせずに即答したルークに、全員が揃って首を傾げる。


「例のスタンピード以降、どういう訳かあのダンジョンへは転移出来なくなった。」

「行こうとしたの?」

「あぁ。手っ取り早く食材を確保出来ないかと思って、な。ティナの提案を受けて試したから、ティナも知ってる事だ。」

「だからユキは20日って言ったのね?」


フィーナの言葉に黙って頷くルーク。直接転移出来ない事を知っていたからこそ、必要な日数を計算出来たのだろう。


「まともに往復する必要があるから多分、な。」

「ですが、転移出来ないのであれば焦る必要もないですね。」

「どうしてよ?」


焦る者達とは反対に、至って冷静なスフィアが呟く。理由のわからないナディアが眉間に皺を寄せながら問い掛ける。そんなナディアに対し、呆れたようにスフィアが答えた。


「戻って来るとわかっているのです。出入り口付近で待っていれば済むではありませんか。」

「「「「「あっ!」」」」」

「無駄な労力を費やす必要はないでしょう?」

「それもそうね・・・」

「心配なら、少し進んだ所で待ち構えてもいいのね。階段も1ヶ所だけだし。」


スフィアに言われて納得するナディアとフィーナ。しかしルークだけは反対する。


「それはダメだ。出来ればユキが30階に到達する前に説得したい。」

「何でよ?」

「例えば自分に懐いた動物を拾って帰るとしよう。家族に反対されて、はいそうですか、と納得出来るか?」

「「「「「それは・・・」」」」」

「全力で反発するだろ?その相手がオレやカレンだったとして、みんなにどうこう出来るのか?」

「無理ね。」

「逃げるので精一杯だわ。」


ルークの例え話に、ナディアとフィーナが首を横に振る。みんなも同じ意見だったらしく、そっと目を逸らすのであった。


「万が一ユキがケルベロスを手懐けた場合、みんなが立ち塞がるのは危険過ぎる。逆上するユキを相手にするんだからな。」

「みんなって・・・ルークは来ないのか?」

「行かない訳じゃないけど、オレが自由に動けるのは数日後だと思う。」

「どうして?」

「学園長を迎えに行かなきゃならないし、ユキの代わりに食料を調達しないといけないだろ?そっちはカレンとナディアに協力して貰うけど。」

「「「「「あぁ・・・」」」」」


アスコット、エレナの疑問に答えたルークに対し、誰も反論する事が出来ない。現状、まともに魔物を討伐出来る者が限られているのだ。具体的にはルークの加護を受けていて、元々高レベルの冒険者だった者。カレン、フィーナ、ナディアである。


更に言えば、カレンがダンジョンに向かう選択肢は無い。野営嫌いのカレンには、頼むだけ無駄と理解している。そしてナディアも今は行かない。いや、ルークがどうしてもと言えば行ってくれるだろうが、無理を言うつもりはなかった。ナディアが今度あのダンジョンに向かうのは、姉を救い出す時なのだから。


つまり、ルークを待っていては手遅れになりかねない。ユキを相手に、数日の遅れは致命的なのだ。加えて不確定要素を多分に含んだ学園長のお迎え。忘れていた、というお約束も頭を過るが、後々付き纏われるのも遠慮したい。誰かが口を滑らす事を考え、確実に処理しておきたいのである。



「ユキのセンスは独特だけど、今回は簡単に説得出来ると思う。誰でもいい、接触してくれれば一言伝えるだけで済むからな。」

「一言、ですか?」

「あぁ。『カレンがフェンリルを見たらしい』と言ってくれればいいんだ。それで止まる。」

「そんな事で?」

「そんな事で、だ。想像してみて、って言うか想像する事しか出来ないんだけど・・・ケルベロスとフェンリル。どっちと一緒に居たい?」


ルークの言葉に、全員が口を開けたままで何度も頷く。ここでケルベロスと即答する者がいたら、間違いなく変人扱いされる事だろう。しかし僅かな可能性があった為、ルークはユキのセンスに言及した。ケルベロスと答える可能性がゼロではなかったからだ。


だが同時に、ユキならばフェンリルを選ぶと判断する材料を持ち合わせていた。これは前世の記憶によるものだが、ここで口にする事はない。秀一がどれだけ力説しようと、雪を知らない者達が心から納得する事は出来ない。



「その顔だと、ケルベロスって答える変わり者はいないようだな・・・。それと、良い話と悪い話がある。フィーナ、どっちから聞きたい?」

「私?・・・じゃあ、良い話から。」


今回、エレナ達に同行して貰うつもりのフィーナに決めて貰うルーク。フィーナは少しだけ迷い、良い話から聞く事を選んだ。


「良い話ってのは、ユキの移動速度がみんなよりも若干遅いだろうって事。」

「根拠は?」

「ユキの食欲かな。食材を集めずにはいられないはずだ。つまり、ユキは必要以上に魔物を狩ろうとする。幾らユキの討伐速度が速くても、倒して収納するならロスは大きい。対してフィーナ達は、必要最低限の戦闘で駆け抜ける事になる。もし道中でユキと合流出来なくても、30階までには追い越すはずだ。それならボス部屋の前で待てばいいだろ?」

「「「「「なるほど!」」」」」


ユキの戦闘スタイルは不明だが、近接戦闘にしろ遠距離戦闘にしろ回収するには近寄る必要がある。魔物の数が多ければ多い程、ユキのロスは大きくなるのだ。食えない魔物でもない限り、回収しないはずがない。


対してフィーナ達は、無理に戦闘する必要がない。出来る限り無視、戦闘になっても最悪放置すればいいのだ。実際は人数が多い為、誰かが回収する事になるだろう。



「で、悪い話って?」

「あ〜、これは本当に今さっき思いついたんだ。今更急いだ所でどうにもならないから、オレも呑気に話してるんだけど・・・」

「「「「「?」」」」」

「ユキも冒険者ギルドに向かわなきゃいけないだろ?」

「そうね。」


ダンジョンに入る許可を得るには、絶対に冒険者ギルドを訪れる必要がある。


「1人だよな?」

「えぇ。」

「しかもティナじゃない、ユキの姿だ。」

「・・・何が言いたいの?」


痺れを切らしたルビアが口を挟む。


「ギルドカード、無いだろ?」

「ティナのカードを使わないんだもの、当然よ。」

「なら、どうすると思う?」

「え?それは・・・ユキの名前で登録するんじゃない?」

「そうだな。・・・はぁ、やっぱり誰も気付かないか。」


今度は元ギルドマスターのナディアが受け答えをするが、ルークの真意は伝わらない。大きく溜息を吐きながらルークが呟く。これには我慢出来なかったフィーナが噛み付く。


「さっきから何を言ってるの!?ハッキリ言いなさいよ!」

「・・・ならハッキリ言おう。おそらくアームルグ獣王国の冒険者ギルドは凄惨な状況にある。具体的には、多くの死傷者で溢れ返っているはずだ。」

「「「「「え?」」」」」

「ど、どういう事よ!?」

「まだわからないのか?・・・いいか?今は何処の冒険者ギルドも、出歩けない冒険者達で溢れ返っている。そんな場所に、絶世の美女たるユキが冒険者登録に向かったんだ。しかも1人で。・・・どうなると思う?」

「あ・・・」

「まさか・・・」


冒険者には荒くれ者が多い。それは平時でも言える事。そして今はスタンピードの影響で、外出出来ない者達が腐っている。そんな野獣の群れに、か弱く見える美女が突入したのだ。どうなるかは想像に易い。


「そうだ。ほとんどの男達が、間違いなくユキにちょっかいを出す。しかしユキはケルベロスで頭がいっぱいだ。邪魔されたと思うだろう。そしてカレンと同様、自分に触れる事を決して許さない。結果、どうなる?」

「私ならば相手の腕を斬り落としますね。それでもかかって来るようでしたら・・・細切れにします。」

「「「「「・・・・・。」」」」」




何の躊躇もなく笑顔のままで告げるカレンに、誰もが言葉を失った。そしてこの少し前、カレンの仮定を現実のものとしているユキの姿があった。まさに地獄絵図とも呼べる光景を、慌てて向かったフィーナ達が目にする事となる。

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