第241話 霊樹

全員が激しく狼狽える中、1人冷静に考察する者がいた。ルークである。彼はこの展開を予想していたのだ。


(最高神って所に引っ掛かってたけど、やっぱそうだったのか・・・)


創造神ではなく最高神。同じ意味合いのようにも思えるが、アークは1度として自分が世界を創り出したとは言わなかった。敢えて言う必要も無いが、それにしても様子がおかしい。そう感じての事だった。


「名前や詳しい事は言えないが、とにかくヤバイ相手だ。」

「言えない?」

「あぁ。あいつらは自分の名が何処で発せられたか察知出来る。口にした瞬間に補足されるだろう。」

「何故神同士で争っているのでしょう?」

「それは・・・あいつらが簡単に世界を滅ぼすからだ。」

「「「「「え?」」」」」

「そして何百万年、何千万年もの間、あいつらはずっと争い続けている。きっかけは知らん。」


世界を滅ぼすような存在に、全員が固唾を呑む。


「あいつらは?仲間割れって事か?」

「まぁそんな感じだ。残念ながらオレ達も詳しい事はわからなくてな・・・聞かれても答えてやれん。」

「では一部の魔神とお義父様達が争われているのは、それぞれがどちらかの創造神に与しているからですか?」


誰もが思い至るであろう疑問を口にしたのはスフィア。それに対してアークは首を横に振る。


「普通はそう考えるだろうが全然違う。オレ達はどちらにも付いてなどいない。」

「「「「「?」」」」」

「創生2柱は仲が悪い。それは事実だが、事はそれだけで済まなかった。直接争っても決着がつかない。その結果あいつらは戦い方を変えた。互いの創り出した世界を壊す事にしたのさ。」

「「「「「なっ!?」」」」」


言わば八つ当たり。アークの口から飛び出した言葉は、全員を驚かすには充分過ぎるものであった。


「そして今じゃあ、創造神達に取り入ろうとした魔神達が手足となる始末。創生2柱は世界が壊れ逝く様を静観している。相手の隙を伺っているのさ。」

「敵味方入り乱れての乱闘状態。唯一の救いは、創生2柱が直接動くのは数万年単位という事。それでも力を分け与えられた魔神達は脅威。」


シルフィの説明に、ルークは疑問を覚える。


「何故魔神達は創造神に取り入ろうとするんだ?」

「魔神達が受けた呪いが、創造神によるものだからよ。連中は呪いを解いて貰おうと必死なの。」

「創造神が呪いを解く保証は無い。それでも魔神達は縋るしかない。自らの欲望の為に・・・。」

「欲望?」

「食欲、物欲、性欲、自己顕示欲・・・例を挙げればキリが無い。生きている限り、大なり小なり抱く感情だ。当然神族も例外じゃないんだが・・・」

「そういった感情が強い者達だからこそ、私達と敵対している。」


アークの言葉を引き継いだシルフィに、全員が納得したような表情を浮かべていた。そんなルーク達に対して、纏めるような形で語り始めるアーク。


「そういう事情があって、前世の肉体を保管していた訳だ。オレと同じ容姿じゃ、名札をつけているようなもんだろ?そしてティナに関しては、ルークが拒絶しない為だ。お前達に何の断りも無く行ったから怒っただろうが、こっちも形振り構っていられなくてな・・・。」

「怒ってなどいませんよ。」

「ティナ?」


利用されたと言うのに怒っていないと告げるティナに、ルークは思わず声を掛ける。


「怒るどころか感謝しています。生まれ変わらせて下さったのですから。お陰でまたシュウ君と一緒に居られるんです。ですから気にしないで下さい。」

「・・・そうか。ルークはどうなんだ?」

「オレは・・・そうだな。またこうして雪と出会えたんだ。オレも感謝している。」

「ありがとう。ごめんなさいね?」


感謝と謝罪の言葉を口にしながら、ヴィクトリアが頭を下げる。



「ひとまず前世の肉体を用意していた理由はわかった。あとは霊樹に関して聞きたいんだが・・・。」

「そうだな。霊樹とはその名が表すように、霊・・・霊界を支える存在だ。支えると言っても物理的なモノじゃないんだがな。この世界の魔神に対して真っ先に対処したのは霊樹を護る為だ。」

「霊樹が害されるとどうなるのです?」

「霊界を支える柱が無くなり、霊界は崩壊するだろう。簡単に言うと、魂が行き場を無くして生まれ変わる事が出来なくなる。そうなった魂はやがて消滅するのさ。一応魂も少しずつ増えるんだが、消滅するスピードの方が圧倒的に早い。結果、全ての世界から命が失われる事となる。」

「「「「「っ!?」」」」」


次から次へと驚愕の事実が語られるが、それを聞く者達はまだまだ驚くだけの余裕があるらしい。これ幸いとばかりに、アークは説明を続けるのだった。


「多くの犠牲を払い、この世界を守り切る事には成功した。その結果、オレ達は最大戦力を失ったがな・・・」

「「「「「最大戦力?」」」」」

「アーク様、シルフィ様に次ぐ力を持った女神。生命神ティラミス。ラミス教が崇めるラミス神とは彼女の事です。そしてこの世界に残っている神器の製作者でもあります。」

「「「「「はぁ!?」」」」」


ヴァニラの説明に、全員が大声を上げる。争いの火種を作り上げた事、最大宗教であるラミス教の主神の正体である事。しかしそれだけには留まらない。


「島1つを丸ごと空に上げ、そこに住まう者達を創り出した自重知らずの神です。」

「私達の事?」


全員の視線がリリエルへと注がれる。


「リリエル達を生み出したのは男神じゃないのか?」

「ん〜、豪快な所は男勝りだったけど、多分女性だよ?」

「「「「「多分?」」」」」

「超男嫌いだったもん。男を見る度、「男なんて滅んでしまえばいいのに」って言ってたから。」

「「「「「・・・・・。」」」」」


それは判断材料にならないのではないかと、全員が考える。しかし『自分以外の男』と言わなかった事から、女性であると考察出来なくもない。どう反応したら良いのか判断出来ない面々に、ヴァニラが補足する。


「ティラミスは無類の女好きで有名でした。彼女も男装を好んでいましたから、男神と勘違いする者達も多かったのです。加えてこの世界に女性が多いのは、ほとんど彼女のせいですね。」

「まさか・・・」


率先して男を減らしていたのではないか、とルークは邪推する。だがその考えはヴァニラによって否定されるのだった。


「あ、違いますよ!その世界の主神というのは、少なからず影響を与えます。ですからティラミスの後を継いだのがカレンだったというのも大きいのです。彼女もカレンも、直接手出しするような真似はしておりません。」

「私をあの方と一緒にしないで下さい・・・。」


頬を膨らませながらカレンが文句を言い放つ。


「まぁ、そう怒るな。ヴァニラも悪気があって言ったんじゃないしな。」

「アーク様がおっしゃるのでしたら・・・。」

「とりあえずティラミスの話は置いておくとして、話を霊樹に戻すぞ?そういった事情から、重要な霊樹を護る為に例外とも言える上級神の主神がいた訳だ。」

「お陰でやりたい放題でしたけどね・・・。」

「「「「「・・・・・。」」」」」


ヴァニラがつい本音を呟くが、誰もコメント出来ない。どう言って良いものかわからなかったのだ。


「そしてティラミスは単なる主神でもなかった。アイツは霊樹の巫女という役割も担っていた。」

「巫女?」

「あぁ。まぁ、巫女というのは正しい表現じゃないんだがな・・・。霊樹に何かあった場合に対処する、代行者というか管理者みたいなもんだ。そして今回、その役割を雪・・・ティナに担って貰いたい。」

「私、ですか?」

「そうだ。この役割、誰でも良い訳でもなくてな。ティラミスも適任だった訳じゃない。他にいなかったから仕方なく、という側面が強かった。だが今回、霊樹と強い繋がりを持っているお前が居る。分身体だったティナが、な。」

「・・・何をすれば良いのでしょうか?」

「そう警戒する必要は無い。今の所は差し迫った危険も無いからな。様子を見つつ、適当に相手してくれればいいさ。」

「相手?」


まるで生き物のように告げるアークに、ティナは首を傾げる。


「霊樹はな・・・意思を持っている。」

「「「「「はぁ!?」」」」」

「木なんだよな?」

「木だな。」

「「「「「・・・・・。」」」」」


確認を取るルークに、あっさりと告げるアーク。疑う訳でもないが、到底信じられないルーク達は言葉を失った。


「どのように意思の疎通を諮るのですか?」

「オレ達の場合は直接になる。霊樹の前に立ち、普通に語り掛けるのさ。だが繋がりを持つお前の場合は違う。心の中で念じれば、おそらくだが霊樹に届くだろう。」

「心で・・・・・あっ。」


アークの説明に、静に目を閉じるティナ。早速実行したのだろう。そしてその成果はすぐに現れる。


「やっほぉ!呼んだ!?ユグドラシルちゃんだよ!」

「「「「「っ!?」」」」」


突然目の前に現れた幼女に、全員が身構えた。しかし自らをユグドラシルと名乗る幼女は、気にした様子もなく喋り続ける。


「私の事は『ユグちゃん』って呼んでね?」

「「「「「・・・・・。」」」」」


ポーズを取りながらウィンクする幼女。状況に思考が追い付かない者達は唖然とした表情を見せる。それにはアークも含まれていた。


「あ!あーたん久しぶりだねぇ!!」

「「「「「あーたん・・・・・」」」」」


アークに向かって『あーたん』と語り掛ける幼女に、ツッコむ事が出来る者はいない。調子に乗ったユグドラシルは、さらに口を開く。


「あーたんと同じ顔の君は、息子のるーたんだね?若いしルークだから、るーくんの方がいいかなぁ?」

「やかましいわ!」

「「「「「あっ」」」」」


ーースパーン!


全員が静止する間もなく、イラっとしたルークが幼女の後頭部を勢い良く叩いたのであった。しかしそれを咎める者はいない。ルークの気持ちが理解出来てしまったのだから。



こうして霊樹との初対面を果たすティナ達であった。

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