第230話 アストリア王都強襲4

突如として広がった氷の世界。これにはエレナ達もどう対処して良いのかわからない。呆然とするエリド村の住人達には見向きもせず、ルークは再び大声を上げる。


「時間切れだ!現時刻を以て、アストリア王国に対し宣戦布告する!!」

「「「「「っ!?」」」」」


「炎よ来たれ

その身は我が矢となり

その身は我が鎧となりて

我が力を贄とし 我が命を聞け

我が力を燃やして 灼熱と化せ」


「禁呪!?」

「連発かよ!?」

「連発というより、まだ最初の禁呪が発動中よ!」


あまりにも非常識、というよりも前代未聞の行動に、サラ達は声を上げる事しか出来ない。だが、お陰で冷静になれた者達もいる。


「火の禁呪・・・」

「ここで使われたら・・・」

「「「「っ!?」」」」


エレナとアスコットの呟きに、エルフ族の4人が反応する。辺り一面、氷の世界。そこに炎が加わったらどうなるのか?それは誰にもわからない。


だが万が一炎が勝つ事になれば、見渡す限りに広がる木々の全てが燃え尽きるだろう。そうなれば、エルフ族がこの地に住む事は出来ない。


それを知ってか知らでか、ルークは今まさに撃とうとしている。指を咥えて見ている訳にはいかなかったのだ。


「「やめろぉぉぉ!!」」

「「ルークぅぅぅ!!」」


トルトレロッソ、マルトノーラの男性エルフが勢い良く飛び出し、ララファールカ、エルヴィーラの女性2人が後に続く。


「その身は罰を その身は弔いを

眼前を埋め尽くす炎よ・・・」


詠唱を続けたまま、ルークが攻撃を繰り出す。まずは自身に迫った2人に。


「・・・天を焦がせし劫火よ

その全てを包み込め」


続いて女性2人にそれぞれ一度ずつ。4度の攻撃を終えると、4人が悲鳴を上げる。ただ事ではない様子に、エレナ達はその場で凝視する。結果、全員が大きく目を見開く事となった。


「「ぐあぁぁぁ!」」

「「きゃあぁぁぁ!!」」



その手に握られているのは、木刀ではなく真剣。再び4人へと視線を戻すと、斬り落とされた手や足が宙を舞っていた。


「「「「「なっ!?」」」」」


「浄化を齎す高貴な炎よ

この世の全てを焼き尽くせ    ニブルヘイム!」



先に放っていたスノーホワイトに対し、王都を挟んだ反対側へ放たれる業火。激しく燃え盛る炎は、ジリジリと身を焦がす勢いであった。


地獄絵図にも似た光景を作り出し、ルークが静に振り返る。


「言ったよな?容赦しないって・・・。親しければ殺されないとでも、本気で思ってるのか?」

「「「「「・・・・・。」」」」」

「まぁ、みんなには世話になったからな。せめてもの情けだ。だが次は無い!向かって来るなら殺す!!」

「「「「「ひっ!?」」」」」


初めて目にする本気の怒り。エレナ達でさえも、あまりの恐怖に座り込んでしまうのだった。そんなエレナ達を見て、ルークは改めて王都へと歩き出す。


ルークと距離を取った事で、まずはエレナが我に返る。


「はっ!?ロッソ、マーラ!ララ、エル!!直ぐに治療するわ!!」 「お、オレ達も行くぞ!」

「「「「「あぁ!」」」」」



斬り飛ばされた手や足を集め、魔法と回復薬で治療しながら話し合うエレナ達。


「ルークがここまでするなんて・・・」

「一体何があったと言うんじゃ?」

「わからない。あの様子じゃ、確認する事も出来ないし・・・。」 「それよりどうするの!?あの炎と氷、王都に迫って来てるよね!?」

「「「「「・・・・・。」」」」」


この場に残ろうとする者。力ずくでも全員を連れて逃げようとする者。揺れ動く心の中で、何があったのかが気になるエレナ達であった。





時は少しだけ遡る。


朝一番で王都の門にやって来たルークは、守衛達に向かって叫んでいた。


「昨日我が妻を愚弄した男を差し出して貰う!」

「その者は行方不明だ!」


(素直に引き渡すつもりは無いみたいだな。予想はしていたけど、やはり少し妙だ。貴族や王族には見えなかったんだから、素直に引き渡せば済む話。それをしないのは・・・知られるとマズイ事があるって事だよな?)


想定内の返答に、ルークは予め用意していた要求を突き付ける。


「ならば2時間以内に探し出せ!いいか?生きたまま差し出せよ?差し出さない、もしくは死体だった場合は敵対行為と見なす!!」

「なっ!?」

「差し出さなければ30分に1回ずつ、王都に向けて攻撃を行う。2時間待っても差し出さない場合、国ぐるみでの隠匿とみなし・・・国民もろとも根絶やしにする!!」

「ば、馬鹿なっ!」

「皇族を侮辱する者は極刑!匿う者も同罪だ!!」


この時、大半の衛兵は笑っていた。単身で何が出来ると、馬鹿にしていたのである。しかし、ルークと受け答えした者だけは違っていた。実はこの者、王宮から直接遣わされた使者だったのである。


前日の正式な抗議を受け、ルークの来訪を朝早くから待っていた。対応を間違えれば国が滅びる。そう上司から言い聞かされていたのだ。半信半疑だったものの、ルークの言葉で確信を得る。青褪めた顔のまま、急ぎ王宮へと駆け出すのであった。





使者が戻る直前、王宮では王族がいつも通りに過ごしていた。



「お母様!玩具が全て壊れてしまいましたわ!!」

「またなの?この国を訪れる他種族の男は少ないのだから、もっと大事に扱いなさい!」

「そういうお母様こそ、先月は10人も壊してしまったではありませんか!」

「仕方ないでしょ?あの者達は、私を満足させられなかったのだから・・・。」

「早く何とかして下さい!このままでは気が狂ってしまいそうです!」

「全く・・・それならそこの玩具を連れて行きなさい。」

「ありがとうございます!!」


呆れたように呟きながらも、自分の周囲に横たわる男達を指差す女性。彼女こそアストリア王国の王妃、リリアルカ=アストリアである。そして彼女をお母様と呼ぶ人物が第一王女、ララトラーザ=アストリア。


この場に居る全ての者達が衣服を着ておらず、至る所が体液にまみれていた。性欲に溺れた王妃と第一王女の欲求を満たすその為だけに居る男達。その数、実に20人強。彼等の正体は、アストリア王国を訪れた商人と護衛の冒険者。王都入り口で無実の罪に問われ、連行された被害者であった。


それが一体何故、このような状況となっているのか。それは司法取引の結果である。普通であれば1人や2人、必死に抵抗を続けていてもおかしくはない。それが1人の例外無く取引に応じたのか。それは王妃や第一王女と性交渉をする事が、無罪放免となる条件だったからだ。


男というのは馬鹿な生き物である。エルフ族の王妃と王女ともなれば、通常はお近づきになる事も出来ない存在。例えどれ程の美しさであっても、遠くから眺めているだけなのだ。


そんな雲の上の存在に近付けるどころか、一夜を共に出来る。夢のような体験が出来るとあって、全員が激しく首を縦に振った。結果、一夜どころか数日間に渡って搾り取られ続ける事となる。



体力を失い、気絶しようともすぐに治療される。魔法や治療薬がどれだけ優れていようと、無理を続けていれば限界は訪れる。結果、腹上死した者の数は数え切れない。一見幸せな最後のようにも思えるが、犠牲者の姿を見た者達の考えは違っていた。



その理由は、彼女達のエルフとは思えない美貌にある。この点については個人の好みに左右される為、後ほど誰かに語って貰うとしよう。




ララトラーザが男達を両肩に1人ずつ抱え、両手で2人の足首を掴む。そのまま自室へ向かおうとした時であった。


「お、王妃様!急ぎご報告したい事がございます!!」

「・・・入りなさい。」

「失礼します。ヒィ!・・・めさまもご一緒でしたか。」


ララトラーザの姿を目にし、思わず悲鳴を上げる使者。だがそれに気付かれまいと、必死に言葉を繋げるのであった。そして新しい玩具を手に入れた王女が気にする様子は無い。何とか命拾いしたと胸を撫で下ろし、すぐさま王妃の下へと歩み寄る。


「どうしたの?」

「は、はっ!実は・・・・・」


王妃の問い掛けに頭を下げ、事情を説明する。王妃の前である以上平伏するのは当然だが、彼の考えは少し違っていた。絶対に姿を見ないようにとの心遣いである。何しろ王妃もまた、衣服を纏ってはいないのだから。



一切顔を上げずに説明を終える使者。王妃からの反応は無いが、絶対に見る訳にはいかない。一刻も早くこの場を辞する事だけを考えていると、絶望的な展開へと移る事となる。


「帝国の皇帝が単独でねぇ・・・。ジジイが1人来た所で、何が出来ると言うのかしら?」

「お言葉ですが殿下、皇帝陛下は若い男性です。」

「・・・若い?」

「詳しく説明しなさい!特に容姿に関してです!!」


聞かれた事にだけ答えていれば良いものを、馬鹿正直に訂正してしまった事。それが使者の犯した過ちである。眉を顰めただけの王妃とは対象的に王女が食いつく。これにより、使者はルークに関する情報を洗いざらい説明する事となってしまった。


ルークの容姿が優れている事を説明すべく、使者はリノアを引き合いに出す。世界一の美女と呼ばれるリノアに相応しく、エルフ族の男性を凌ぐ程の容姿であると。説明を終えてから後悔する。何故王妃と王女の前で、世界一の美女という呼称を口にしてしまったのかと。


「お母様!」

「えぇ・・・。」


罰せられる。そう覚悟した使者であったが、2人の口からは予想外の言葉が発せられた。


「「遠見の魔道具を!!」」

「は?・・・ヒィ!は、ははっ!!」


思わず顔を上げてしまった使者が悲鳴を上げる。しかしすぐさま取り繕い、チャンスとばかりに命令に従うのであった。逃げるが勝ちである。


「世界一の美少年・・・じゅる。」

「お母様!私もご一緒させて下さいまし!!」

「えぇ、ララ。2人でたっぷりと味わいましょう!」



ルークとの濃密な時間を妄想し、2人はおぞましい笑みを浮かべるのであった。

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