第195話 緊急会合

決意を胸に、トンネルへと戻ったオレ達を待っていたヴァニラ。彼女を目にした瞬間、激しく横道に逸れた思考を戻す事に成功した。


「待たせて悪かった。」

「いえいえ、構いませんよ。」

「えぇと、単刀直入に聞くけど・・・アンタの狙いはオレなのか?」

「はい。」


ハッキリしてる方が好きなので、馬鹿正直に聞いてみた。するとニッコリ微笑んで肯定するヴァニラ。間違いなく駆け引きでは勝ち目がない事を悟る。


「念の為言っておくけど、オレはアークじゃないぞ?」

「あぁ、私も言っておきますね。私はアーク様をお慕いしてなどいませんよ?」

「そうなのか?」

「はい。どうにかして籠絡しようと足掻いていた美の女神を間近で見ていましたからね。狙うならご子息と決めておりました。」


ここまでハッキリ言われると、逆に清々しい気分になる。


「そんなに権力が好きか?」

「いいえ。権力を持った、魅力的な方が好きなのです。ほんの一時アーク様を狙った事もありましたが、あのお方は伴侶としてはつまらない。仕事は優秀ですけどね?その点ルーク様は興味が尽きません。奔放な所はアーク様ソックリなのに、後先考えない所などはヴィクトリア様譲り。飽きる事無く楽しませてくれる権力者など、他にいませんから。」


褒められてるんだろうか?それとも貶されているのだろうか?深く考えるのはよそう。と言うよりも、思考を中断させられた。本当に楽しそうに語るヴァニラに見惚れてしまったのだ。


警戒していたさっきまでとは違い、受け入れる事に決めた今。知れば知る程、その所作1つ1つが魅力的に思えてならない。こんな女性になら、振り回されてもいいかもしれない。久しぶり過ぎて、オレの美人耐性はスリープモードに入っていたらしい。


だからこそオレは無理矢理話題を変える。


「みんなにはカレンが紹介してくれ。」

「では、ルーク様にお仕えしてもよろしいのですね?」

「あぁ。どうせ断れないんだろ?だったらよろしく頼むよ。何なら報酬は前払いでも構わないぞ?」

「っ!?・・・ふふふっ。私が動揺させられるなど、一体何万年ぶりでしょう?本当にヴィクトリア様には感謝しなければ。あぁ、すみません。でしたら、皆さんの許可を頂いてからということで。」


お互いに納得した所で、オレは作業を再開する。慣れて来た事でかなりのスピードで走っているのだが、息を切らした様子も無くヴァニラが話し掛けて来た。


「少しだけお時間を頂いても?」

「ん?スフィア達からの連絡も無いし、それまでなら構わない。」

「でしたら少しばかり状況説明させて頂きます。まず初めに最重要事項から。現在、このフォレスタニアにヴィクトリア様とシルフィ様がお越しになっておられます。」

「シルフィ様が!?」


カレンがビックリしているが、オレは初めて聞く名前だな。


「誰だ?」

「アーク様の妹君、つまりは元王女様と言った所でしょうか。」

「ならオレの叔母さんって事になるのか。・・・叔母さん!?ビックリだわ!!」

「私もビックリです!シルフィ様を叔母さん呼ばわりしないで下さい!!」


叔母さんがいる事にビックリしたオレだが、カレンも別の事にビックリしている。


「何かマズイのか?」

「いえ、ルーク様なら問題無いでしょう。それにシルフィ様を目にしてもそう呼べるか楽しみです。」


ヴァニラのセリフが気になるな。本人が気にしているのか、それとも相当若いのか・・・。それは会ってから決めよう。


「叔母さんはいいとして、何でオレの母親が来てるのを知ってるんだ?」

「私が手引したからです。」

「「はぁ!?」」


最高神が大騒ぎしてたのって、全部コイツのせいじゃねぇか!ひょっとして、厄介払いされたんじゃないだろうな?


「だって、仕方ないじゃありませんか。いつまで経ってもルーク様に近付く事を許して頂けなかったのです。そんな時、手を貸せばルーク様との間に何かあっても協力して下さるとおっしゃったのですよ?」

「欲望に忠実なんだと理解出来たよ!で、叔母さんについては?」

「シルフィ様はヴィクトリア様に買収されました。お2人の目的は、ルーク様の作るお菓子です。(私も、ですけどね)」

「いやいや、何でオレがお菓子を作る事が決まってるんだ?」

「え?・・・えぇ!作って頂けないのですか!?」


別に作るのは構わないんだが、自分の知らない所で話を進められても困る。


「作って貰えると思う根拠は何だ?」

「実の母親に叔母ですよ!?」

「顔も知らないな・・・」

「そ、そんな!?」


この世の終わりみたいな顔をされても困る。しかも走りながら。


「大体その2人は何処にいるんだ?」

「正確な場所までは・・・。ですが今は姿を見せないでしょうね。ルーク様の周囲はアーク様が警戒していらっしゃいますから。」


オレが訪ねるとすぐに復帰した。どこまでが本気なのかわからん。そしてヴァニラの答えについては納得がいく。目的がオレならば、重点的にオレの周囲を監視すればいいのだ。


「何となく理解したよ。それで・・・まだあるんだよな?」

「えぇ。あとは美の女神について少々。」

「美の女神ねぇ・・・呼び名だけならときめくものがあるんだけどな。」

「でしょうね。美の女神というのも俗称ですし・・・。」


どうにも雲行きが怪しくなって来た。まともな神はいないのだろうか。


「俗称?美を司るって意味じゃないのか?」

「はい。単純に最も美しい女神というだけの話です。いつの間にか、自然とそう呼ばれるようになりました。」

「参考までに・・・どんな神なんだ?」

「負けん気が強く人一倍独占欲の強い・・・面倒な女性です。人間の世界で例えるなら、まさしく箱入り娘で生来のお嬢様、でしょうか?」


おぉ!オレの苦手なタイプだ。ワイルド過ぎるのもアレだが、箱に入ってるのは正直いただけない。願わくば、その箱がダンボール製であって欲しいものだ。


「因みに独占欲が強いってのはどの程度だ?」

「そうですねぇ・・・他の女性に手を出そうものなら、間違いなくちょん切られるレベルです。」


却下!むしろ即チェンジです!!そしてヴァニラよ、人差し指と中指でチョキチョキしない!しかしそれならオレを標的にするのはおかしい。


「他の女性に手を出したらソレなんだろ?だったらオレには興味無いんじゃないか?」

「いえいえ、言ったではありませんか。負けん気が強いと。カナン、あ、彼女の名前です。カナンは何でも1番でなければ気が済まないのです。ですから地位に対する執着も強い事になります。ルーク様の妻となり、他の嫁達を排除すれば1番になれますよね?」

「その話はカレンに聞いたな・・・。」

「私が教えましたからね。」


なるほど。だから同じ説明なのか。


「それで、具体的にどう気をつければいいんだ?」

「そんなに難しい話ではありません。外での単独行動を控えて下さい。」

「・・・え?それだけか?」

「それだけです。彼女の事ですから、同行している女性に対して並々ならぬ敵意を顕にするでしょう。それに気付ければどうにかなります。いきなり妻の誰かを排除する程愚かではありませんから・・・。」


オレの気を引く前に敵対するのは愚策って事だな。一緒にいる嫁さんが心配だけど、そこは命懸けで守るしかない。


「とりあえずはわかったよ。」

「私からは以上です。」

「そう言えば聞いてお・・・時間らしいな。」


ヴァニラに質問しようとしたタイミングで通信用の魔道具に反応があった。スフィアからの合図だ。すぐさま手と足を止めてヴァニラとカレンに向き直る。


「じゃあカレンはオレと一緒に行くとして、ヴァニラはどうする?」

「そうですね・・・まずは帝都周辺を巡回してみます。誰か見つかるかもしれませんし。」


一緒には行けない事を告げると、ヴィクトリアとシルフィかカナンがいないか探しに行くと言うヴァニラ。当然異論は無い為、オレとカレンは無言で頷いた。そのまま互いに転移して別行動となる。




時は少しだけ遡り、世界政府の緊急会合直前。各国の代表が席に着く中、1ヶ所だけが空席となっていた。しかし時間とあって開会を宣言するカイル国王。これに異を唱えたのは、とある国の王。


「忙しい中集まってくれた事、感謝する。只今より緊急会合を「待て!」何かな?」

「今回はライムのダンジョンが議題のはず!そのライムからの出席者がいないのは何故だ!!」


声の主はミーニッツ共和国国王、ラカムス=ミーニッツ。何だか偉そうなのは、実際偉いから。というだけでなく、カイル国王よりも年齢が上だからだろう。白髪に白髭の老人である彼は、見た目80歳といった所。この場に集まった中では外見上の最高齢である。


本来であればヴァイス騎士王国が真っ先に声を上げている所だが、フォレスタニア帝国陣営にはクレアが参加している。だからこそまずは様子を見ようと考えたのだった。その次に声を上げるべきはそのお隣ラミス神国。


しかしこちらには聖女の姿があった。ルークの嫁達と面識があった為、こちらもだんまりを決め込んだのだ。


そうなればシルヴァニア王国かミーニッツ共和国の番となる。だがシルヴァニア王国の国王、ジョセフ=エトワール=シルヴァニアはカイル国王と友人関係にあった。つまり必然とミーニッツ国王が声を上げるしかなかった事になる。


そんなミーニッツ国王に対し、カイル国王が静かに告げる。


「ライムの王城と連絡が取れん。状況から察するに、もうこの世にはおらんじゃろう。」

「「「「「っ!?」」」」」


まさかの発言に、事情を知らない各国の者達が息を呑む。それはつまり、城が堕ちた事を意味するのだから。


「フォレスタニア皇帝陛下の尽力により、王都は無事じゃ。じゃが王族の安否確認には至っておらん。」

「アイツが殺したんじゃないだろうな!?」


仲が良い訳でもなく、やりたい放題のルークに対して不信感を顕にするミーニッツ国王。ルークの嫁達が不快感を露わにする中、眉1つ動かさずにカイル国王が口を開いた。


「今から状況を説明する。意見を聞くのはそれからじゃ。今回の一件、発端は・・・・・」



こうしてカイル国王が詳細を説明し始めたのを見守りつつ、スフィアはルークへ合図を送るタイミングを計るのであった。

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