第180話 ライムダンジョン防衛戦1

カレンとエリドが決着を見せる少し前の事。ルークは単身ライム魔導大国へと赴いていた。目的は世界最高難易度のダンジョンを確認する事。単独で訪れた理由は勿論、敵が居るのかも定かではない場所に割く人員がいなかった為。・・・という建前である。


ルークの本音は、折角確保した拠点の位置を悟られたくないのである。別に疚しい理由あっての事ではない。単純に、何時でも嫁達から逃げられる場所を確保しておきたかったのだ。ラミスの拠点が知られてしまった以上、残るはライムにある建物のみ。何があっても死守する必要があった。


「転移ポイントって意味でも、ここは大事にしないとな。」


そんな事を呟きながら、玄関の扉に手を掛ける。しかし力を入れようとした瞬間、ルークの身に衝撃が走る。


「・・・・・ダンジョンって何処にあるんだよ!!」



そう、残念な事にライムでまともに生活を送った事は無い。そればかりか、ライム魔導大国の王都内をしっかりと散策した事が無かったのだ。国民の誰もが知るであろう事実を、ルークは知らなかったのである。


何ともお粗末な展開に、ルークは考える。知り合いに聞こう、と。しかしここでまた、更なる衝撃が襲い掛かる。


「・・・・・知り合いって言ったら、あのストーカーじゃねぇか!!」


他に商人達も居るのだが、彼等に会おうとすればもれなくレイチェルも付いて来る。いや、むしろ商人達を押しのけて来るだろう。だからこそルークは商業ギルド関係者を除外する事に決めた。


そうなると、あとは道行く一般人か冒険者ギルドである。自身の行いを鑑みて、冒険者ギルドも除外する他ない。


「日頃の行いだよな・・・別に後悔はしてないんだけど。」


こうしてルークは、アストルではなくルークとして道行く者達に尋ねる事にする。




1歩外に出ると、道にはそれなりの人数が行き来していた。これなら楽勝だとばかりに、ルークは近くを通りかかった男性に声を掛ける。


「すみません、道をお尋ねしたいのですが?」

「ん?兄ちゃん、何処へ行きたいんだ?」

「この国にあるダンジョンなんですけど・・・」

「ダンジョン?さて、オレは知らねぇな・・・。」

「そうですか。ありがとうございました。」


まぁ、こういう事もあるだろう。きっと今の人は旅の商人か何かだ。男性がニヤリとほくそ笑んだ気がしたが、そう思う事にして今度は近所のオバちゃん風の女性に声を掛ける。


「ちょっといいですか?」

「おや?どうしたんだい?」

「この国にあるダンジョンについて教えて頂きたいのですが・・・」

「ダンジョン?・・・あぁ、大昔の国王様が閉鎖したってアレだねぇ!やだよ〜、あんな御伽噺を信じてるのかい?」

「お、御伽噺!?」

「そうさ。この国じゃ、子供を叱る時に言うんだよ。『悪さをすると、幻のダンジョンに連れて行かれるよ!』ってね。」


まるで何処かの国のホラーか何かのような扱いに、ルークは頭を抱える。恐らくは、聞き込みを続けても辿り着けない。こういった噂話が広まっている時点で、誰が真実を語っているのか判断出来なくなるだろう。或いは、次に話し掛けた人が知っている可能性もあるが、やはり真実を語っている保証は無いのだ。


こうなった時のルークは、誰よりも決断が早い。女性に礼を告げ、一旦拠点へと引き返した。そのままフォレスタニアへ飛ぶ。


城内を練り歩き、発見した第一使用人に声を掛けてスフィアの下へと案内して貰う。そうして訪れた執務室でスフィアに事情を説明したのだが、これにはスフィアも首を傾げた。


「私も亡くなった祖父から聞かされた程度ですから、詳しい場所までは・・・。」

「そうか・・・。なら、知っていそうな人物に心当たりは?」

「確実なのは、ライムの王族ですね。その場合、漏れなく5帝が付いて来ますが。」

「論外だな。じゃあ、ダンジョンの話も王族から?」

「はい。あ・・・カイル国王陛下なら、何かご存知かもしれませんね。ですが、幾らルークでも行ってすぐに面会は難しいと思いますよ?」


これにはルークも頷くしかない。如何に他国の王であっても、何の約束も無しにホイホイ会えるような相手ではないのだ。しかし自重を知らないルークは、強引な手段を思い付く。


「王都を襲撃したら出て来る「やめて下さい!!」・・・はい。」


何とも物騒極まりない発言を遮る形で、スフィアが止めに入る。自分でも馬鹿な事を言っている自覚のあったルークは、素直に従うのであった。


しかしそうなると、ダンジョンに関する情報を入手する手段が無い。かなり強引だが、ルークの考えを受け入れる他あるまい。そう判断したスフィアは、少しアレンジした作戦を提案した。


「いきなり襲撃ではなく、まずは脅しから入りましょう。」

「ほぉ?」


かなりわかり易い作戦に、ルークが不敵な笑みを浮かべながら続きを促す。


「正面から王城に乗り込んで下さい。そして面会が受け入れられない場合、今後エリド村周辺の魔物退治は引き受けないと言えばいいのです。それでも駄目なら・・・あとは好きにして下さい。」

「魔物退治か・・・そんなのもあったな。」


そこまで昔の事でもないのだが、ルークの記憶からは消え去っていた。しかし相手の弱みに付け込む素晴らしい作戦に、ルークは素直に感想を述べる。


「流石はスフィア。相手の弱みを突かせたら右に出る者はいないな!」

「・・・もう少し言い方を考えて頂けませんか?それでは私の性格が悪いみたいではありませんか。」


あまり良い性格ではないだろうと思ったルークであったが、そんな事まで口にする程愚かではない。苦笑いを浮かべて話題を逸らす。


「あまりのんびりもしてらんないし、早速行って来るよ!」

「・・・まぁいいです。あまりいじめないで下さいね?」

「わかってる!!」


本当にわかっているのだろうか?といった表情で見つめるスフィアから逃げるように、ルークはカイル王国の王都付近へと転移した。


転移魔法は見られないように気を遣っているものの、その後の行動はお構い無しである。王都に入る為に並ぶ時間も惜しいと、森から王城までは風魔法による飛行だ。それでいいのかと思うのだが、非常事態と自分に言い聞かせて。


空から人が振って来た事で、城門前に立っていた兵士達が驚く。


「っ!?」

「国王陛下に会いたいんだけど?」


不審者感丸出しの男が何を言い出すのかと思うが、警戒する兵士ばかりではなかった事が幸いした。


「フォレスタニア皇帝陛下!?」

「あ〜、悪いんだけど・・・」


兵士の中に、ルークの事を覚えていた人物がいたのだ。しかしルークはそんな事とも知らずに事情を説明する。あまりにも一方的な要求ではあったが、内容が内容なだけに兵士も判断がつかない。慌てて城へと走り、待つ事数分。息を切らして戻って来た兵士に案内され、ルークの電撃訪問は成功を見せた。


「・・・ルークよ、年寄りをいじめるものではないぞ?」

「すみません、ちょっと緊急でして。実は・・・」


執務室へ案内されるや否や、カイル国王から小言を頂戴してしまう。申し訳ないと思いつつ、ルークは早速事情を説明した。ルークの説明を静かに聞いていたカイル国王だったが、ルークの説明が終わるとすぐに口を開く。


「事情は理解した。じゃがな・・・ルークがあの国のダンジョンへと辿り着くのは、困難と言わざるを得ん。」

「やはり陛下もご存知ないのですね?」

「いや、ワシはおおよその位置を知っておる。だからこそ、ルークには難しいと言っておるのじゃよ。」

「オレには、ですか?」


ルークでも辿り着けない、そう言われるのならば諦めもつく。無理に向かおうとは思わないし、恐らくはダンジョンが狙われる心配も無いだろう。しかしそうではない。ルークには難しいと言われたのだ。それは即ち、ルーク以外の者であれば辿り着ける事を意味している。ならば簡単に引き下がるべきではない。


そんなルークの思考が予測出来たカイル国王が理由を説明する。


「あの国の時の王はな、よりにもよってダンジョンの入り口を塞ぐ為、ダンジョンの上に王城を建てたのじゃ。」

「・・・・・ふぁ?」



カイル国王がボケたのかと思ったのだが、とてもそうは見えない。となれば自分の聞き間違いだろう。そう思ったルークは間抜けな声を上げた。そんなルークに笑みを零しながらカイル国王は説明を続ける。


「ほっほっほっ。本来ライムという国の王都は、今よりも少し内陸側にあったそうじゃ。それを、ダンジョンに蓋をするというだけの為に遷都したと言われておる。しかも、それまでの王都は跡形も無く取り壊したらしい。」

「んなアホな・・・」

「ルークの言い分も理解出来るが、そこまでする理由があったとも言える。王城を作る際に世界中から優秀な魔道士を集めた事が、魔導大国の由来と言われておる。」


普通に王城を作るだけなら、魔道士は必要無い。ならばライムの王城には何らかの秘密があるのだろう。それを知ってしまった今、やはりルークは困難な道を進む必要がある。


「ならば尚更行かなければなりませんね。」

「気持ちは理解出来るんじゃが、あの城はちと特殊らしくての・・・通常よりも遥かに頑強な素材じゃと言われておる。ちょっとやそっとじゃ壊れんと思うぞ?」


杞憂ではないかと言いた気なカイル国王だったが、それでもルークは安心出来ない。優秀な魔道士達の粋を集めた傑作とは言え、所詮不滅など有り得ない。形がある以上、いずれは壊れるのだ。例え壊れないとしても、指を咥えて見ている訳にもいかないのである。


「だとしても、自分の目で確認するまでは安心出来ませんよ。」

「それもそうじゃの・・・」

「因みにですが、王城から街まではすぐですか?街から城なんて見えなかったんですが・・・。」


面倒を避ける為、徹底的に王城を避けていたルークは一切の知識を持ち合わせない。その為の質問だったのだが、これには予想外の答えが返って来る。


「いいや、あの国の城は特殊じゃ。街から城が見えなかったのも無理はない。王都から城までは、5つの城壁によって隔絶されておる。その城門を守護するのが5帝なのじゃよ。城門同士も離れておるからのぉ。」

「ここで出て来るのかよ・・・」



もっと違う場所にたむろしていると思っていたルークが項垂れる。面倒な場所に面倒な相手が陣取っているのだから、そうなるのも仕方がないと言えるだろう。


街まで離れているのであれば、ダンジョンが解放されても問題無いのでは?一瞬そう考えたルークであったが、すぐに首を振ってカイル国王へ相談する事を決めたのだった。

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