第152話 新たな力と新たな疑惑

一仕事終え、晴れ晴れした表情の幼女が地面に大きく開けられた穴の中から出て来る。自分達の真下から轟音と衝撃に襲われた者達は、そんな幼女に注意を向ける余裕が無い。すぐに反応出来た者と言えば、数日前に同様の体験をしたルークとルビアだけであった。


「あぁ、楽しかった〜!」

「「楽しくない!!」」


まさか連続で穴を開けるとは思っていなかった2人がツッコミを入れるが、当のドライアドにはその意味がわからないらしい。不思議そうに首を傾げるのであった。


「まさかこれ程豪快な作業とは思いませんでした。頼んだのは私ですから、責任をとるとしましょう・・・。全兵に告げます。全員直ちに帰還し住人に説明を!その後、関係各所に通達して騒動の沈静化に当たるように!!」

「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」


スフィアが兵を引き連れ帝都へと移動を開始する。その姿を眺めていると、帝都から人が飛び出して来るのが目に入って来た。まぁ、何処かからの攻撃と勘違いしたのだろう。今回はオレに非が無いという事もあり、スフィアは頭を抱えながら消えて行った。


残されたオレとルビア、そして幼女姿に戻ったドライアドが顔を見合わせる。おそらく全員の考えている事は同じだろう。この後どうしよう?と。そこでオレは、前から気になっていた事を聞いてみる事にした。


「そう言えば聞きたかったんだけど、神気って何?」

「え?神様が持つ力の事でしょ?」

「神の力?何か違うの?」


どうやらルビアにもわからないらしい。そりゃそうだ、亜神になったと言っても所詮は新米。神の力とやらについて、誰も教えてくれなかった。オレだって知らないのだから、嫁さん達に教えようがない。


「てっきりオレの魔力を吸ってると思ってたんだけど、魔力じゃないって事か?」

「う〜ん・・・魔力も貰ってるんだけど、神気も貰ってるんだよね。」

「じゃあ、私達は魔力に加えて神気も手に入れたって事ね?」

「正確にはそうじゃないかなぁ。見た感じ、お嫁さん達は今正に魔力が神気に変化してる最中だよ。」


ここまでのドライアドの説明に、オレとルビアの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。いまいち要領を得ない。聞かれた事に答えてくれるのは有り難いのだが、最後まで説明して貰えると助かるのだ。

自分達の事を教えて貰うのもどうかと思うのだが。


「なら今のルビアは、魔力と神気が混じってる状態か?」

「そうだね。元が一緒だから、ルーク様の様に意識して使い分けたりは出来ないと思う。」

「は?」

「え?」


心当たりが無かったので聞き返したところ、逆に聞き返されてしまった。初めて聞いたのだから、意識も何も無かろうに。


「ごめん、オレは神気が何なのか知らないんだ。詳しく教えてくれると助かる。」

「はぁ・・・はぁ?神様なのに知らないの!?」

「ぐっ!」


正直に言ったら貶されたんだが。まぁ、聞くは一刻の恥って言うし。見栄を張って知ったかぶりしてもいいのだが、それで後々ピンチになったら洒落にならない。ここは甘んじて受け入れよう。


「う〜ん、知ってる事はあまりないから、推測も入っちゃうけどいい?」

「構わない。何も知らないオレよりはマシだろう。実際に確かめてみれば済む事だし。」

「わかったよ。じゃあ、知ってる事を教えてあげるね!まずは・・・・・」



ドライアドの話を聞き、オレとルビアがその都度質問に答えて貰う事で様々な事がわかった。



まず、ドライアドが見る限りでは、ルビアとスフィアの魔力が3割程神気に変化していた事で『嫁達』と判断したらしい。流石に全員を集める訳にもいかないので、これは追々確認する事にした。


次に神気について。ドライアドが言うには、神気とは凝縮された魔力のようなイメージらしい。魔力よりも少ない量で同等の効果を生み出す。さらには浄化されたかの如く清らかな感じとの事。アンデッドに対しては無類の強さを発揮するだろうとの事だった。それ以上の効果についてはわからないとも言っていた。


最後に最も気になっていたオレの事。オレの場合、ルビアとは違い魔力と神気が混ざっていないらしい。言わば完全に別物。誰もが思うだろうが、完全に神気だけの方が良さそうなものである。これは、容量という概念によって齎される考え方である。当然、これについてもダメ元で聞いてみた。


「だったら半分を占める魔力を神気に変化させる事で、オレはもっと強くなるって事か?」

「何で?」

「だって神気の方が効率がいいんだろ?」

「?・・・あぁ!ルーク様の考え方は間違ってるよ。さては魔力と神気を足した合計がルーク様の持つ器の大きさだと思ったんでしょ!?」

「「違うの?」」


これにはルビアも予想外だったらしい。2人で同じ言葉を発してしまった。


「器の大きさは体の大きさじゃない。これは理解出来るよね?」

「そうね。それだと学園長の魔力量が私より多い説明が出来ない。」


ルビアは獣人にしては珍しく魔力量が多い。しかしあの変態幼女は、そんなルビアを大きく上回る間量量を誇るのだ。


「学園長ってのは知らないけど、世界って不思議な物でね〜。目には見えないけど、生きとし生ける者はそれぞれ違う大きさの器を持っているんだ。色々なキッカケで、その器は大きくなったり小さくなったり。」

「それは納得出来るな。」


理解は出来ないが納得は出来る。修行する事で魔力量は増える。何もせずに生活していれば減る。筋肉のようなものだろう。魔力に関する原理は不明だが。そういう物だと思うしかない。


「ルーク様の場合、その器が2つあるんだよ!」

「「2つ!?」」

「そう。それぞれ異なる器が1つずつ。今は魔力の方が多いけど、この先の事はわからない。とにかく別々に存在してる。今は魔力だけが表に出てるけど、注意深く意識してみたら違いがわかると思うよ?」

「そうか・・・」


ドライアドに言われ、オレは目を閉じて自分の魔力に意識を向ける。極々自然に魔力にのみ意識を向けていた事に気付き、それとは異なる力を探す。体感では数分、いや数十分だろうか。やがて、全く異なる力の存在へと辿り着く。


「・・・・・見つけた!これか!?これを魔力の代わりに・・・外へ!!!」


ーードン!!


「わっ!」

「きゃあ!」


全力で未知の力を解放した反動か、某格闘アニメのキャラクターと同じような衝撃波が巻き起こる。と言っても突風が吹いた程度の物だった為、ルビアはたなびく髪を抑えるだけで済んだ。ドライアドに関してはロングスカートという服装が災いした。捲れ上がったスカートが上半身をスッポリと覆い隠す。


「あ・・・ごめん。」

「ルーク様のエッチ!」

「次は精霊に手を出すつもりかしら?」


ルビアの視線が痛い。だがオレには幼女に興奮する趣味など無い。可愛い花柄パンツだったが、感想はそれだけだ。そんな事より神気である。


「悪いけど今は神気の事だよ!これがカレンの威圧感の正体だったんだ!!」

「確かに何となくだけど、カレンと同じ感じがするわね。」

「うん、それが神気だよ!」


それぞれ感じ方には差があるようだったが、全員が確実に神気という力を確認した。確かに凝縮という表現だろうか。魔力による身体強化の何倍もの力が漲る。そして新しい力を手に入れた場合、善悪を問わず試さずにはいられない。それが人というものである。・・・神だけど。


オレは愛刀の美桜を抜き、神気を纏わせる。そうする事によって、美桜にわかりやすい変化が起きた。


「ルーク!剣が光ってるわよ!!」

「ひょっとして、これがオリハルコンの特性なのか?」

「「オリハルコンの特性?」」


詳細は教えて貰えなかったが、以前カレンがオリハルコンは『神の金属』と呼ばれていると言っていた。単純な金属の強度であればアダマンタイトの方が勝っている。にも関わらず、カレンの武器はオリハルコンで造られている事が不思議でならなかった。


そしてカレンの剣が放つ威力とその強度。ずっと疑問に思っていたのだが、答えは神気にあったらしい。神気を通わせる事で、オリハルコンに秘められた本来の強さが発揮されるという事だろう。オレは2人にその事を伝える。


「そんな秘密があったなんて・・・。だけどこれで私達も強くなれるって事よね!」

「練習は必要だろうけど、みんなが強くなればオレも安心出来るよ。」


オレとルビアは手放しで喜びを噛み締めていたのだが、除け者にされたドライアドが爆弾を落とす。


「だけどその女神様は、どうしてルーク様に教えなかったんだろうね?」

「「っ!?」」

「まるで、ルーク様に強くなられると困るみたいだ。変なの〜。」


別にドライアドが拗ねていた訳ではない。しかし、何気ないその言葉によってオレ達が抱いていた疑惑が大きくなる。


「確かにカレンは隠し事が多過ぎるわよね。ルークが覚醒した時だって、特にアドバイスは無かったんでしょ?」

「あぁ。そう言えば、カレンがまともに稽古をつけてくれた事もないな。オリハルコンの事だって、誰かに知られた所で不都合があるとも思えない。どうせオレ達しか神気を持ってないんだし。」

「ドライアドが言うように、ルークが強くなるのは困るって事?」

「何の為に?」

「「「・・・・・。」」」


確証は無いが、確実に何かある。そう思わせるには充分と言えよう。全員の意見が一致した事で、会話が今後の方針へと変化して行く。


「今回の事は、ここだけの秘密にしましょう。一応スフィアとティナには伝えるつもりだけど。」

「いや、ティナはダメだ。ティナはカレンに逆らわない。勘付かれたら追求されるだろう。それはマズイ。」

「じゃあスフィアだけね。それで、具体的にはどうするの?」


ティナや他の嫁さん達には申し訳無いが、カレンの目的がハッキリするまでは秘密にしておこう。万が一良からぬ事を企んでいた場合、後手に回るのは致命的なのだ。それ程に戦力差は大きい。そして先手を取る為にも、まずは情報を集める必要がある。


「そうだな・・・ドライアド!神魔大戦を知る精霊に心当たりはないか?」

「ほとんどの精霊は2、300年で生まれ変わっちゃうからなぁ・・・。精霊女王様くらいじゃない?」

「「精霊女王?」」


ここに来て、またしても初めましてである。オレはともかく、元王女のルビアも知らないとは。


「私達精霊を統べる存在、かな。でも、何処にいるのかは知らない。気にした事も無かったから。」

「探して貰う事は出来るか?」

「そうだね。神々の動向は精霊にとっても他人事じゃないし、他の精霊達に聞いてみるよ!報酬は、時々魔力と神気の補充でオッケーだから。」


ニヒヒッという擬音が似合う笑みを浮かべながらドライアドが告げる。オレは無言で頷きを返してルビアに視線を移す。


「とりあえずルビアとスフィア、戻って来たらナディアも含めて神気の扱いを練習しておこう。それ以外の行動はドライアドの報告待ちって事で。」

「えぇ、わかったわ。私もスフィアと話し合ってみるから、何か新しい案が浮かんだら相談するわね。」



自分の嫁を信じられないという、浮気を疑う亭主のような状況に陥ったのだが、他に相談出来る嫁がいるというのがせめてもの救いかもしれない。針の筵とばかり思っていた一夫多妻制も満更捨てたもんじゃない、などと馬鹿な事を考えながら、ルークはこの先の展開に一抹の不安を覚えるのだった。

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