第124話 黒幕の名は

暇潰しを終えたルークが野営地点に戻ると、幸せそうな顔で座っている3人の姿があった。周囲の警戒を、と言いかけて言葉を飲み込む。この場所は現在、安全である事がわかっているのだから。


「あ!?アストルさん!ごちそうさまでした!!」

「アストルの料理、本当に美味しかった!!」

「ん。今まで食べた中で1番。」


喜んで貰えたようだったので笑顔で返す事にしたのだが、突然ユティアがレムリナを叱りつける。


「レムリナ!呼び捨てはアストルさんに失礼よ!!」

「いえいえ、同年代のようですし、皆さんも呼び捨てで構いませんよ?言葉遣いも砕けた感じで大丈夫ですし。」

「そう?ならそうする。」

「もう、シエナまで!でも折角だし、お言葉に甘えますね?アストルさんも、気軽に接して下さい。」


ユティアの提案に、オレも甘える事にした。オレの場合、長年染み付いた丁寧な言葉遣いも苦ではないのだが。


「では、折角なので・・・。所で明日の予定は?」

「はい。明日は夜明けと同時に森の探索を行い、昼前には王都を目指して出発しようと思います。」

「それなら今夜はそろそろ休んだ方がいいか。見張りはどうする?」


現在の時刻は20時頃。日本ではまだ寝るには早いと思うが、1日中動きっ放しな上、交代で見張りをする事を考えると睡眠時間は多くない。5時頃には夜が明ける事を考えると、5時間寝られれば良い方だ。


それが何も起こらなかった時の話。今夜は襲撃されるのが確定しているので、下手したら眠れない者もいるだろう。今回彼女達には囮となって貰う為、一切の説明をしない。下手に警戒されるよりも、油断して貰った方が釣り易いからだ。なので、オレは言われた通りに動く事を心掛けている。


「では、私達が順に見張りをしますので、アストルさんは明け方近くにお願いします。明日の探索は私達が頑張りますので、アストルさんは張り切らなくていいですよ?」

「ははは。それならオレは、ユティアの指示に従うよ。」


このパーティは随分とお人好しの集まりだ。だからこそ、悪人に狙われる事となるのだが。ともかくオレは、森の入り口に立つ木の根本に寄り掛かって休む事にした。




それから数時間が経過した深夜。周囲を取り巻く気配を感じ、オレは目を覚ました。彼女達に視線を向けると、どうやらユティアが見張りに就いているようだった。彼女も異変を察知したのか、しきりに周囲を伺っている。


彼女には悪いが、ギリギリまで動くつもりは無い。静かに観察していると、理解出来ない言語を唱え出した。オレの周りにいるエルフの皆さんが使わない為、耳慣れていないのだが、あれは精霊魔法だろう。


ユティアが唱え終わると同時に、静かに風が流れた。風の精霊魔法を使った探知だろう。その数秒後、慌てた様子でレムリナとシエナを起こそうとしている。だが周囲の者達がその動きを感知したらしく、あっという間に距離を詰めて来た。


「動くな!動くとあの男の命は無いぞ!!」

「アストルさん!?」


ユティアに駆け寄る男が、お決まりのセリフを叫んだ。武器を手にした5人の男がオレを取り囲んでいるのを見て、ユティアがオレの名前を叫ぶ。ここまで来れば、あとは流れに任せていいだろう。


「・・・・・何が狙いだ?」

「起きてたのか。まぁいい。オレ達の狙いは女共とお前の装備だよ。」

「ふ〜ん。彼女達をどうするつもりか聞いてもいいか?」

「あん?男が女をどうするのかって言やぁ、犯してから売り捌くに決まってんだろ!」


この状況で勘違いも無いのだが、一応確認は取れた。このまま殲滅してもいいのだが、今回はまだ確認すべき事がある。残りのメンバーも集まってて来たのが確認出来たので、あまりのんびりも出来ない。


「お前達は単なる盗賊か?それとも・・・何処かの国の狗か?」

「っ!?くっくっくっ・・・態々教える訳ねぇだろ!!」


いや、めっちゃ驚いてただろ。その反応で充分だよ。


「そうか。だったら用は無い。・・・死ね。」

「あ?」


躊躇無く5人の首を刎ね、ゆっくりとユティア達の元へと歩き出す。オレの行動を理解出来た男達が、怒りのあまり大声を上げながら襲い掛かって来る。


「「「「き、貴様ぁぁぁ!!」」」」」


4人が剣を振りかざしながら突っ込んで来るが、付き合ってやる義理も無い。こちらも一瞬で全員の首を撥ねてから、残った奴等に正体を明かす。変装を解き、名乗ってやった。


「自己紹介をしておこうか。オレの名はルーク=フォレスタニア。皇帝であるオレの目の前で犯罪とは、中々いい度胸じゃないか。」

「「「「「「「「「「皇帝(陛下)!?」」」」」」」」」」


冒険者と思われる盗賊達に混じり、ユティア達も驚きのあまり声を上げる。今更隠す必要も無いので、構わず話を進めよう。


「お前ら、冒険者だよな?誰に頼まれてこんな真似をしている?」

「じ、自分達の意志に決まって「ファイアーボール」」


ーードーン!!


怒りの余り威力を抑え損ねた火属性魔法は、魔法名に相応しくない効果を上げた。嘘をついていたと思われる冒険者を、跡形もなく吹き飛ばしてしまったのだ。まぁ結果は同じだし、細かい事は気にしない事にしよう。


「素直に白状する気が無い奴に用は無い。お前らも選べ。大人しく吐くか、苦しみながら死ぬか。逃げようとしたら殺す。嘘を吐いても殺す。わかったらさっさとしろよ?オレは気が短いんだ。」


殺気を向けながら告げると、リーダー格と思しき男が答えた。


「・・・言えば命の保証はして貰えるんだろうな?」

「あ?・・・お前、まさか取引出来る立場にあると思ってるのか?」


コイツ、あまり頭は良くないらしい。自ら黒幕がいると言っているようなものじゃないか。そして、オレとしては無理に白状して貰う必要は無い。


「お前らが言わなくても、オレは国をあげて黒幕を探し出す。その相手が何処かの国だったとしたら・・・その国を地図から消すだけだ。」


殺気を向けながら言い放つと、ユティア達を含めた全員が気絶してしまった。ちょっとやり過ぎたらしい。どうしたものかと考えていると、こちらに向かって来る集団の気配を感じた。


周囲を警戒しながら待っていると、集団から1人飛び出して向かって来る。暗くて良く見えないが、多分フィーナだろう。視線を外さずに待っていると、予想通りフィーナがオレの元へ駆け寄って来た。

フィーナは周囲を確認してから口を開く。


「・・・半数が生き残ってるなら及第点ね。2、3人しか残ってなかったらどうしようかと思ってたわ。」

「そ、そんな事するはずないじゃないか!」


あっぶね〜!もしあそこで気絶してなかったら、2〜3人残せばいいやって考えてたよ!!何故かいつもすぐにバレるから、早めに話題をすり替えるべきだろうな。



「(あの顔は、ホントに考えてたみたいね・・・)まぁいいわ。それで、そこの女性達が今回の被害者かしら?」

「え?あぁ、うん。・・・彼女達はどうしようか?(あれ?勘ぐられなかったな・・・ラッキー!)」


苦せずして話題が変わった事に戸惑いながらも、ユティア達の同行について確認してみる事にした。まさか既にバレているなどとは微塵も考えずに・・・。


「今回の件に関する証言をして欲しいって言われたから、一緒に連れ帰りましょ?」

「やっぱりそうなるのか。それなら起こしてから、馬車に乗せて貰えるように手配して来ようかな・・・。」

「あ〜、ルークが話し掛けるのは遠慮してくれる?兵達が緊張しちゃうから。」


若干言い難そうにしながらも、フィーナによって止められた。オレってそんなに威張り散らしてないと思うんだけど?


「不満そうだから説明しておくけど、連れて来た兵士の半数が新人なのよ。全然慣れてないのに皇帝に話し掛けられたらどうなるか、ルークにもわかるでしょ?」

「それはまぁ、何となく。なら皆に任せて、オレは先に帰るかな。じゃあ、悪いけどよろしくね?」

「わかったわ。」


後処理をフィーナに全て任せて一足先に城へと戻り、そのまま朝まで寝る事にした。そして翌朝、朝食を済ませて書斎で本を読んでいると、スフィアがユティア達を引き連れてやって来た。


「陛下、報告しておきたい事があります。」

「わかった。みんなも座ってよ。」


緊張した面持ちのユティア達に着席を促し、オレは全員が座るのを待って苦笑混じりに声を掛ける。


「気楽にして構わないからね?」

「で、ですが・・・」

「一応皇帝ではあるけど、一緒にパーティを組んだ仲間って事でさ?それで、何かわかったの?」


ユティア達に声を掛けてから、スフィアへと視線を移して質問する。忙しいスフィアの為にも、無駄話は控える必要があるのだ。それを理解したのか、スフィアが説明を始めた。


「近頃周辺諸国で発生していた誘拐事件ですが、ある国の依頼を受けた冒険者達の仕業である事が判明しました。そしてこの件には、冒険者ギルドの支部が関わっている事も・・・。」

「ある国ねぇ・・・。ちなみに関わってる冒険者ギルドは、王都だけなの?」

「帝国内では王都だけのようです。ミリス領に関しても、元王都のみと聞いています。他国は王都以外にも複数有りそうでしたが、そちらは各国政府が調査中です。」


いつもよりゆっくりとした口調でスフィアが説明を行う。重大案件という事もあるが、ユティア達にも理解出来るようにとの配慮であった。当のユティア達はと言うと、驚きながらも真剣な様子で聞いている。


「そう。フィーナには悪いけど、しっかりとギルド本部の目が行き届いてなかったって事かな。」

「以前から小さな悪事を働く職員もいたらしいのですが、今回の件はフィーナさんがいなくなった影響が大きいようです。」


厳しい上司が退職した事で、職員達が好き勝手し始めたのか。何処の世界でも、人間の欲望は果てしないんだろうな。おっと、スフィアに時間を取らせる訳にはいかないんだった。


「ちなみに、その国って何処なの?」

「ネザーレオとフロストルです。」

「「「「え?」」」」


聞いた事の無い国名に、思わず首を傾げる。ユティア達も知らなかったらしく、同時に声を上げた。そんなオレ達の様子に、スフィアは何も言わずに説明してくれた。


「位置的にはカイル王国の真西になるでしょうか・・・どちらも海を越えた先にある国の名です。」

「「「海!?」」」



ユティア達が驚きのあまり叫んでいた。オレも驚いたのだが、新大陸やシシル海洋王国を知っていたので、声を張り上げる程ではなかった。この大陸に住む者の多くは、海外にも陸がある事を知らない。つい最近までは、オレもその中の1人だった。情報の伝達手段が少ないのだから、それも仕方ないのだが・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る