第112話 (閑話)ナディアからの手紙

 お姉ちゃんへ


今年の私は、故郷に近いアームルグ獣王国のダンジョンに入ったよ。初心者向けのダンジョンと言われていた場所は、実は最高難易度のダンジョンだった。長年ギルドマスターとして務めたけど、身近にダンジョンなんて無かったから、全く未知の世界。それでも私には、同じ人を愛する仲間達と、大切な大切な旦那様がいる。今回もきっと、何とかなるはず。そう思ってた。


恥ずかしくて旦那様には言えないけど、私は旦那様に触れられたり撫でられたりするのが好きなの。今まで感じた事の無い気持ちばかりで戸惑う事も多いけど、やっぱり私は獣人族なんだと実感する。これは獣の本能とでも言うべきなのかしら?主人に甘えたくなるのは、どうしようもない事なのね。


時々膝枕をして貰って、頭を撫でて貰ったりする時間が好き。でも、そのせいで他の妻達に酷い目に合わされたから、今後は人目につかない場所に旦那様を引きずって行かないと。


自重?嫌よ、そんなの。旦那様の作るスイーツとナデナデだけは、絶対に我慢してあげないんだから。



話が逸れちゃったね。それでそのダンジョン、信じられない事の連続だったの。私が苦手とするアンデッドも、旦那様の加護のお陰であっさり倒せる事が判明したわ。今更ながら、あの時結婚して貰うのに必死になった自分を褒めてあげたい。


こんなガサツな私を、旦那様は嫌な顔一つせずに愛してくれる。あの時の出会いが無ければ、私は一生独身でギルドマスターを続けていたと思うもの。


あ、早速話が逸れちゃったわね。普段は恥ずかしくて隠してるけど、旦那様の事となると私は暴走しちゃうの。そうならないように気をつけてるんだけど、そのせいで冷たい性格だと思われていないといいな・・・。


そうそう、ダンジョンの話だったよね。獣王国のダンジョンには、結婚と同じ位の衝撃的な出来事があった。50年以上前に生き別れた、お姉ちゃんを見つける事が出来たんだもの。旦那様からその事を告げられた時、飛び上がる程嬉しかった。すぐに駆け付けたかった。


でも、続く言葉に私の頭は真っ白になった。お姉ちゃんが結晶化?何それ?って。普通の人が生きてく中で、そんな話を聞く事なんて無いんだもの。私は普通じゃなくなったんだけどね・・・。


そんな私も、旦那様とティナの存在によって冷静でいられたの。本当に2人には助けられてばかりね。いつか私も、この恩を返せたらと思ってるわ。あ、今はダンジョンの話よね。



ボス部屋に入ってすぐお姉ちゃんを見つけたけど、クリスタルの中にいて何の反応も示さなかった。その時は深く考えなかったけど、今思うと不安になる。もう死んでしまってるんじゃないかって・・・。でも、後で旦那様が教えてくれたんだけど、亡くなっていると鑑定魔法は反応しないみたい。


結局お姉ちゃんの状態をゆっくり観察する暇も無く、私達はボスとの戦闘に入ったんだけど・・・私はボスの攻撃に対処出来なかった。気付いたら旦那様が吹き飛ばされてて、壁に叩きつけられてたんだもの。


その瞬間悟ったわ。また旦那様に護られたんだって・・・。悔しかった。弱い自分が、護られてるだけの自分が。ボスにも遊ばれるだけだったし、ボス部屋から出るまで旦那様の怪我の度合いにも気付かなかった。


私は無力。手を伸ばせば届く距離にいたのに、お姉ちゃんを前にして何もしてあげられなかった自分自身が許せない。だから私は、クリスタルドラゴンについて調査すると宣言した。調査するなら、古代竜の元に赴かなければならないはず。竜達の住処に足を踏み入れるんだから、当然危険だって憑き纏う。


でもこれは、自分を鍛えるチャンスだと思うの。弱い自分から、護られるだけの自分から・・・旦那様を護れる強い自分になる為の。


だから待っててね、お姉ちゃん。必ず助けるから・・・そしたらちゃんと報告するね?私、素敵な人と結婚したんだよって。凄く幸せなんだよって、自慢するからね?お姉ちゃんが羨む顔が浮かぶなぁ・・・。


そうだ!お姉ちゃんも旦那様のお嫁さんになればいいんだ!!心配しなくても大丈夫だよ?旦那様の攻略法ならバッチリだもの。そしたら一緒にナデナデして貰おうね?


私が1年に1回書いてる、読んで貰えないお姉ちゃん宛の手紙。書くのもこれが最後かな。あ、お別れじゃないからね?もう書く必要は無いもの。だって次は、直接聞いて貰うんだから。



それじゃあ、またね。


                              ナディアより。

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