第104話 ダンジョン 〜40階

何事も無く、ルーク達は目を覚ます。交代で見張りをする事も無かった為、現在の時刻は不明である。初めのうちは、ティナとナディアが起きていた。しかし、ルークが土魔法で作り出した壁の厚さは相当な物であり、攻撃を受けた場合は嫌でも起きるだろうという結論に達して休む事になった。


それにルークの予想通り、階段付近に魔物が近付く様子も無かったのである。ルークがいなければ、疲れを取る事も出来ず、怪我をしていた可能性もある。2人は改めてルークという存在のありがたさを噛み締めていたのだが、この事は当の本人が知る由も無い。


食事を済ませたルーク達は、満足そうな表情を浮かべて36階へと足を踏み入れる。そこには、幅20メートルにも及ぶ回廊が湖の中を一直線に走っていた。その上を、うじゃうじゃと魔物が蠢いているのが確認出来る。強制的な戦闘階という事だろう。


「見た事の無い魔物ばかりね。ルーク、名前はわかる?」

「えぇと・・・武器を持った半魚人みたいなのがサハギン、あっちの馬がケルピー、サメに手足が生えてる・・・生物として気色悪いのがシャークマン、奥に見えるデカイ海蛇がシーサーペントだって。」

「シーサーペントですか?噂では海に棲む魔物でしたよね?」


元ギルドマスターのナディアも、水棲の魔物は見た事が無いらしく、オレの鑑定魔法を頼って来る。オレ達全員、この世界の湖や海には行った事が無い。しかし、長年冒険者として活動してきたティナは、ある程度の知識を持っているようだった。


「そうだったと思うよ?それにシャークマンも海の魔物だと思う。」

「ケルピーの話は聞いた事があるわ。でも、サメ?普通は手足が生えていないものなの?」

「普通はね。」

「無いはずの手足が生えるなんて、海は不思議な所なんですね・・・。」


すみません、ティナさん。海のせいでは無いと思います。って言うか、生えてたまるか!


「ちなみに魔物のレベルは100前後みたいだから、オレが全部倒して行くよ。2人には湖?海?兎に角、水面の警戒と倒した魔物の回収を頼みたいんだけど?」

「今のルークと同じレベルよね?大丈夫なの?」

「それなんだけど・・・ヒュドラを倒した事で、一気にレベルが上がったみたいなんだよねぇ。多分、ここはレベルが上がりやすいんだと思う。」

「では、本来の目的であるレベル上げをしようという事ですか?」


オレの提案をナディアが心配したので、ポリポリと頰を掻きながら問題無い事を告げると、ティナがオレの狙いに気付いたようだ。急いでいる為、3人掛かりで討伐した方が早いようならばオレもこんな事は言わない。しかし、この階は一本道で広過ぎる訳でもない。オレが先陣を切って進めば、魔物の攻撃はオレに集中するだろう。ティナとナディアには、のんびりと後から来て貰えばいい。


「ちなみに、今いくつなの?」

「え?・・・15さ、いっ!?ご、ごふぇんふぁふぁい(ごめんなさい)。」


オレのレベルを聞こうとしたナディアに対し、冗談で年齢を言い掛けたら思い切り両頬をつねられた。謝ったら離してくれたが、かなり痛い。以後、気をつけよう。


「だーれーがー、年齢を言えって言ったのよ!レベルよ、レ・ベ・ル!!」

「・・・・・173。ちなみにナディアは251。ティナは鑑定してないからわからないけど。」

「そ、そんなに一気に上がるの!?」

「ルーク・・・すみません。」


ナディアは驚き、ティナは申し訳無さそうに謝る。ティナは『許可を得し者』の称号を得たくないので、頑なに鑑定を拒んでいる。本人の同意も無しに、オレが勝手に鑑定する訳にもいかないからね。


「ねぇ?ちなみに、私が倒したリッチキングのレベルは?」

「え!?あ、いや〜、それは確認しなかっ・・・ごふぇんふぁふぁい。」

「ふふふ。ルークは嘘が顔や態度に出ますから、私達に隠し事は出来ませんよ?」

「マジで!?」

「マジよ。それで?」


初耳だよ!?どうりですぐにバレると思った。今度誰かに聞いてみよう。でも今は、ナディアの質問に答えるしかない。教えた後の展開が読めるので、オレは両手で頬を隠しながら答える。


「・・・300。痛いです。ナディアさん、や、やめて・・・」

「明らかに格上じゃない!なんて物と闘わせるのよ!!」


オレが頬を隠していた為、ナディアは両拳をオレのこめかみに当ててグリグリする。興奮しているせいか、本気で痛い。ここは1つ、おだてるしかあるまい。


「そんなのを一撃で倒すような人に言われ・・・本気でやめて!?」

「今、何か言ったわよね?・・・まぁいいわ。」


おだてるつもりが、つい本音を漏らしてしまった。ナディアの両腕に筋が浮かんでいたので、かなりの力が込められていたのだろう。DVだ!訴えてやる!!


「ナディアとばかりイチャイチャしてますね・・・次回の会議の議題にしましょうか。」

「ひっ!!お願いだからやめて!?」

「会議?」


ティナの呟きに、ナディアは体を硬直させ、振り向き様にやめるように言う。会議って何だ?あの怯えよう、何かあったのだろうか?


「何でもありませんよ?さぁルーク、そろそろ進みませんか?」

「?そうだね。じゃあ一気に進むから、巻き込まれないようにゆっくり付いて来て!」


会議が気になったが、あまり遊んでもいられない。ティナの提案に頷き、先を急ぐ事にした。オレはミスリル製の刀に持ち替え、雷属性の魔法を纏わせて全力で魔物に向かい駆け出す。40階のボス部屋まで同じ景色、同じ魔物だった事もあり、約半日で辿り着いてしまった。


暫くボス部屋の前で待っていると、ティナとナディアが追い付いた。ティナの表情は、満開の花を思わせる。食材を大量にゲットした事で、ご機嫌なのだろう。つられて笑顔になっている所、ナディアから魔法について尋ねられる。


「剣に纏わせた魔法は何?」

「ん?ただの雷属性だよ?」

「・・・はぁ。あのねぇ?雷属性は『ただの』なんて言わないの!誰にも使えないんだから!!」

「ここには私達しかいないですが、少しは自重した方が良いですよ?」

「あ・・・そうだったね。まぁ、お陰で一撃だったし、細かい事は後にしよう。」


ナディアだけでなく、ティナにまで窘められてしまったが、大事の前の小事という事にしておこう。細かい事を気にしてると、お肌に悪いですよ?


「ルークに自重を求めるのが間違いよね。それで?今度のボスは何?」

「オレの扱い、どんどん雑になってるよね?これでもオレ、皇帝だよね?」

「いいからボスが何なのか教えなさい!!」

「ケルベロス。・・・レベル350の。」

「「は?」」

「だから、ケルベロス!」

「そうじゃなくて、レベルよ!いくつって言ったの!?」

「350。」

「・・・・・。」

「そ、それは流石に・・・」


レベルを言わなければ頬をつねられると思い、事前に告知したのだが、ナディアは絶句し、ティナは顔を引き攣らせている。


「でも、ほら!冒険者登録した時、『レベルというのは、あくまで肉体と魔力の潜在能力を数値化した目安ですから。技術等でレベルの差は埋まります。』って言われたし。」

「そんな事を言ってた大食いエルフもいたわね・・・。」

「ルーク・・・私の言葉を覚えていて下さったのは嬉しいですが、流石にそこまでの差は・・・。」


オレの言葉を受け、ナディアがティナを半目で見ると、ティナが申し訳無さそうに呟く。気持ちはわかるが、ここまで来て引き返すつもりは無い。そろそろネタバラシといこう。


「今まで黙ってたけど、2人にはオレのレベルに応じた補正が掛かってるからね?」

「どういう事ですか?」

「オレの加護と言うか眷属扱いみたいなんだけど、ナディアを鑑定するとオレのレベルの2割が加算されてるっぽいんだよね。」

「じゃあ、私の場合は251に34上乗せされてるって事?」


読み書き算数の出来る者が少ないこの世界で、ナディアの暗算は驚異的なスピードである。流石は元ギルドマスターと言った所だろうか。しかし、前提条件を間違えている為、今回は不正解である。


「残念だけど、ちょっと違うかな?オレ、レベル206になったから。251に41を足したのがナディアのステータス。」

「じゃ、じゃあ・・・ルークがレベル500になったら、何もしてないスフィアでもレベル100になるって事!?」


何もしてないって、スフィアが可哀想じゃね?だがまぁ、ナディアの気持ちは理解出来る。嫁さんの特典だと思って納得して貰おう。


「そういう事。オレの偉大さがわかったでしょ?うむ、苦しゅうない!崇めるがよいぞ!!」

「そ、そんなのヤバイでしょ!バレたら世界中の女が押し寄せるわよ!!」

「若返るだけでも恐ろしいのですが、まさかレベルまでとなると、子供からお年寄りまでルークを求める事になりますね・・・。」


なんですとぉ!それは不味い!!何が悲しくて、ババア相手に腰を振らねばならない!?断固拒否だ。よし、新しい法律を作ろう。ババア禁止令も発令しよう。・・・ババア禁止令って何だよ?


オレって最低だな。お年寄りは敬うものだ。虐げるべきではない。まぁ、考えている分には問題無いだろう。実行しなければいいだけの話だ。それよりも、オレの思考がバレる前に話題をすり替える必要がある。幻滅される前に・・・。


「まぁ、そうなったら転移魔法で辺境の山奥にでも引っ越すよ。それより今はケルベロスだ。これ位のレベル差なら、全員で協力すれば倒せると思わない?」

「そうね・・・ルークのレベルが低いけど、ズルい雷属性の魔法があれば何とかなるかも。」

「ズルいって言わないで貰えるかなぁ?」

「いえ、それだけ驚異的な威力だと思いますよ?」


ナディアはともかく、ティナにまでチート認定されるとは思わなかった。でも、確かにズルいかもしれない。どうも、雷属性だけ威力が桁違いに高い。暇な時に検証が必要だな。


「もういいや。それじゃあ進むって事で、覚悟はいい?」

「えぇ。」

「はい。」


ティナとナディアもやる気になった事だし、決心が鈍る前にボス部屋の扉を開ける。鑑定結果が少し気になるが、言っても言わなくても進む事に変わりは無いだろう。


『ケルベロス(特大)』ってどういう意味だろうね?

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