第95話 お邪魔虫再び

翌朝、ルークはナディアと共に城内にある庭園にいた。予定していた通り、ログハウスを作る為である。ナディアが一緒なのは、ナディアのアイテムボックス内に伐採したヒノキが収納されている為だ。


「木を出して貰えれば、ナディアも好きな事してもいいからね?」

「どういう風に作るか興味があるから、飽きるまで見学してるわ。」


そう言いながらナディアは、昨日伐採したヒノキを全て庭園に並べていく。オレはその木を自分のアイテムボックスに収納する。すると、ナディアが不思議な物を見るような視線を向けてくる。


「折角私が出したのに、また仕舞うのはどうしてかしら?」

「こうすれば、力を使わなくても木の向きを変えられるでしょ?」


異世界の素晴らしさは、正にこういう点だろう。アイテムボックスは、取り出す際に位置や向きを自由に決める事が出来る。つまり、女性や子供であっても木を思い通りに積み上げる事すら可能なのだ。つまりオレは、この方法を使って1人でも家を建てる事が出来る。


ルークは一度アイテムボックスに収納した木を、加工しやすい場所に立った状態で取り出した。倒れないようにする土台等は、前日に用意してある。まずは木の皮を剥がなければならない。


ここでも異世界の素晴らしさが発揮される。魔法で空中に浮かんだルークは、並べられた木に向かって風魔法のウィンドカッターを使用する。皮だけを綺麗に取り除くと、一度アイテムボックスに収納して別の木も同様に加工する。数百本もの木がたった数分で加工されてしまったのは、ナディアにとっても驚きの光景であった。


「凄いわね・・・そんな加工の仕方があるなんて、完全に予想外だったわ。」

「まぁ、普通の人はアイテムボックスなんて持ってないからね。」


ナディアと会話しながらも、ルークは次々と作業を進めていく。必要な加工を終えるのに1時間しか掛かっていないのだが、これは前日に細部まで考えた結果である。使用する木の本数から加工する形状まで、きっちりと計算していたのだ。


そして完全に予想外だったのだが、昼食の時刻までに外部は完成してしまっていた。これは、暇そうにしていたナディアを、ルークがお菓子で釣って手伝わせたからである。


昼食を済ませたルークは、食後のデザートをナディアに振る舞った。お陰で午後の作業はルークのみである。というのも、現在のナディアはティナ状態なのだ。


「ふぉのおふぁふぃ、ふふぉふふぉいふぃーふぁ!(このお菓子、すごく美味しいわ!)」

「もう手伝いはいいから、慌てずゆっくり食べなよ?」


実はこの時、ナディアが何を言っているのか理解出来なかった。しかし、ティナの言いたい事は理解出来る手前、ナディアの言いたい事が理解出来ないとは言えない。そこでルークは、ナディアを放置する作戦に出たのだ。結果、ルークは命拾いをする。ナディアの興味は、沢山のお菓子に向いていたのだ。


呆れながらもホッとしたルークは、内装に着手する。流石に細部は手が掛かる為、全ての作業を終えたのは夕食の直前であった。嫁さん達へのお披露目の準備を済ませ、遅れて夕食を摂ったルークは、嫁さん達を連れてログハウスの前にいる。


「すご〜い!」

「可愛い!!」

「お城よりも、この家に住みたいですね。」


嫁さん達にも高評価を頂けたようだ。しかし、驚くのはまだ早い!オレが特にこだわった寝室と風呂を見たら、きっと泣けてくるだろう。


「外観よりも、風呂と寝室に力を入れたんだ。」

「そうなの?ナディアも見てないのよね?」

「え、えぇ。見てないわ。」

「・・・何してたのかしら?」


セラとシェリーの追求に、ナディアが視線を逸す。お菓子は、仕事に対する正当な報酬だった。しかし、ナディアだけが食べたという罪悪感に耐えられなかったのだろう。可哀想なので、オレは注意を逸してやる事にした。


「まぁ、そんな事よりも、早く中を見て欲しいかな!」

「私も楽しみですから、早速見に行きましょう?」


こんな時はスフィアが頼りになる。スフィアの言葉に、セラとシェリーは詮索するのをやめたようだった。皆の気が変わらないうちに、オレは嫁さん達を中へと招き入れる。


「わぁ!室内も素敵ですね!!」

「本当ですね。今度順番に、ルーク様と出掛けませんか?」

「あ、それは名案かも!」

「楽しそうだよねぇ!」


嫁さん達が楽しそうに会話しながら、目的の浴室へと向かう。さながらツアーガイドになった気分で、今回の目玉である浴室を紹介する。


「はいはい、皆注目!ここが頑張った浴室になりま〜す!!それでは、どうぞ!」

「これはどうもなのじゃ!!」


嫁さん達を見ながら勢い良く浴室の扉を開けると、中から子供の声が聞こえた。そして嫁さん達の目が点になる。事態を把握出来ていないオレは、浴室内を見る為に振り返る。そして驚きの光景が飛び込んできた。


お湯を張った浴槽の中、全裸で仁王立ちする幼女。馬鹿な!オレは夢を見ているのか!?ヤツだ、ヤツがいやがった!そしてオレは、過去最高の速度で浴室のドアを閉める。すると中から扉を叩く音が聞こえてきた。


「なぜじゃ!?なぜ閉めるのじゃ!?」

「やかましい!見たくない物には蓋をするに決まってるだろ!!」

「折角会いに来てやったというのに・・・はっ!?これはもしや、監禁?そうまでして、私を他の者に渡したくなかったのじゃな!?」

「ふざけんな!そのまま誰の物にもならずに朽ち果てろ!!」




「ねぇ、今の・・・学園長よね?」

「リノア、今のは邪悪な精霊だよ?」

「最近姿を見掛けないと思っていたのですが・・・」

「クレア、学園長は、世界の為に消えて無くなったんだよ?」

「ひょっとして、わざわざルーク様に・・・」

「エミリア、それ以上は言っちゃ駄目だからね?ね?」


学生組が寝言を言い始めたので、先に寝室を案内するとしよう。念の為、浴室のドアの前に余った木材を積み重ねて、ドアが開かないようにする。


「・・・先に寝室に行こうか?」

「「「「「「「「「「はい。」」」」」」」」」」


全員が納得してくれたようなので、オレは2階にある寝室へと先導する。寝室のドアの前に立ち、気を取り直してお披露目する。


「え〜、こちらが冒険の疲れを癒やす為に趣向を凝らした主寝室になります。それでは、どうぞ!」

「どうも・・・」

「お前もか!」


今回は警戒の為、オレも寝室内を確認した。ベッドの上には、スケスケな寝間着姿の事務長が正座していた。とても良い物を見せて頂きました。素晴らしいの一言です。しかし、じっくりと観察する前に冷たい視線を感じて振り返る。


「ねぇ、ルーク?あの方は、新しい妻という事ですか?」

「え?ち、違うと思います。」

「「「「「「「「「「思います?」」」」」」」」」」

「い、いや、それよりも、何で事務長までいるの!?」


スフィアの質問に対する失言を取り繕うよりも、話題を変える方が効果的と判断した。多分、何を言っても無駄だ。


「ルーク様が休学されてしまい、寂しくなった私は学園長に相談しました。すると学園長が「じゃあ遊びに行こう」と言い出したので、付いて来た次第です。」

「まともな説明に聞こえるけど、意味わからないからね?」

「今回私は、ルーク様のお側に置いて頂く為に参りました。学園を辞める覚悟もあります!どうか、私をお側に置いては頂けないでしょうか!?」

「いや、急にそんな事言われてもねぇ?皆からも、何か言ってあげてよ?」


この状況で、オレが不用意に発言するのは危険である。こんな時こそ伝家の宝刀『他人任せ』だろう。しかしこれは、オレの意図する効果を発揮しない場合がほとんどである。当然今回も。


「別にいいんじゃない?」

「そうですね。ダークエルフの妻はおりませんし、私も構いませんよ?それに、優秀な方のようですし。国政が捗りそうですから、むしろ歓迎します!」

「反対の人は?・・・・・じゃあ決まりね!」

「いやいやナディアさん、それはおかしいでしょ!オレの気持ちは?」


ホント、これ以上嫁さんを増やさないで下さい!欲望は無限かもしれないけど、オレとジョンの精神力と体力は有限なのだ。


「あら、ルークは何が不満なの?」

「・・・妻が増える事。」

「それは諦めて下さい。私達は、全ての種族から複数人の妻を迎え入れると決めました。」

「いや、ティナ!?それでいいの?とんでもない数になるよ!?」

「はい。承知の上です。」


愕然としていると、後ろの方からヤツの声が聞こえてきた。


「ならば私も妻にして欲しいのじゃ!ユーナと私はセットじゃ!!」

「お前は服を着ろ!」

「残念ですが・・・その容姿では難しいですね。」

「あれ!?無視なの!?」


無視されたが、まぁいいだろう。断ってくれたし。ふっふっふっ、学園長よ!オレの嫁に変態はいらんのだ!!


「容姿の問題ならば・・・これでどうじゃ!?」

「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」


学園長が魔力を高め、大人の姿となる。そして、その姿を目にした嫁さん達が驚きの声をあげた。うむ!眼福です!!学園長の素晴らしい肉体を瞳に焼き付けていると、ナディアから声を掛けられる。視線を移すと、ナディアの視線は冷たさで出来ていた。


「ねぇ、ルーク?随分と熱心に観察してるみたいだけど、何か言いたい事は?」

「え?えぇと・・・その姿はどれくらい保っていられるの?」

「3分じゃな!!」

「「「「「「「「「「短っ!!」」」」」」」」」」


おバカの発言で、オレのお仕置きは消えたようだった。不本意だが、グッジョブです!しかし3分って、ウル○ラ○ンかよ!!


「今はこれが限界なのじゃ・・・。」

「流石に3分では、皇帝の妻としての努めを果たす事は難しいでしょうね。」

「むむむ・・・この特異体質の治療法を見つければ良いのじゃな!?ならば、ルークと共に冒険するぞ!」

「どうしてそうなる!?」

「ルークと共に色々な場所に行けば、治療法が見つかる気がするのじゃ!」

「ただの勘じゃねぇか!!」


不味い、この流れは不味い。おそらく次の展開は、誰かが妥協案を提示するはず。オレが考えるべきは拒絶か?それとも冷静な指摘か?しかし、切れ者と評判の嫁さん達は、オレに考える時間を与えてはくれない。


「ねぇ?このまま言い合っていても解決しそうにないし、連れて行けばいいんじゃない?」

「私もリビアに賛成。ダンジョンの宝箱から治療薬が見つかるかもしれないし。」

「あのねぇ、フィーナ?そんな都合よく見つかるはずがないでしょ?」

「わかりました。3人がそう言うのであれば、学園長の同行を認めましょう。」

「オレの意見は!?」

「礼を言うのじゃ。これからよろしく頼むぞ!」


徹底して無視ですか。もういいですよ。それに、嬉しそうな学園長を見て、これ以上反論する気が失せてしまった。だが、最後に確認しておかなければならない。


「ところでさぁ?魔力を高めると大人になって服が破れるでしょ?戦う時どうすんの?」

「・・・・・あ!」


やっぱりおバカキャラは健在でした。

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