第28話 入国手続き

2人と別れたオレは今、ミリス公国の国境にある門の前にいる。ミリス公国は帝国と隣接している関係で、国の外周を壁で囲っている。仕方ないとは思うが、とんでもない光景だ。


入国手続きの列に並んでいたのだが、壁に圧倒されているうちにオレの番となったようだ。

女性の衛兵に声を掛けられた。が、どうも様子がおかしい。


「次の方どう・・・・・ほわ~。」

「あ、すみません。見事な防壁に見とれてしまいました。」

「え?あぁ、そうですね・・・。」

「どうかしましたか?」

「「「「「はうっ!?」」」」」


恥ずかしかったので、照れ隠しに微笑みながら言い訳したのだが、全員真っ赤になって固まってしまった。やっぱりオレの格好って変なんだろうか?


「あの、それで入国したいのですが・・・。」

「はっ!すみません、見惚れて、あ、いや、何でもありません!入国ですね!?すみませんが、あちらの詰所まで来て頂けないでしょうか?」

「え!?オレ、何か問題でもありますか?・・・いえ、わかりました。」


そんなに怪しい服装なのかよ・・・2人には何も言われなかったけどなぁ。あまり目立ちたくないし、ここは素直に従っておこう。


「それではこちらへどうぞ。」

対応してくれていた女性とは別の女性が案内を申し出たのだが、他の女性達と小声で揉め始めた。


「ちょっと!どうして貴女が案内するのよ!!」

「そうよ!私が応対してたのに!」

「抜け駆けは許さないんだから!!」

「あんな美少年、私だってお近づきになりたいわよ!」

「それなら・・・くじで決めましょう!」


いきなりくじ引きを始めた。何なの?まさかくじにオレの罪状とか書いてないよね!?とか考えているうちに、当たりを引いたっぽい女性が近付いて来た。この人は、最初に応対してくれた女性だ。


「失礼しました!それでは私の後に付いて来て下さい。」

「は、はぁ。」


こうして詰所へと連れて来られたオレは、女性騎士の集団に囲まれながら椅子に座っている。『女性騎士団って本当にあるんだ』と思い全員の顔を見回すと、全員顔を赤く染めて俯いてしまった。


「すまない!待たせてしまっ・・・なっ!?そ、そんな!?」

「あ、団長!来るのが早過ぎます!!」


凄い美人が近付いて来たと思ったら、騎士団長なんだ。凄く驚かれたけど、オレの格好はそんなに変ですか?傷付きます。いや、それより騎士さん、待たされてるのはオレなんですけど?


「いや、あまり待たせてしまうのは失礼じゃないか?」

「そうですけど、我々だってもっと目の保養を、あ、いえ、何でもないです。」


オレの冷ややかな視線に気が付いたのか、女騎士さんは慌ててごまかそうとしていた。そんな事はどうでもいい。とにかく連れて来られた理由が知りたい。


「お取込み中のところすみません。そろそろ状況を説明して頂きたいのですが。」

「あぁ、すみません。あ!自己紹介がまだでしたね。私はミリス公国女王近衛騎士団長のセラ=オルブレインと申します。」

「私は新人冒険者のルークと申します。これが身分証明です。」


自己紹介をしながら、ギルドカードを手渡すと、またしても驚かれた。


「ランクS!?新人のランクSと言うと、噂の冒険者か!?」


「嘘!?前代未聞の登録時にランクSの冒険者!?」

「どんなゴリラかと思ってたのに、こんなにカッコイイ人だったの!?」

「ルーク様とおっしゃるのですね・・・」


色々と言われ始めたが、無視しよう。ちょっと気になったので、団長さんに確認だ。

「噂ですか?」

「え?あ、あぁ・・・君の事は世界中で噂になっていますよ。普通はランクSまで登り詰めるのに10年以上はかかります。それがいきなりですからね。」

「そうですか。あまり目立ちたくないんだけどな・・・。それよりも、ここに連れて来られた理由をお伺いしても?あと、近衛騎士団がここにいるのは普通なんですか?」


嫌な予感がするので、確認しなければならない。そう、『女王』近衛騎士団なのだ。普通は近くに居るものだろう。


「ここに来て頂いたのは、単にお話を伺う為です。我々がここにいるのは、訓練の一環ですね。」

「そうですか。何か問題でもあったのかと不安だったのですが、安心しました。それで、話とは?」

「え~と、ルーク様は、その、お、お付き合いされている方はいらっしゃいますか?それと、どういった女性が好みでしょうか?」

「・・・はい?」


今、何て言いやがった?耳は悪くなってないはずだ。だとすると、まるでお見合いみたいな質問だったよな?


「で、ですから・・・恋人はいらっしゃいますか?好みの女性は?わ、私はどうでしょうか!?」

「あぁぁぁ!団長ズルい!!」

「私も狙ってたのにぃぃぃ!」

「抜け駆け禁止です!!」


ついていけずにいたら、騎士団内で言い争いが始まった。なんじゃこりゃ?この国はヤバい気がする。とにかくこの場を収めて、逃走するのが良さそうだ。


「すみません、質問の答えですけど・・・婚約者が2人おります。」

「「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」」」」」」

「と、当然よね。」

「でも、ランクSって貴族と同等よね?」

「そうよ!側室が何人いても問題無いわ!」


ここまでくると、オレにもわかる。オレ、狙われてるわ。ティナとナディアの心配してた理由もようやく理解出来た。何とか逃げられる作戦を考えないと。

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