第127話 ウラン爆弾の行方
剣での戦いになると、アシュクの剣術はさすがに凄い。
二刀流で、次から次に襲い掛かる敵を倒していく。
そうでなくとも、親衛隊であるゴウの部隊の隊員は剣の扱いに優れているため、剣術では相手に勝ち目はない。
それほど時間も掛からずに、相手を拘束した。だが、その中にナルディ・キロルはいない。
「ナルディ・キロルはどこへ行った?」
「さあ?知っていても、成りあがり者の、お主たちに話す我々ではないわ」
「では、お前の名は」
「私はソリル・ル・カレントである」
ワンレインでは伯爵家には「ル」が入る。と、いうことは、カレント伯爵家ということだろう。
「では、伯爵、あなた方は自分たちが何をしようとしていたのか、お分かりですか?」
「もちろん、知っている。憎きキバヤシ帝国を倒し、秩序と品格を持った王国を建てるのだ」
「それで?」
「それでとは?」
「いや、王国を建てた後はどうするのですか?」
「無論、ワンレイン王を王として我々がその周囲を纏める」
「ワンレイン王とジルコール将軍はキバヤシに抵抗せずに王国を併合すると申し出た。それは筋が違うと思うが」
「そんなのは、キバヤシに騙されたのだ。そうでなければ、武力で脅されたに違いない」
「だが、併合評定の席には、あなた方貴族も出席していたはず。その時、どうして反対しなかったのですか?」
「ジルコールが押し切ったのだ。確かに、我々もその時は『そうかなと』と、思った。だが、良く々々考えてみると、併合となればワンレインは無くなってしまう。そうなると、貴族も無くなってしまう。
実際、先に併合された国では、残った貴族は足蹴にされているという事だった」
「それで自分たちの身の危険を感じた貴族連合が反旗を翻したと、そういうストーリーで良いでしょうか?」
「そうだ、疑念を持っていた我々を纏めたのがナルディ・キロルだった。第一、キロル家は貴族の中でも、国王に次ぐ威光がある。
ナルディが言うには、今の武力では戦っても勝ち目はない。まずは、キバヤシの懐に入り、その中枢で武力を盗み、その武力を持って対立するというのだった。
その期間に10年は要するだろうから、その間に力を蓄えようという事だ」
「しかし、結果的に、あなたたちはナルディに騙された」
「騙されてはいない!」
「騙されたでしょう。その証拠に、ここにナルディはいない。我々の捜査では、ナルディはウラン爆弾を持って、どこかへ雲隠れしている」
「そんな事はない。ナルディはこのままだと、本隊の行動が察知される可能性があるから、自分が囮になると言って別れたのだ」
「現在、ナルディの居所は我々も掴んでいない。どう見ても囮にされたのは、あなたたちだ」
「嘘だ。その証拠にウラン爆弾は我々が持っている」
「何?それはどこにある?」
「あの車の中だ」
ソリルが1台の車を指差した。
直ちに放射線防護対策をした隊員が、その車を開放して中を調べる。
「どうだ、何かあったか?」
隊員のつけた防護マスクに装着されたトランシーバで聞いてみる。
「ウラン爆弾らしき物はありません。あるのは高線量放射性廃棄物HLWだけです」
その会話をソリルにも聞かせる。
「う、嘘だ!!」
「どうやら、利用されたのは、あなたたちの方だな。体良くゴミと一緒に廃棄という事か。
そして、俺たちが被ばくしてくれれば、一石二鳥という事だったのだろう。
それで、あなたたちが捨てられた事が分かったところで、ナルディの行先に心当たりはないか?」
「……」
「まだ、自分たちが利用された事に気付かないのか?」
何か、様子が変だ。
「エリス」
俺がエリスに言うと、エリスがソリルに手を翳した。
「死んでいるわ。死因は心臓麻痺。元々、心臓が弱かったところに今回の事でショックを受けたのでしょうね」
「他にナルディの居場所を知っている人物がいないか聞き出せ」
すると一人の召使いらしき男が声を上げた。
「ナルディの行先を知っているか?」
「しっかりと聞いた訳ではありません。あれは、ナルディさまのところへお茶をお出しした時、扉をノックする前に中から話し声がして、旧王都へ向かうと言っていました。
しかし、キバヤシの探索をはぐらかす為には、囮が必要だとも。私は、自分たちが囮にされるのではないかと心配でしたが、ナルディさまと別れてから、そうだったんだと思って、ソリルさまにも言ったのですが、信じて貰えませんでした」
その召使いの言葉を聞いたクラウディアが直ちに、セントラルシティに連絡をする。今頃は旧王都への道は封鎖が進んでいる頃だろう。
「それと、旧ワンレイン国出身者で中枢に居る官僚や議員を一時、拘束するんだ」
この話は直ちに宰相に伝えられ、ワンレイン国出身で軍人や官僚は家に軟禁される事になった。
それだけでなく、ナルディに従った人物の特定も進んでいるが、既に10人ほどの身元が不明になっている。
その中には、ナルディの妹2人も居るが、兄は未だに旧ワンレイン国で、小さくなった領土で旧貴族として過ごしているという事だ。
そして、下の弟も行方不明になっている。この弟もナルディに従っている可能性が高い。ナルディはどうやら兄より弟や妹たちを大事にしていたようだ。
「そうなると、ナルディに従っているのは何人ぐらいなんだろう?」
「10名もいないでしょう」
俺の疑問にゴウが答えた。
「すると、車2台といったところか?」
「はい、現在、不審な車2台を探索中です」
相変わらず、サン・イルミド海峡を越えたという情報は入ってこない。そうなると、サン・イルミド海峡のこちら側に居るのか、それとも、海峡を渡って、既に旧王都に向かっているのか、不明のままだ。
ナルディたちの居場所は分からないが、夜空には満点の星が輝いている。今頃、ナルディもこの星を見ているのだろうか?
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