第23話 クロコダイルアーミー
翌日、森を抜け、戦場となる平原に到着する。
だが、敵は既に到着し、草原の北側に陣を張っていた。
そうなると、こちらは平原の南側に陣を張る事になるが、南側には例の湿地があり、その湿地には魔物のクロコダイルアーミーが生息している。
数の上ではこちらが上だが、戦いで攻め込まれると逃げ場がない。
「まずいな、何か策があると思うが、下手をすると負けるぞ」
俺が3D-GPSで陣地を確認しながら言う。
「たしかに、旦那さまの言う通りです。特に後ろに生息しているクロコダイルアーミーが不気味です。
一度、怒らせると手に負えなくなると言うほど狂暴らしいですし」
ラピスが同意したように言う。
そのラピスの発言を他の嫁も聞いている。
「恐らく相手は、クロコダイルアーミーを何かの手段を使って煽り立て、こちらに向かわせようとするだろうな。
その手段が思いつかない」
「火魔法で追い立てるというのは?」
それを言ったのはミュだ。
「だめね、クロコダイルアーミーは火にもある程度の耐性があるわ。ミュぐらいのファイヤーボールならまだしも、人間のファイヤーボール程度だったらその厚い皮で弾くわ」
「で、では、水魔法で…」
今度はマリンだ。
「湿地の範囲を広げる事が出来れば、クロコダイルアーミーの生息範囲が広がるけど、それはマリンほどの水魔法使いが居ればの話。これも人間の魔法では無理なことね」
「風魔法や土魔法でも?」
「人間の起こす風魔法なんてたかが知れているわ。四つん這いのクロコダイルアーミーなんて、屁とも感じないはずよ。
土魔法も同じ」
エリス、お前は神なんだから、屁なんて言うなよ。
その日は、お互い陣を向けあったまま対峙した。
夜、外に出ると夜空は星が煌めいている。これなら明日も晴れるだろう。
晴れるという事は、朝方は濃霧になる可能性が高い。
そこに相手方の作戦もあるのかもしれない。
朝、起きて、ノンデイル将軍の陣地に行ってみると、既に将軍は起きていた。
副将のモークレア将軍も居る。
「いよいよ決戦ですね」
「ああ、だが、まだ霧は晴れていない。霧はいろんな音を消してくれるので、決戦前の静けさといった感じで物音一つしない」
たしかに、我々がこちらに来る時も音はしなかった。
その静けさが逆に恐怖を煽る。
静けさを破って、兵士が走り込んできた。
「た、大変です。我々の南から兵士が突入して来ました」
「何?南から突入だと、北からではないのか」
「いえ、南からです。ですが、人数は多くなく、このまま撃退出来そうです」
「よし、直ちに対処しろ」
ノンデイル将軍が指示をする。
その伝令の言葉を聞いて俺はハッとした。
我々は湿地のかなりぎりぎりの所に陣を敷いた。これより南はそれこそ湿地の中を行かなければならないが、そこには例のクロコダイルアーミーがいる。
つまり、突入して来た兵士はクロコダイルアーミーの中を突破してきたというのだ。
当然ある程度、クロコダイルアーミーの餌となっているだろうし、しかも人数が減るので、不意を突いたとしても、この突入は絶対成功しない。
なのに何故、突入してきたか?
「将軍、今のうちに軍を北上させましょう。そうでなければ我々は、クロコダイルアーミーと対峙しなければなりません」
「シンヤ殿、どういう事だ?」
「突入してきた兵士たちは動く餌なのです。あの場所に兵士を突入させると、クロコダイルアーミーがいるため、兵士たちは当然逃げます。それは北の乾いた方へ逃げるのは心理的に当たり前です。
だが、そこには我々がいる。クロコダイルアーミーと我々に挟まれた兵士はどういう選択をするでしょうか?
クロコダイルアーミーよりは我々を相手にする方が簡単と思うでしょう。
ですが、クロコダイルアーミーは兵士たちの臭いを嗅いでおり、兵士たちを追って我々の陣へ向かって来ます」
そこまで、聞いたノンデイル将軍の指示は速かった。
「直ちに、全軍北上せよ。いいか、直ちにだ。荷物があっても捨てておけれ。武器だけ持って直ちに北上するんだ」
ノンデイル将軍のいつにない慌てぶりに伝令や参謀も驚いているが、直ぐに各隊に伝えるために散っていった。
「ノンデイル将軍、殿は我々が努めましょう。将軍はお逃げ下さい」
「いや、私も残る。モークレア将軍、軍の指揮を任せる。全軍で相手方に当たってくれ」
ノンデイル将軍と俺と嫁たちの7人が残った。
その頃には霧も晴れてきて、だんだんとこの地域の様子が分かってきた。
俺たちから100mぐらい先に兵士の身体に噛み付き、食っているでかい鰐がいる。
あれがクロコダイルアーミーだ。初めてまじかに見るが、もの凄く怖い。
だが、それは1匹だけではなかった。その後ろに3、6、12匹も居る。
「見える範囲で12匹か」
「その後ろにも、もっと居そうですね」
ラピスが言うが、恐らくそれは外れてはいないだろう。
「シンヤ殿、あの先頭に居るヤツ、私が貰う」
ノンデイル将軍はそう言うと、先頭のクロコダイルアーミーに剣を振りかざして、突っ込むが、青銅の剣では相手にもならない。
だが、身体能力は高いので、クロコダイルアーミーの攻撃をどうにか躱しているものの、それも時間の問題だろう。
「ミュ、ノンデイル将軍を助けろ」
俺の言葉にミュが飛び出ると、クロコダイルアーミーの前で大きく飛び上がり、脳天からオリハルコンの剣を突き刺した。
すると、クロコダイルアーミーの頭が蒸発してなくなり、クロコダイルアーミーは動かなくなった。
ノンデイル将軍が戻ってきた。
「そ、その剣は…」
「これはミュだけが使える剣です。他の人が持った瞬間に手が蒸発します」
「そ、そうか」
ノンデイル将軍は残念そうに言った。
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