由莉とえりかの救出作戦
「準備はいい? えりかちゃん」
「うんっ、ばっちりだよ」
えりかが由莉から聞かされた作戦は単純だった。
「いた〜探したよ〜」
「どこ行ってたのか心配してたんだよー」
まず、場の緊迫した雰囲気をぶったぎるように、わざと音を立てながら由莉とえりかはその女の子の側へと寄る。
友達を探す健気な少女二人組を男達は下心満載にしながらその二人を女の子の方へと通した。
「っ!? ―――ふぐっ」
「会いたかったよ〜!」
「迷子になっちゃうんだから大変だったんだよ〜」
その女の子は二人の事を見てびっくりしていたが、怪しまれよう口を抑えるように二人とも飛びついた。
(しずかに、ね? あなたをここから助けるから出来れば大人しくしてて?)
(お願い、ついてきてくれる?)
耳を擦るように聞こえてきた二人の声に女の子も恐る恐る首を縦に振った。それを見た由莉とえりかは安心して微笑んだ。
「さて、帰ろっか? 皆んなも心配してるよ」
「皆んな探してるから早くいこ?」
そう言ってその女の子の手を引っ張るがその前に男達が立ちふさがった。
「おいおい、どこ行くんだいお嬢さんたち?」
「お兄さんたちといい事しようぜ?」
逃げ場を作らないように囲み、一石二鳥……いや、一石三鳥だと男達はにやけていたが、それも気にしないように、あくまで不思議そうに由莉はその男達に聞いてみた。
「お兄さんたち、私たちをどうするんですか?」
「んなこと、ガキが知らなくていいんだよ。おい、お前ら、こいつらも連れてく―――」
何もかも由莉の計算通りだった。完全に油断している近くの男二人の懐へ由莉とえりかは速度0から最速で突っ込むと―――
「さような……」
「さような……」
突き上げるように顎へのアッパーを繰り出していた。
「らぁっ!」
「らっ!」
完全な不意打ち、油断の合間を蜘蛛のように縫い蜂のような鋭い一撃に男二人は脳震盪を起こし、その場でぶっ倒された。一瞬何が起こったのか状況が掴めない残りの三人を置いていくように由莉はその女の子の猿ぐつわを外して、おぶると一気に走った。
「ゆりちゃん、上手くいったねっ」
「うん……だけど、まだ気は抜けないよ、えりかちゃん。もしあの人たちが追いかけてきたら……えりかちゃんにこの子を任せるけど……いい?」
未だにこの判断が最適だと言うことを少し申し訳なく思う由莉だったが、えりかはそんなことない、と目で語った。
「うんっ、まかせて?」
「ふふっ、そう言ってくれると心強いよ」
「え、えーっと……二人とも……?」
ただえさえ、男達に誘拐されどんな目に会うか不安だったのに、突然、自分よりも背の小さい少女におぶられて林の中を駆け抜けている今の状況に混乱するしかなかった。
「ごめんね、とりあえず落ち着いたら色々話すから……今は信じて?」
「う、うん……」
男達と2人の女の子、どちらを信じろと言われればどちらを選ぶまでもなかった。
「ありがとっ……って、やっぱり来ちゃったね……えりかちゃん、お願い出来る?」
「ゆりちゃん、危なかったら逃げてね?」
後ろを振り返ると、男3人が顔を真っ赤にしながら追いかけてくるのが見えた由莉は女の子を下ろしえりかに任せると、2人の行き先を守るように立ちふさがった。
「大丈夫だよ、えりかちゃん。さっ、行って!」
「分かった!」
由莉の後ろ姿を見たえりかも同じように背中を向け、その子を連れて駆け出した。
(さて……あとはあの男達を暫く足止めすれば私たちの勝ちかな)
「クソガキどもがぁ!」
「大人を舐めるんじゃねぇ!」
「ぶっ殺すぞ、おらぁ!」
男達は顔を真っ赤にして由莉に迫っていた。その内一人は鉄パイプを持ちながら―――
……が、由莉は至って平然としていた。いや、怒りが強すぎてむしろ冷静になっていた。
「殺す? 笑わせないでよ」
鉄パイプを持った男がいきなり由莉に襲いかかる。大きく振りかぶり頭に振り下ろそうとする。
(……おっそい)
それを最小限の動きで交わすと男の手に思いっきり蹴りを入れる。下駄の角で蹴られた男は思わず鉄パイプを落としてしまう。それを由莉は床に落ちる前に手に取った。
「よっと……」
「このガキがぁ……っ!」
「あのさ、一つ言っておくね」
睨む男を踏み潰すように由莉は今の今まで隠していた殺気を全開で振りまいた。
「殺したこともない人がさ……気軽に殺すなんて言うな」
「な…………っ」
鉄パイプという武器を持った今、由莉は目の前の男達を殺したいと一瞬思ってしまったが、自分の今の役目を省み思いとどまった。
(私の役割はこの男達を足止めして少しでもえりかちゃん達を逃がす時間を作ること。この男達を殺すことじゃない)
「それで、どうする? もう素手になっちゃったけど……まだやる?」
「チッ、ガキの分際で生意気なんだ―――」
「じゃあ、やろっか」
不敵な笑みを零しながら由莉は振り返りながら鉄パイプを後方遥か遠くへと投げ飛ばした。
「やるなら対等に、ね?」
お前ら如きを倒すのに武器を持つまでもない、そう嘲笑うような由莉の仕草に男達は両腕を激しく震わせた。
完全に、由莉の手のひらで踊らされているとも気付かず―――
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