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「地球滅亡…」鮫川の頭には、あの記憶が途切れる寸前の絶望的な光景が徐々に、鮮明に蘇っていた。「あの生活は全くの偽物だったのか…」


「東京はまだマシな方だったわ」星野が同情的な目で鮫川を見つめた。「ワシントンやモスクワはもう砂漠だそうよ。アマゾンやカナダの植物密生地は砂より細かい灰ばかりらしいし…」


「君達はスィキーダ人に復讐しようと考えているのか?」鮫川は尋ねた。


「まさか」大貫があざ笑うように言った。「勝ち目のある相手じゃない。捕まらないように逃げるだけだよ」

「銃があるじゃないか」

「ああ、これか」大貫はベルトに刺した拳銃を引き抜いて鮫川に放った。「オモチャだよ。何の殺傷力もない」


 鮫川は拳銃を受け取ると、マガジンをイジェクトした。マガジンの先には銀色の真ん丸いベアリングが積められていた。

「エアーガンか…」鮫川は呟いた。

「こけ脅しさ。改造してパワーアップしてるから人間には効くけど、スカロイドには効かん」大貫がむっつりとして言った。「そりゃ、俺達だって奴らに一泡吹かせてぇって思ってるさ。だけど、持ってる武器っちゃ、小さなナイフや包丁、鉄パイプ、そんなもんだ。これじゃ、奴らの武器にゃ敵わん」


 鮫川は檻の中のクマのようにウロウロと落ち着きなくうろつき回った。


「日本で銃器を手に入れるのは殆ど不可能さ」猿顔の男が妙に真剣な顔で言った。黒い革のエプロンを着たワンピースの女が彼に近づき、彼の肩に慈悲深く両手を置いた。

「俺達はスカロイドに捕まるのをじっと待ってるしか無いのさ」大貫が言った。

「奴らに殺されるのをじっと待つだけ?」鮫川は尋ねた。

「奴らは殺しゃしない。貴重な奴隷を自ら壊したりゃしない。再洗脳して、また偽の社会に戻すだけだ」大貫が言った。


「えっ?殺されたり収監されたりしないの?」鮫川は警備員が発砲した、あのスター・ウォーズかスタートレックに出てきそうな、いや、それよりも陳腐なデザインのを思い出した。

「絶対にそんなことないわ。貴重なだもの。あたしらは」星野が両手を腰に置いた。「でも、真実を奪われて生かされる方が殺されるより辛いわ」


「ここにいる皆はそんな人ばかりなんだ」加山が一歩進み出た。「他のコミューンの人達も一緒だと思う」

「他にもこういうコミューンがあるんですか!?」

「世界中にあるだろう」大貫が呟くように言った。

「少なくともここから半径二十キロ以内に三ヶ所のコミューンがあるわ。無線で話したことがあるの」黒いエプロンの女が言った。

「実際に会ったことはないけどね」と星野。


 鮫川は考えた。これからどうしようと。彼らと共にここで隠れ住むのか?ずっと隠れて生きていくのか?何もせずに…。そんなのは嫌だ。では、どうしたらいいのだろう?


「これからどうする?」大貫が鮫川の心を読み取ったように尋ねた。「ここで俺達と一緒にやっていきたいかね?それとも出て行くかね。一人でやっていくか、他のコミューンに行くか…」


 鮫川は床を見つめ、じっと考えた。


「相模原には自衛隊の武器を沢山見つけて、持っているというコミューンがあるわ」星野が言った。

「やめろ!」大貫が叫んだ。「奴らの罠に決まってる!」

「どういうことだ?」鮫川は尋ねた。

「相模原の人達が自衛隊の保管武器を見つけて、地下深くのシェルターに住んでるそうなの。第二次大戦中に掘られて今まで見つかってなかった深い地下壕に住んでるって…。無線で彼らと偶然話が出来て…」


 星野の会話を立ち切るように大貫が叫んだ。

「スカロイドの罠に決まってる!」大貫は声を荒げた。

「そうだ!」猿顔の男が加勢した。「スィキーダ人は俺達と思考パターンも心理構成も全く違って、俺達の考え方や行動パターンは全く読めないけど、スカロイドは俺達と同じように考えるように作られてるんだ。年々、学習していって、最近はかなりずる賢くなってるんだ」

「相模原の奴らは罠だ。俺達を誘き寄せるためのな…」大貫が鋭い目で鮫川を睨んだ。

「罠じゃなかったら?」鮫川は俯いたまま誰にともなく尋ねた。「本当に仲間がいたら、君達は合流するのか?」


 大貫達は顔を見合わせた。彼等の間で戸惑いが漂っていた。


「少人数より、少しでも多い人数で助け合ったほうがいいんじゃないのか?」

 こんな錆だらけの廃れた地下で生きのは鮫川には考えられらなかった。第一、食料や水がどれほど確保できるのだろう?



 大貫達は沈黙していた。


「それはそうだが…」加山が重い口を漸く開いた。


「俺が行って確かめてみよう」鮫川が言った。「人間に変装したスカロイドを見分けられるかどうか分からないけど、できるだけのことはやってみる。俺が見聞きしたことが本当に真実なのかみんなで考えてみてくれないか?」





 to be continued

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