鬼退治は上品にしたかったのに!
「じゃあ、やるよ。で、これかけてね」
「何、このサングラス?」
「ポジト。それが鬼を見分けるツールだ。ほら」
さて、装着っ、と。
ぼんやりとしか見えなかった鬼がくっきり見えてきた。
あれ?
「おい、ウッチー、見たか?」
「うん。見た見た。ポジトくんは?」
「うん。見えた」
わたしたちは声を揃える。
「担任が鬼とは!」
その
「はい、みんな。勉強とかスポーツとか努力してない奴はみんなに迷惑かけてんだからな。いじめられても仕方ないぞー。ところでこのクラスに基本的人権のない奴はいるかー?」
「いるー」
「そうかー。困ったなー。でも努力してない奴はしょうがないよなー」
うっわ。なんて浅い担任。
人間の機微だとか物事の真実だとか一切理解してない薄っぺらな
まあ、鬼だからしょうがないか。
「どうする? ウッチー」
「どうするもこうするも、退治するしかないでしょ」
「ちょっと待ってよ2人とも。要はポジ・シンを給食の鍋に注げばいいんでしょ? 担任なんかほっといてさっさと給食室に行こうよ」
「そうはいかないのよ、ポジトくん。鬼は瞬時に移動できるから。教室から給食室に来られたらひとたまりもないでしょ?」
「そっか・・・・・で、担任以外の鬼は?」
「肩からツノが生えてるのがそうよ」
「頭からじゃないんだ?」
「地獄の本丸から抜けてきた鬼は職責ほったらかしで暴力が趣味のゲスのハンパ鬼だから頭じゃなくて肩から生えてるのよ」
「うわ! あの鬼、肩にツノが100本ぐらい生えてるよ」
「ああ、ポジト。それがいわゆるボス鬼だな。一番先にやっちまったら後が楽だな」
「あのさ・・・やるって、どうやって戦うの?」
「素手と根性に決まってるでしょ」
「あの、僕ただの人間なんですけど」
「ポジトは運動神経抜群なんだろうが。適当に殴っとけば倒せるだろう」
「さ、いくわよ」
「ちょ、待って!」
待てない待てない。
さて、宣戦布告、っと。
「はーい、鬼のみなさーん、こんにちはー」
「なんだ、君は。授業中だぞ」
「センセー。『努力しないやつはいじめられても仕方ない』なんて鬼みたいなこと言っといて、今更人間ぶらないでよー」
「なんだと⁈」
「わたしはウツムキ。知ってんでしょ?」
「あ⁈ あの、地獄の鬼たちをウツ状態にして亡者どもの暴動を煽動した陰鬱魔王か⁈」
「ちょっと人聞きの悪いこと言わないでよ。遥か昔の話よ」
「え・・・プサム、もしかしてウツムキって怖い人なの?」
「人っていうか世界中の鬱気が集まってできた擬似生命だからな。要は鬼ですら気が塞ぎこんだら苦悶して動けなくなるってことだ」
やだなあ・・・ポジトくんの前でわたしのイメージダウンだよ。
さっさと終わらせよう。
「どーでもいいから一番強い鬼とわたしがやり合って勝敗決めようよ」
「そんな都合のいいサジェスチョンに乗れるか! そおらあっ!」
ああやだやだ。
なにかといえば暗雲立ち込めさせて雰囲気ばっか作って。
よいしょ、と。
「ぐえええっ!」
「はい。無能教師1匹廃鬼処分」
「え? 今何したの?」
「ポジト、速くて見えなかったろう。鬼の脳内のセロトニンを一気に減少させて神経伝達系統を破壊したのさ。ほれ。もはや廃人ならぬ廃鬼だ」
「ううう・・・・俺はもう鬼を辞めたい・・・」
「辞めちゃえ辞めちゃえ。センセーのくせにいじめ蔓延の空気を教室に作ってたんだから。今度はアンタが鬱の無限ループをさまよう番よ!」
「ああ・・・苦しい・・・もう嫌だ・・・」
さて。残りは、1、2、3、4・・・・全部で10匹か。どうしてくれようかしら。
「おい、ウツムキ。俺にも少し残しとけよ」
「えー。プサムはやりすぎちゃうからダメよー。それよりポジトくん、やってみない?」
「え? い、いいよ、そんな」
「ほら、試しにさあ」
とっ、とポジトくんの背中を押してあげて・・・と。
「ととと・・・ええっ⁈」
「なんだ、ただの人間じゃないかあッ!」
「金棒で粉砕してくれるわッ!」
「ウツムキ! 助けてよ!」
「だいじょーぶだいじょーぶ。ポジトくん、前向きMAXのこと想像してみて」
「え? 前向き前向き・・・」
「グアアッ! 喰っちまうぞ!」
「わー! えとえと、隕石が当たって骨折したけど、国の賠償金で豪邸建てた!」
なんてポジティブっ!
「ガアアア! く、苦しいっ!」
「なんだこのヤローの前向き加減はあっ⁈」
「やめろー! そんな前向きな話は即刻やめろー!」
「もう遅いわ! ポジトくん、トドメよ!」
「ザルそば頼んだらうどんも一本混じってて超ラッキー!」
ゴオオオオオオオオオオオン!
「おー、ポジト、凄いぞ! 全員消えた! 同時廃鬼だ!」
「いえ、まだよ」
ほらほら。やっぱりツノ100本の鬼はビクともしてないわ。
やだなー、一番下品なのが残っちゃった。
「ウツムキぃ、400年ぶりだなッ!」
「あら。どこかで会ったかしら」
「あの亡者どもの大暴動の時、おのれに自殺寸前まで追い込まれた
「ああ、あの時の。他人をいたぶるのを快楽にしてたんだから、そのしっぺ返し、ってだけよ」
「うるさい! 俺はこの学校であの小娘をいじめて愉悦しとったのに、またもや邪魔しやがって!」
「黙りなさいよっ! 昔っから弱いものいじめが大得意のくせに『神』なんて名のるんじゃないわよ!」
「弱いものいじめ?」
「ポジト。この百鬼神はなあ、極楽に行くはずの善人の閻魔帳を改ざんして地獄に墜とし、勝手に新しいバージョンの地獄を作っていじめ抜いてたんだ。おぞましい、ただ残酷なだけの地獄をな」
「ふふふ、プサム。お前はその時閻魔帳の管理不行き届きの責任を取らされて未だに猫の姿のままか。憐れよのう」
「ふっ。その代わりお前のような外道が改ざんした閻魔帳を推敲・訂正する力を閻魔様からいただいたがな」
「あ・・・プサムってすごいんだね」
「ポジト、今頃気づいたか。それでこの外道鬼どもを鬱で一網打尽にして無実の亡者を極楽に戻したのがウツムキなんだよ」
「さ。そろそろいいかしら。百鬼神ちゃん、どっちがいい? わたしのネガティブエネルギーで永遠の鬱状態でくるしむのと、ポジトくんのポジティブエネルギーで蒸発しちゃうのと」
「ふふ、どちらもノーだ」
「じゃあ、俺がお前の閻魔帳書き直して3分後に八つ裂きになる運命作ってやろうか」
「ふふふふ。プサム。ほざいてると足元掬われるぞ」
あ。
しまった!
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