イソーローなら3杯ごはんを食べてからにしろ!
「ということでワープするから」
「はあ? ワープ?」
「あ。ポジトくん、SFとか嫌い?ワープワープ」
「知ってるけど・・・どこへ?」
「地獄」
「え。ちょっと待って。地獄現地へ行かないとポジティブシンキングを釜に注げないのか?」
「そう。わたしはつまりポンプの役割をする」
「ああ。なんとなく分かる」
「わたしのポンプはそれなりに強力だけど、地獄に届けられるほどじゃない。まあ、観光だと思って」
「いやだ。行って僕に何のメリットがあるって言うんだ」
「分かってないねえ。ポジトくん自身も救えるんだよ」
「え?」
「ウッチー。ポジトに説明してもわからんだろう」
「ううん。分かるようになってもらいたい。ねえポジトくん。釜の淵にいるのはポジトくんのご先祖かもしれないよ」
「うーん。なんかピンと来ないなー」
「じゃあ・・・ポジトくん、好きな子いる?」
「え。何を急に・・・」
「もちろんわたしを別格として、せいぜい同じクラスの普通レベルの子の中で」
「なんか酷い言い草だけど・・・うん、いる」
「その子が今現在、地獄の釜の淵にいるかもしれないわよ」
「え? なんで? だって、その子は僕と同じ学年・同じクラスで・・・その・・・生きてるし!」
「あら、そう? でもね。本当の事実はこう。『あなたの他に同時にあなたの生まれ変わりが色んな世界に存在する。あなたが愛する人の生まれ変わりも色んな世界に色んな時間軸に同時に存在する』」
「え」
「もしあなたの好きなその子が、今、その場所・その時間に地獄の釜に落っこちちゃったら・・・目の前にいる好きなその子も、タダでは済まないと思わない?」
「・・・・」
「ポジト、お前ら人間が思ってるほど物事単純じゃないんだよ。お前の好きな女の子は地獄の釜の真ん前じゃ、ウダツの上がらないおっさんの姿かもしれない」
「え?」
「そのおっさん姿の実はその子が釜に落っこちちゃったら、クラスの同一人物のその子も消えていなくなるかもしれんぞ」
「プサムの言ってることは、ほんとだと思わない?」
あ。
やっぱりポジトくんって純粋〜。
真剣に悩んじゃって。
ちょっとかわいそうだったかな。
「行く」
「おっ!」
「うーん、男の子」
「ねえ、ウツムキ」
「はいはい。な〜に〜?」
「ワープってどうするんだ?」
「簡単だよ。2センチほどジャンプするだけ?」
「え?」
「ポジト、時間が流れてるのはベルトコンベアの上に乗っかってるのとおんなじだ。なんとなく、わかるか?」
「うーん・・・なんとなく」
「そのスピードが実は超高速だったとしたら、ほんの2センチ真上にジャンプするだけで足元のベルトコンベアが過ぎ去って別の時間に移動してるって寸法だ。空間軸についてもおんなじだ」
「そうそう。プサムの説明分かりやすいでしょ? ということで、わたしたちの足元に軸をむき出しにしたから」
「わ!」
おー。ポジトくん、怖がってる。
そりゃそうか。無数の細い軸の下は奈落の底だもんね。
「じゃ、行くか、ポジト。因みにポジトの好きな子ってどんな子だ?」
「プサムにもウツムキにも死んでも言わない」
「うーん。その割にはわたしとのファーストコンタクトを告白と勘違いしてあまつさえキスまでしようとしてたよねー」
「う・・・男だから仕方ないじゃないか」
「はいはい。ところで、行く前に、あれやらないと」
「なんだ?」
「イソーロー。三杯目にはそっと出し」
「・・・ごはんか。わかった。母さんに見つからないように用意するよ」
いやいや。人間のごはんっておいしーよね〜。
まあ、最後の晩餐にならないことを祈って、行きますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます