第10話 僕のマンションで紗耶香が泥酔した!
大学3年の授業は4月13日から始まるとのことで、4月初めに紗耶香ちゃんが上京してきた。
紗耶香ちゃんの両親からはいつ一緒に住むことになっても構わないと3月の婚約の際に耳打ちされていた。紗耶香ちゃんの気持ち次第だが、僕も急ぐことはないと思っている。
11日(土)にデートしようと電話すると、紗綾香ちゃんは僕のマンションへ来たいと言った。紗耶香ちゃんの意図は分からないが、一度ぐらいは招待しておいてもいいかなと、承諾した。
夕食を僕が作ってご馳走するというと、私も手伝って一緒に作ろうということになって、二子玉川で材料を買うために午後3時に改札口で待ち合わせをした。
「今日は何をご馳走してくれるんですか?」
「ああは言ったけど、料理らしいものはできないんだ。お好み焼でどう?」
「へー、食べてみたい」
「フライパンで焼くだけだから簡単だし、ビールでも飲んで食べるとするか」
「ほかには何ができるんですか?」
「うーん、簡単なものだと、野菜炒め、生姜焼、牛丼、親子丼、カレーうどん、肉じゃが、シチュウ、カレー、あとは餃子くらいかな」
「学食や定食屋さんで出るのと同じメニューですね」
「いつも食べているものなら味付けも分かるからね。紗耶香ちゃんとお母さんが作ってくれた料理には太刀打ちはできない。期待しないで」
それから駅のスーパーで材料を買った。食後のデザートも仕入れた。アルコール類と飲み物は買い置きがある。
電車で2駅の高津で下車。そのまま、川崎街道沿いを10分位歩くと僕のマンションがある。
ここに越す直前にできたマンションで、この部屋には僕が始めて入居した。3階の1LDK。駅からは少し遠いので家賃は駅前よりも安かった。
ドアを開けて紗耶香ちゃんを先に入れる。部屋を案内する。キッチンとリビングが一体となっていて10畳ほどある。テーブルと椅子が2脚、ソファーと座卓、大型テレビが置いてある。
横に部屋があり寝室兼書斎にしている。ドアを開けると紗耶香ちゃんが興味深そうにのぞき込む。中にはセミダブルのベッドと机と本棚だけ。机の上にはパソコン。
覗き込んでいる紗耶香ちゃんの肩に手をかけると、驚いて身体を固くする。しまったと思いながらドアを閉める。紗耶香ちゃんの反応から気にしていると思った。
冷蔵庫からジュースを取り出して2つのコップに注ぐ。まだ、4時なのでお好み焼を作るのは5時からにしてソファーに戻って一休みする。
「いいお部屋ですね」
「気に入っている。2年前に本社へ転勤になった時に独身寮からここへ引っ越した」
「紗耶香ちゃんと結婚する時には、もう少し広いところを探そうと思う」
「私のところに一緒に住みましょう」
「確かに紗耶香ちゃんのところは2LDKだから住めるかもしれないけど」
「父は8割方払い終えたと言っていました」
「相当に高いよ、あそこは」
「私の我が儘を聞いてもらって感謝しています」
「ご両親は紗耶香ちゃんをそれは大事にしている。良く分かっているから僕も大事にする」
紗耶香ちゃんが身体を預けてくる。でも肩を抱き寄せると身体を固くする。ちょっと震えているのが分かった。
そういえば紗耶香ちゃんとはいままでキスもしていなかった。婚約までしたのにする機会がなかったと言えば本当になかった。紗耶香ちゃんの家でも抱き締めただけだった。
身体をそっと引き寄せてキスをした。唇が柔らかい。紗耶香ちゃんはすぐに顔を僕の胸へ埋めた。髪を撫でながらしばらくそのままでいた。
「お好み焼の準備をしましょう」
紗耶香ちゃんが立ち上がった。目が潤んでいる。
「はじめよう」
二人はお好み焼作りに取りかかった。僕が材料を切ってボールに入れる。長芋を卸す。小麦粉、卵を入れる。かき混ぜて準備完了。ほどほどにかき混ぜるのがポイントだ。
1枚焼いて、ソースを付けて、鰹節、紅ショウガ、青のりをトッピングして、最後はマヨネーズで出来上がり。
2枚焼いたら焼きたてを二人で食べる。紗耶香ちゃんは成人しているのでビールで乾杯した。
「ビールってこんなにおいしいものだったんですね。お好み焼と合いますね」
「ええ! ビール飲むのは初めて?」
「はい」
「大丈夫?」
「大丈夫だと思います」
大丈夫ではなかった。お好み焼を2枚ずつ食べ終わったころ、500mlの缶ビールが2本、空になっていた。紗耶香ちゃんは饒舌になって機嫌がいい。
大学であった面白い話をしてくれている。一見すると酔っているようには見えなかった。アルコールは後から回る。
食べ終わって、後片付けをするときに、紗耶香ちゃんがよろけた。倒れそうになるので受け止めた。危なかった。そろそろアルコールが回るころだった。
ソファーまで連れて行って座らせる。もう半分眠りかけている。そのままにして、後片付けをする。
15分くらいで片付けは終わった。紗耶香ちゃんはどうしているかと見ると、完全に酔いつぶれて眠っている。可愛い顔をして眠っている。よだれを垂らしている。可愛い! いつまで見ていても飽きない。
このまま、ソファーで寝かせておくのもどうかと思い、寝室のベッドに寝かせることにした。そっと抱きあげて寝室へ運ぶ。軽い! 華奢な身体だ。いい匂いがする。
その途中、紗耶香ちゃんが目を覚まして僕を見ている。精気のない目で僕を見つめていると思ったらあっという間もなくキスされた。それからまた眠ってしまった。ベッドに寝かしつけて、部屋を出た。やれやれ、ビールを飲ませ過ぎた。
朝「キャー」という大声で目が覚めた。僕はソファーで眠っていた。紗耶香ちゃんの声だ。飛び起きて寝室へ駆けつける。
「どうした?」
「私はどうしたんでしょうか?」
「昨夜、酔いつぶれていたので、ここへ寝かせたけど」
「お好み焼を食べていましたよね。ソファーに坐って、それから覚えていません」
「夢を見たんです。いつもの夢。誰かに抱きかかえられて運ばれていて、誰かと思って顔を見たら先生だった。嬉しくて抱きついてキスをしたんです」
「確かに抱きかかえて寝室に運んでいたら突然キスされた」
「正夢?」
「寝ぼけていたみたいだったけど」
「実は、僕もソファーで寝ていて夢を見た。いつもの夢だけど、人影を見つけて呼んだら、こちらを向いたのが紗耶香ちゃんだった。悲鳴が聞こえたので目が覚めた」
「不思議ですね」
二人で同じような夢をみていたようだ。
「紗耶香ちゃんはお酒に弱いんだね」
「両親もお酒はだめで、私も弱いだろうからと、両親からお酒は絶対に飲んではだめときつく言われていました」
「ごめん、そんなこと知らないでビールを勧めてしまって」
「ビールはおいしかった。先生が勧めてくれるので、せっかくだから挑戦してみました。万が一のことがあっても先生がいれば大丈夫だと思っていました」
「今後はお互いに気を付けようね」
「はい、先生以外の人とは絶対に飲みません」
「その方がいい」
紗耶香ちゃんの酔いはすっかり覚めていて、二日酔いもなかった。それで朝食の準備をしてくれた。二人で食べてから、二子玉川のマンションまで送って行った。紗耶香ちゃんはご機嫌で帰って行った。
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