『法具店アマミ』の休暇の日 休暇の計画を立てよう

 身寄りのない子供達や、そんな子供達が冒険者養成所に入所して卒業した後、斡旋所から仕事を頻繁に引っ張ってこれるまでの新人の冒険者達が『法具店アマミ』の開店の一時間くらい前に、店主による勉強会もどきへの参加のため集まってくる。

 その数、毎日二十人前後。

 その準備にも時間がとられてしまう三人の朝は忙しい。


 そんなわずかな朝食の時間。


「で、異性、異種族の裸を見たいからって、何も無理矢理口実作らなくてもいいだろうよ」


「見たくてテンシュの部屋に行ったんじゃないんだってばっ」


「一体何なんだろ、この二人の関係……」


 店主の突き放す態度は丸くなってきたものの、シエラには毒の吐き方や煙に巻く態度はそんなに変わらないように見える。

 セレナは切り出したい話題がまともに挙げられない。


「お店を休んでどこかにお出かけしたいんだそうですよ、セレナさん。三人で一緒に骨休みしたいとか。そのお出かけ先が、素材集めしやすい場所だったりするなら賛成したいな。テンシュさんがセレナさんと一緒に素材集めなんて、ちょっとワクワクするかも」


 冒険者達は魔物や魔族を討伐した際に、道具作りの素材として死体やその一部を利用するために持ち帰ることがある。

 斡旋所からの依頼にもそんな内容のものは数多い。

 だがその対象が生き物に危害を及ぼす存在なだけに、冒険者や戦争従事者以外の一般人がその仕事をすることは絶対にない。

 しかし物が持つ力を判定出来る店主がその現場に居合わせたら、セレナとの互いの仕事にどれだけ刺激を与えるだろうという、言葉にできない期待感がシエラの中で高まっていく。

 もっとも店主の性格は解っている。

 自分の仕事に関係があるものには関心を持ってはくれるが、今まで仕事のペースはあまり変わらない店主からみれば、自分の休日や休暇すら関心がない。

 そんな性格をシエラもセレナも理解はしている。何故か休日の計画を焦るセレナにシエラは、搦め手なりを考えればいいのにとやきもきする。


 が、二人のそんな予想を店主が覆す。


「店を休むにしても、朝に集まるあいつらの世話どうすんだ? 朝飯の世話はしたこたぁねぇからそこまで考える必要はねぇが、勉強会をアテにしてくる奴は割といる。それもこっちご心配する必要もねぇが、あいつらだって生活サイクルはあるだろ」


「いつぞやみたいにお二人に急に消えてもらっても困りますから、いつからいつまでお休みして、いつから再開しますって掲示するしかないですねっ」


「じゃあ私達冒険者の仕事の実践の見学ということにしたらいいじゃない! あの子達の勉強になるし、常連の冒険者チームにも保護者役頼んでさ」


 頭ごなしに却下されるものと思い込んでいたシエラは、話が進むことばかりではなく、自分の期待が現実になりそうな話の展開になりつつあること驚いている。


「っつーことで書いとけな、シエラ。…シエラ? 話聞いてるか?」


「は、はい? あ、すすいません。ちょっと寝ぼけてました」


 店主が店を休ませることに賛同したことが信じられないシエラは、もちろんそれを口にはしない。

 店主が気まぐれを起こして、やっぱり止めたと手のひらをひっくり返すきっかけになりかねないかもしれなかったから。


「……今日から十日後、三日間、セレナの冒険者の仕事見物のため休むって」

「見物じゃなくて見学でしょ!」


「じゃあ見学希望者も募らないとですね」


 事情を何とか把握したシエラはその話題に再度参加する。

 しかしもうじき子供達が集まる時間。


 休店の話はそこで終わり、三人は急いで朝食終えた。

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