引っ越しまでの…… 情報交錯
「というわけで、けんもほろろと言いますか……。まぁいつもと変わらない様子ではありました」
「でもセレナさんは何となく元気がなさそうな。いずれ、すぐに追い出されてすぐに戻って来たという訳です。ということで、折角久しぶりに二人揃ってお休みを頂いたわけですが……」
天流法国首都のミラージャーナにある皇居の玉座の間。
ライリーとホールスは法王ウルヴェスに報告をする。
彼らの休暇は自分の都合のいい日にできない。ウルヴェスによって定められる。
そして休暇の日にはなるべく首都に留まらず、外遊して見聞を広めるように指示されている。
ところが予定通りにはいかなかったこの日の二人。ウルヴェスにしても、行ったかと思ったらすぐ帰って来たのだからその理由を知りたいのも道理。ライリーとホールスには何の悪気もないが、結果として『法具店アマミ』での出来事をウルヴェスに報告をする流れとなった。
「七日間か。何者かの差し金であの村から追い出されることになったとしても、移転先は探さなければなるまい。長ければ片道三日と半日。このミラージャーナにも届く距離ではあるが、わざわざ竜車を使うか? いや、そもそも追い出す細工を何者かがしたとしても、テンシュが目立ったことと言えば巨塊騒ぎと碁盤の選定のみだ。妾、いや、皇族を手玉に取ろうとする者の企みだとするならそこまで首尾よく事を進められるかどうかだが」
二人を玉座の間から退室させた後、ウルヴェスは一人で思案する。
反対派の工作によりあの村を追い出されたとしたら、その責任は自分にある。自分を毛嫌いしている店主を何としてでも保護してやらねばと強く思い始め、再度二人を玉座の間に呼び出す。
「何度も呼び出してすまんな。頼みがある。今日一日で出来る限りで良い。首都の不動産を当たり、昨日まで契約成立した土地はないか調べて来てくれぬか?」
ライリーもホールスも、法王は店主の事を気にしていることに勘付く。
しかし法王は余計なことを口にしない。探りを入れるようなことを口にして粛清を受けた者達がいることを先代の暴君の行為を目耳にしている二人はそれを教訓としている。
ゆえに余計なことを口にせず、ただ素直に法王の使いの役割を果たすために玉座の間から出発した。
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天流法国某所。
「アムベス、聞いたか?」
「何をだ。それより貴様の工作とやらはどうなっている?」
「ふっ。今その話をしようとしていたところ。あの道具屋の主、滅多に休まない店を七日程留守にしていたようだ」
「……単刀直入に言え。貴様の言うことはまどろっこしくてイライラすることが多くあるぞ?」
「分からぬか? いよいよあの村では居場所がなくなってきたということよ。引っ越し先を探しに行ったのであろう」
「行き先がどこか分からなければ、これ以上あの者に手は出せぬであろう?」
「竜車を使って移動したそうだ。ということは、おそらく目的地はここだろうな。でなければ馬車を使うはずだろうからな」
「ならば不動産を当たらせればいいのではないか? 人間とエルフとラキュアの種族が来なかったかと聞いて回ればよい」
「アムベス。それは良くない。法王だってそのことに気付かないはずはない。不動産を探しているうちに、どこの者か分からない者からそんなことを聞かれたとあっては、反対派は存在するということを知られてしまう」
「ならばどうするのだ」
「建物を作るあるいは改修する業者を訪ねて回ればよい。実際にその場所に案内してもらわねば手のつけようが分からないからな。そして自分の事を調べ回っている者がいる、と薄々気づいているのではないかとも思う」
「……つくづく深読みするな、貴様は。それでどうすればいいと思うのだ?」
「なるべく早くその作業を終了するように頼んでいるのではないかと思う。一か月ものんびりしておらんだろう。それに人手を多く集められる業者を尋ねて回ればいい。より早く作業が終わるだろうからな」
「なるほど。深読みはするし知恵は回るし、つくづくこちら側にいてくれて心強いものだ。回りくどい言い方は玉に瑕だがな」
「それには目をつぶってくれ。こんな物言いが好きなのでな」
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