非力な力を結集させて 1

 原因不明の意識不明に陥ったセレナ達の救出するための作戦が議論されている『法具店アマミ』の店内。

 推測の域を出ないが、目の当たりにした情報から推理を積み重ねた店主に待ったをかけるギース。


「ちょっと待て! 説明は聞いた。だが俺らが選ばれた理由まで聞いてねぇ! なんで俺なんかを選ぶんだよ!」


「その小男が言ってたじゃねぇか。忘れたか?」


「ギスモのやつが俺に? 何か言われた……あ……」

 ギースからの焦りのこもった問い詰めにも店主は冷静に応じる。


 ギースはその答えを見つけた。


 彼にとってその事実は、気のいい仲間たちとチーム結成に至り、店主から自分に適した道具を提供してもらったきっかけでもあるが、子供の頃に思い描いていた将来の選択肢から故郷に住み続けるという希望を抹消された原因でもあった。

 その事実を店主の口からは突きつけられなかったのは、ギースには店主からの思いやりのような気がした。

 恐らく彼らもその答えに気付いたのだろう。我に返ったギースは、心配そうに自分を見る仲間四人がそばにいることに気が付く。


「お、お前らが気にするこっちゃねぇよ。お、俺だってアテにされることがあんだなってことが分かっただけでも収穫だよ、うん。リーダー! ミュール! お前らもだぜ? それに俺達みんなにそれぞれ見合った道具を作ってくれたテンシュの言うことだ! 間違いねぇよ! けどテンシュ、あんたこっから出ちまうと……」

 ギースは店主の身を案じる。

 しかし店主の気持ちは既にそこにはない。


「言ったろ? タイムリミットは俺が店から出てから二時間って。多少はオーバーしてもいいが倍以上かかるのは勘弁してくれ。でないと向こうで俺の部下に怒られる」


 向こうの世界でどんな生活をしてるんだろう?

 他人事ながら店主の心配をする知り合いの面々。しかし今はそれどころではない。


「けど往復の移動だけでそれくらいかかってしまいます。動物車で移動なら一時間強で往復できるでしょうがあくまでも洞窟の入り口までで、洞窟のどの場所までかは測りかねます」


「飛行能力を持つ者達の力を借りれば、さらに移動距離は縮まりますし時間も短縮できるでしょうね」


「おおっとそいつはタブーだぜ? 攻撃魔法発動や武具を出すどころか、種族特有の特殊能力発動も禁じられてるっての知らねーのかよ? だから馬鹿共っつってんだよこぉんのばぁかが!」


 ここぞとばかり全員を罵るギスモ。

 しかしギスモからの指摘には誰もが歯がゆい思いを持つが。間違ったことを言ってはいない。

 そうでなければ町の風紀に関わることにもなる。

 しかしとんでもないところから援護の発言が出る。


「非常事態ならば許される行為です。ましてやどっちつかずの状態や、一般的に禁止と思われる行為でも公共的立場からの私共の判断で覆されることは度々ありますよ?」


 その発言者が、国から勅命を受けた者達からの発言だった。


「どのみち洞窟の入り口までだ。そこからは自力で移動しなきゃならん。ましてや帰りは」

「帰りは俺達は徒歩でもいいだろうよ。要救助者とテンシュは急いで戻れれば問題ないんだろ?」

 ギースはすでにやる気十分の様子。


「だが道具を使えりゃもっと早く済むんじゃねぇか? 時間制限もなくな。こうして議論しているうちにも時間は経っちまう。建物ごと倉庫ぶっ壊して道具取り出しゃ問題ねぇだろ。緊急避難みてぇなもんじゃねぇか」


「ちょっとワイアット! いくらなんでも……急にどうしたの?」

 ウィーナが急に乱暴な発言をするワイアットを抑える。


「そろそろ丸一日経ちそうって時間だぜ? 昨日の午後三時だったろ? 長時間そこにいたらまずいだろ。道具使うか使わねぇか。それだけでも手段の方向性が変わって来る。ギスモに振り回されてばかりもいられねぇ。こいつなしで話を進める方がかえって早ぇ。国の役人さんがいることだし、俺の緊急避難の意見についてはどうなんだよ」


「緊急避難として、その道具を使うために必要な行為であるならば、その行動を許可するのも吝かでは」

「却下だ。この小男が村長や町長に圧力かけて国にまで問題を持ち込ませねえとも限らねぇ。そしたら俺は魔女裁判の被告人。即刻縛り首になりかねん。そうなったら俺の世界の国々とこの世界とで全面戦争にまで発展すんぞ? ここがどこまで田舎なのかは知らねぇが、国から派遣されてきた者達まで出張ってきてんだ。一歩間違えりゃ事態は即座に大事になる」

 国の役人の発言すらも即座に拒否したのは店主。


 貸しは作っても店主が我慢すれば事は済む。だが借りを作ったら店主の立場が将来危うくなる可能性がある。


「ちょっといいかい? 人一人担いで移動するだけならあたしもできるよ。駆けっこだけなら上位二十、いや、飛行種や単独冒険者十傑(アローン・テンポイント)だって敵いやしないさ。どんな法にだって触れやしないしね。テンシュさんをあたしの体に縛り付ける切れないロープがありゃそれで充分さ。任せな」


 『クロムハード』のニードルがニヤリと笑いながら、自慢のダチョウのような長く丈夫な足を誇らしく見せつける。

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