嵐の後で 3
店主は双子に、この店の客に関して別の視点から話し始めた。
「お前らが客としてくる前に、俺としちゃ迷惑な客も来た。俺は別にどんな対応したって構やしねぇよ。けどお前らはそうじゃねぇよな? 乱暴な客をやり過ごしてめでたしめでたしってわけにゃいくめぇよ。冒険者が依頼を探すとこなんざ見たことねぇが、お前らが冒険者を本業とする、あるいはこの町で生活するとなりゃ、町中や斡旋所でその嫌な客と顔合わすこともあるんじゃねぇの? お前らは弱いからちょっかいかけてきたって理由ならまだ救いはあるさ。お前らが成長してあいつらを圧倒するくらい強くなりゃ解決できるんだからよ。だがそうじゃなかったろ? 種族を見下してちょっかいかけてきた奴だ。お前らが上位二十とやらに入るくらい強くなっても喧嘩売ってくる材料は消えねえ。しかも格下だとも思い込んでたら、ひょっとしたら夜中にこの店に火つけに来るかもわからんぜ」
「バカなこと言わないのっ!」
セレナは呆れながら店主を怒鳴る。
しかし店主の言葉で固まる二人。
セレナは真に受けなかった店主の話だったが、二人は真剣に店主の話を聞いていた。
「ちょ、ちょっと二人ともっ。そんなことあるわけないから。ホントにそんなことしに来たら、その気配でわかっちゃうし。大丈夫だからっ。ねっ? ……ってテンシュっ! 泣いちゃってるじゃないこの子たちっ! まったくもう! ほら、泣かないの、ね?」
ウィーナが涙を拭いてセレナを見据える。
「私達、門番しますっ!」
ミールもそれに続く。
「絶対ここを守ります!」
「ちょっと、テンシュ! あなた何てこと言うのよ!」
二人のただならぬ決意の宣言を聞いて慌てふためくセレナ。
余計なことを言うんじゃないとばかりにセレナは店主を睨むが、店主はすでに食事を再開。
視線を上げずに口を開く。
「お前ら二人にゃ用事がある。さっき言ったよな? 道具を引き取りに来いって伝言を『クロムハード』に頼むってよ。どちらかが朝一番であいつらを連れて来い。その間どちらかが留守番。セレナ、お前も道具完成まで付き合ってもらうぜ。ま、すぐに住む作業だろうがな」
「今それどころじゃ」
「だから門番なんてやってる場合じゃねぇんだよ。寝不足でぶっ倒れられても困るんでな。早寝早起きで駆けつけて来い。んじゃあとは今日の給料。セレナから貰っとけ。セレナ、分かってるよな?」
セレナの文句を制する店主。そんな言い争いよりやらなければならない大事なことがある。
確認するまでもないが、分かってない無神経な奴だったら全く考えもしないだろう。
だが改めて口にする。
「今日のゴタゴタで店が乱雑にならなかったのは、こいつらが徹底して立場を弁えたからだ。もし冒険者としての正義感みたいなもんを持ち出されたらどんだけ被害を受けてたか分からん。日給に賞与加えるのが普通だろうよ。俺からの評価はそんくらいだ。あとは種族で優劣を決めつける連中の存在だが……言うことは一つだけ」
店主はそこで区切る。三人は食べ終わった店主の動きに注目する。
店主はそこでようやく視線を三人に向けて一言。
「バカは死ななきゃ治らない」
店主はそう言いながら席を立ち、振り返らずに店の出口に向かう。
その動きは双子に、そんな奴は相手にするな気にするなと伝えているように見える。
双子は目を輝かせながらその場で見送る。
キッチンから店主の姿が見えなくなると、双子は一緒にセレナの方を向く。
「明日こそは頑張りますから!」
「きちんとやりますから!」
そのメッセージを受け取った双子。力がついたわけでもない。実力が伸びたわけでもない。
しかしその気持ちは吹っ切れたような顔をしている。
だがセレナは三人に気持ちがついていけてない。その場に居合わせなかったせいか。
それでも沈んだ気持ちよりはいくらかはいいかと思い直す。
「う、うん、頑張ってね……」
給料袋を渡しながら二人に作り笑いで返すのがやっとであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます