バイトにて、ミールの災難 1
夕食を済ませ、何度か足を運んだことがある『ホットライン』の拠点へ出かけるのは双子の妹のミール。
二人がかりで行くような難しい仕事ではない。ただの伝言である。
とは言え、ウィーナはただ店で待っているだけではない。
バイトは久しぶりだったので仕事を忘れているかもしれない。
その確認の意味で、夕食の片付けを終えたセレナから帳簿の付け方を指導してもらう。
「来客がゼロだったら確認も何も話にならなかったから、一応は勉強にはなっただろうから良かったね」
そう言って笑うセレナへ、どう反応すればいいか困るウィーナ。愛想笑いをするしかない。
初めてのバイトは『法具店アマミ』だった。それだけ印象に残っていることはまだ覚えている。
まず、客があまり来ないということ。そしてひどい目に遭ったこと。
特にひどい目に遭ったのはミール。
キューリアに杖を奪われて、返してもらった際には店主から平手打ちを食らった。
そのミールに『ホットライン』への伝言を頼んだ店主には他意はないだろうが、ミールはちょっとだけ体を強張らせた。
模擬戦で何度か相手をしてもらった『風刃隊』だが、訓練や実戦で対面するのとプライベートでは心の持ちようも違ってくる。
「ただノックして誰かが出てきたら、『テンシュが全員分の道具を完成させました。明日の朝一に来てください』って言って帰って来る。それのどこが難しいんだ? とっとと行って来い。早く終わらせりゃバイト料を上げてやる」
ミールを気遣うウィーナだが、最後の一言に二人は負ける。
斡旋所から紹介される依頼の数が増えたと言っても、一件当たりの謝礼や報酬も上がるわけではない。
店主の思い付きの一言だろうが気まぐれだろうが、少しでも収入は多い方がいい。
それでも店に残ってやる仕事はすぐに終わる。
その後でウィーナは店主から別の仕事を言いつけられた。
「明日朝一番に来るだろうから、すぐに渡せるようにここに持ってきておこうか。今日完成した物はここにあるが、五人分は倉庫の方にあるから持ってきてくれ」
ウィーナはお安い御用とばかりに張り切って倉庫に向かう。
それが終わり、ミールが帰ってくれば今日の仕事の予定はすべて終了。
しかしミールは、すぐには帰って来なかった。
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「キューリアさん、やっぱどうも苦手なんだよねぇ。お姉ちゃんに替わってもらえばよかったかなぁ……」
夜道、と言うほどの遅い時間ではないが、どちらかと言うと女の子の部類であろうミールは一人とぼとぼと歩く。
女の子が一人で夜道を歩く。
危険な場面ではあるが、外見では女の子とは思えない装備をしている。
シルエットだけでも十分冒険者と分かる姿。彼女にとって危険なことは、自分よりも攻撃力が高い者に襲われることくらいか。
しかし繁華街ほどではないが、斡旋所の付近では賑やかさが目に付く。情報収集に一役買っている酒場がいくつか存在するためだ。
ミールが襲われた時は、次に襲われるのは自分かもしれないということで、おそらく酒場にいる冒険者全員が応援に駆け付けるだろう。
冒険者チームのほとんどの拠点はその界隈にある。つまりミールにとっては安全圏にいるとも言える。
「あれ? ミールちゃん? ミールちゃんじゃない。どうしたの? こんな時間に」
このような田舎での酒場付近では、町を行き交う者達は日中よりも多い。
そんな中でふいに呼びかけられたミールは、声の元を探す。
「あ……キューリアさん……」
「あなたも買い出し? まさかお酒飲みに来たんじゃないよね?」
どうやらキューリアは、チームのために消耗品などの買い物から帰る途中らしい。はちきれんばかりに膨らんだ袋を両手それぞれに持っている。
「の、飲むつもりはないですが、飲みに行けるほどお金持ってないです……」
キューリアにすれば軽い冗談のつもりだったが、ミールへかなりのダメージを与えてしまった。
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